リヒャルト・シュトラウスは、
グスタフ・マーラーと並んで、
ドイツ後期ロマン派を代表する大作曲家です。
R.シュトラウスとマーラーは、
若い頃の試行錯誤や葛藤の末、
マーラーは一旦は交響詩を書き始めもしましたが、
やがて絶対音楽的交響曲作家としての道を選び、
一方のシュトラウスは、
多楽章構成の交響曲への未練を断ち切って、
交響詩を中心に発表する道を選びました。
リヒャルトは、やがて標題交響曲も書くようになった後、
後半生はオペラの作曲の道を邁進しました。
###交響詩作品リスト###
交響詩『ドン・ファン』(1888年)
交響詩『マクベス』(1890年/92年改訂)
交響詩『死と変容』(1889年)
交響詩『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』
(1895年)
交響詩『ツァラトゥストラはこう語った』(1896年)
交響詩『ドン・キホーテ』(1897年)
交響詩『英雄の生涯』(1898年)
###標題交響曲作品リスト###
<家庭交響曲(Sinfonia domestica)> (1903年)
<アルプス交響曲(Eine Alpensinfonie)> (1915年)
先週から、これらの作品について、私の想い出等も絡めながら
簡単な解説をシリーズとしてアップしています。
今日は、交響詩の最後となった『英雄の生涯』をご紹介します。
私の仕事場のライブラリーには、このCDが在ります。
R.シュトラウス/交響詩「英雄の生涯」
交響的幻想曲「影のない女」
クリスティアン・ティーレマン指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
グラモフォン / UCCG-50049
###R・シュトラウス/交響詩「英雄の生涯」作品40###
「ツァラトゥストラ」の約35分、
「ドン・キホーテ」の約45分」
を更に凌駕する演奏時間約45分の規模を誇る大作です。
交響詩というタイトルの最後の作品となりました。
通奏単一楽章ですが、下記の通り、自分を主人公とした
6つの部分からなる構成を指摘できます。
♪「英雄」
作曲家自身を象徴するテーマが提示され勇壮に発展する、
提示部の相当する部分です。
♪「英雄の歌」
スケルツォに相当する楽想が繰り広げられます。
周囲の無理解や非難を表す木管楽器群の動機が
次第に圧倒しますが、やがて主人公の英雄は再起します。
♪「英雄の伴侶」
緩徐楽章に相当する部分です。
独奏ヴァイオリンが伴侶を象徴します。
頑なに自分の道を歩む英雄が
次第に伴侶に打ち解けていく様子や、再び敵が現れても
伴侶を得て動じなくなった英雄が描かれています。
♪「英雄の戦場」
展開部に相当する部分です。
敵方の攻撃は激しくなりますが、伴侶の支えも得て
英雄は雄々しく立ち上がり、次第に的を圧倒していきます。
♪「英雄の業績」
再現部に相当する部分です。単なる再現部と言うよりも、
作曲家自身の生涯を重ねて、「ドン・ファン」
「ツァラトゥストラ」「死と変容」
「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」
「マクベス」「ドン・キホーテ」といったこれまでの作品が
英雄の業績として回想される第2部分が続きます。
♪「英雄の隠遁と完成」
終結部(コーダ)に相当する部分です。
田園生活に隠棲しながら、過去を振り返り、
更に内面に沈潜していき、
やがて伴侶に看取られながら静かに息を引き取ります。
多楽章ソナタの構成とソナタ形式を融合させた、
R.シュトラウス風ソナタ形式の完成形とも言える構成です。
音楽的にも充実した筆致に裏打ちされた名作と言えるでしょう。
それにしても、まだ若くして自分を英雄に見立てた
「英雄の生涯」というタイトルの作品を書くという
図々しさと度胸には、驚愕と敬服が交錯します。
YouTube / R・シュトラウス:
交響詩「英雄の生涯」Op.40:
カラヤン/ベルリンPO