ヨーゼフ・アントン・ブルックナー(Joseph Anton Bruckner / 1824年 - 1896年)
没後130年に寄せて、ブルックナー交響曲探訪シリーズを掲載しています。
総合概説の後、第00番から作曲年順に各交響曲の探訪を進めています。
今日は、ブルックナー・ファンの間では最も評価が高いと聞き及んでいるものの、
一方では最も難解とも感じられる大曲、交響曲第5番を探訪します。
和声的な書法を中心としてスッキリまとまった第4番に到達できたブルックナーが、
今度が対位法的な書法に主眼を置いて思い切りやりたいことをやり尽くした結果が、
この第5番として結実したのではないかと、私個人としては推察しています。
決してわかりやすい作品ではありませんし、第8番と並ぶ大曲でもありますから、
ブルックナー初心者がいきなり聴くことはお勧めできません。
ある程度ほかのナンバーを聴いた上で第5番に挑戦することをお勧めします。
やりたいことをやり尽くした自信作でもあったのではないでしょうか。
ですから、作曲者自身による大きな改訂はなされていない数少ない作品となっています。
但し、規模があまりに大きかったためなのか、難解なスコアと思われたためなのか、
初演の機会にはなかなか恵まれず、1894年になってようやくフランツ・シャルクの指揮で
初演されましたが、それもシャルクによる大幅改訂版での演奏でした。
しかも老年期に入って病弱だったブルックナーはその初演に立ち会うこともできませんでした。
原点版の初演は1935年にミュンヘンで行われたということです。
版や稿の問題も含めて、ブルックナーの交響曲の受容が必ずしも順調に
広がったわけではなかったことが、この第5番の事例からも窺われます。
♫ ♫ ♫ ブルックナー交響曲探訪 vol.7/交響曲第5番 ♫ ♫ ♫
注釈)交響曲第5番 変ロ長調 - - - 1875-78年作曲 / 1896年出版に際しての大幅改訂版有り
第1楽章 Introduction: Adagio - Allegro (演奏時間:約21分)
荘重な序奏から始まるブルックナー流ソナタ形式楽章です。
序奏の途中で金管によるコラールが挿入されるなど、
この「第5番」ではコラール調の楽想が随所に登場することによって、
宗教的で崇高な作品としての性格が形成されているように感じられます。
提示部に入ると、リズムや音程が特徴的な第一主題、ピツィカートを多用した第二主題、
そして例によって木管も金管も総動員で盛り上がっていく第三主題と続きます。
ブルックナーの全交響曲の中で最も長い提示部と思われます。
序奏の楽想が回帰するところから展開部が始まります。
各主題や動機を活用したさまざまな展開が連続していきます。
主題や動機の原型や反行形を組み合わせていることを容易に聴き取ることができます。
展開部の終盤でクライマックスに到達したところで第一主題が強奏で回帰するところから
再現部となり、第二主題の再現と第三主題の再現が続きます。
そして速度を上げたコーダ(終結部)に突入して、第1楽章は閉じられます。
第2楽章 Adagio, Sehr langsam (演奏時間:約18分)
ブルックナーの交響曲における緩徐楽章の標準とも言える、
A-B-A-B-A-Coda 構成による厳かな音楽です。
特にBの部分(副主題の提示や発展)の崇高な運びには、
後年の「第7番」や「第8番」の緩徐楽章を予感させるものがあります。
また、主題が制度登場する度に変奏が施されていく様には、
ブルックナーが理想としていたと思われるベートーヴェンの「第九」等の
緩徐楽章などに見られる変奏手法との共通性も見出せると思います。
コーダは弱奏による短いものです。
第3楽章 Scherzo: Molto vivace (Shnell) (演奏時間:約14分)
手に込んだ、しかも演奏時間が破格に長いスケルツォです。
私見としては、多様な要素を少々詰め込みすぎてしまっているように思うのですが、
とにかく巨大で複雑なスケルツォです。
スケルツォ主部にも牧歌的な中間部があり、もちろん通常のTrioも楽章の真ん中にあり、
トータルするとABA-Trio-ABA というロンド形式的な複合三部形式になっています。
(類似例としてドヴォジャーク"新世界"のスケルツォが思い起こされます。)
第4楽章 Finale: Adagio - Allegro moderato (演奏時間:約25分)
第1楽章の序奏の楽想による序奏の開始からこの終楽章の序奏が始まります。
クラリネットの第4楽章の第一主題の予告を挟んで、
第一楽章や第二楽章の主題を少々改装した後、
フーガの手法による第一主題の提示に到達します。
続いて、スケルツォに登場した楽想に基づく第二主題が弦楽器主体に奏された後、
第三主題は例によって管楽器も総動員となります。
対位法的な手腕を存分に発揮して書かれたブルックナー流の展開部、
金管によるコラールから始まります。
その後、コラールのモティーフを主題としたフーガ手法による展開が続きます。
そのフーガに途中から第一主題による声部も加わり二重フーガになっていきます。
そして、再現部冒頭での第一主題の再現にもコラール主題がオーバーラップして、
大きなクライマックスを形成した後、第二主題が再現されます。
第三主題の再現には第1楽章の第一主題が組み合わせられています。
それに続く、第四楽章の第一主題が再び顔を出すあたりからが
コーダ(終結部)ということになりますが、更に第1楽章の第一主題も発展的に扱われて、
遂に最後のクライマックスに到達して高らかに全曲を閉じます。
演奏時間が約80分から90分近くに及ぶ超大曲の誕生となりました。
和声的ですっきりとまとまった第4番「ロマンティック」から一転して、
今度は対位法的手法を駆使した巨大な構築物の創造を試みたのだと、私は想像しています。
ブルックナーを相当に聴き込んだブルックナー・ファン(通称"ブルおた")の間では、
この第5番の評価は極めて高いようです。
ブルックナーの壮大なスケールとゴツゴツとした無骨さの共存が最も色濃く現れている
ブルックナーの代表作の一つと言えると、私も考えています。
最後に私の仕事場のライブラリーにあるCDを2種類ご紹介しましょう。
アントン・ブルックナー 交響曲第5番 CD / RCA / BVCC-27
ギュンター・ヴァント指揮/北ドイツ放送交響楽団
もう一枚はとっておきのディスク、晩年のチェリビダッケの悠然たる演奏のCDです。
アントン・ブルックナー 交響曲第5番 CD / Altus / ALT138/9
セルゲイ・チェリビダッケ指揮/ミュンヘン・フルハーモニー管弦楽団
最後に、日本が産んだ世界的なブルックナー指揮者、朝比奈隆がシカゴ交響楽団に客演して、
この「第5番」を指揮して大喝采となった演奏会の動画をリンクしておきます。
朝比奈隆/シカゴ交響楽団客演時の貴重な映像 ↓
Bruckner - Symphony No 5 - Asahina, Chicago Symphony (16 May 1996)
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