映画<2001年宇宙の旅>で大ブレイク!〜交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」 | 松尾祐孝の音楽塾&作曲塾~音楽家・作曲家を夢見る貴方へ~

松尾祐孝の音楽塾&作曲塾~音楽家・作曲家を夢見る貴方へ~

創造芸術は人間の根源的な表現欲求と知的好奇心の発露の最も崇高な形。音楽家・作曲家を目指す貴方、自分の信じる道(未知)を進んでいきましょう。芸術・音楽・文化と共に人生と社会を豊かにしていきましょう。~頑張れ日本!〜がんばろうニッポン!

2014年が生誕150周年の記念の年にあたっていた
大作曲家=リヒャルト・シュトラウスは、
グスタフ・マーラーと並んで、
ドイツ後期ロマン派を代表する大作曲家です。

両者とも、指揮者としても活躍しながら
作曲家としてのキャリアを積み上げていきました。
マーラーもシュトラウスも、
若い頃の試行錯誤や葛藤の末、
前者は交響曲を中心に発表する作曲家としての道を選び、
後者は交響詩を中心に発表する道を選び、
やがて標題交響曲も書くようになった後、
後半生はオペラの作曲の道を邁進しました。

###交響詩作品リスト###
交響詩『ドン・ファン』(1888年)
交響詩『マクベス』(1890年/92年改訂)
交響詩『死と変容』(1889年)
交響詩『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』
                     (1895年)
交響詩『ツァラトゥストラはこう語った』(1896年)
交響詩『ドン・キホーテ』(1897年)
交響詩『英雄の生涯』(1898年)

『マクベス』は今日ではほとんど演奏されませんが、
それ以外は何れも世界中のオーケストラで
主要なレパートリーとしてプログラムを賑わせています。
これらの傑作群の最後となった大作であり
若くして自分を主人公に見立てた『英雄の生涯』を書いた後、
標題を伴う交響曲の大作を2曲書いています。

###標題交響曲作品リスト###
<家庭交響曲(Sinfonia domestica)> (1903年)
<アルプス交響曲(Eine Alpensinfonie)> (1915年)

先週から、これらの作品について、私の想い出等も絡めながら
簡単な解説をシリーズとしてアップしています。
今日は交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」の案内です。

この曲以前のR・シュトラウス交響詩は、
演奏時間15~20分前後といった規模でしたが、
この「ツァラトゥストラ」は35分規模に拡大して、
後続の作品は更に長大になっていきます。
この作品から、作曲者が一段と飛躍を遂げたと感じられます。
私の仕事場のライブラリーには
下記の2枚の愛聴盤CDが在ります。

R.シュトラウス/交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」
J.ウィリアムズ/「スター・ウォーズ」組曲
ズビン・メータ指揮/
       ロス・アンジェルス・フィルハーモニック
LONDON / KICC-8473
メータ盤

ウォルフガング・リーム/"Marsyas"
リヒャルト・シュトラウス/
        交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」
大野和士指揮/バーデン州立歌劇場管弦楽団
トランペット独奏/ラインハルト・フリードリッヒ
ANTES EDTION HOEPFNER classic / BM-CD 31.9138
大野和士盤

ニーチェの著作からインスピレーションを得て書いた、
「ツァラトゥストラ」は、「ゾロアスター」のことです。
単一楽章作品ですが、下記の通りの部分で構成されています。
ストーリーを追うものではありませんが、
ニーチェの著作のいくつかの部分を音楽に昇華させ、
それらをソナタ形式の応用した
提示・展開・再現・謎めいた終結という構成に
纏め上げていると考えられます。

1)Einleitung(導入部)
後に映画「2001年宇宙の旅」のテーマ音楽として大ブレイクした
ハ長調で書かれた"自然の主題"による壮大なオープニングです。

2)Von den Hinterweltlern(世界の背後を説く者について)
「自然」に対して「人間」が象徴されるロ長調による音楽が始まります。
低弦のピッツィカートで “憧憬の動機” が提示されます。
グレゴリオ聖歌「クレド」の断片も聴こえてきた後、
見事な多声書法による陶酔的なコラールが奏されます。

3)Von der großen sehnsucht(大いなる憧れについて)
"自然の主題"の動機等が断片的に聴こえた後、
「世界の背後を説く者」のコラールと
“憧憬の動機” から派生した低弦の激しい動機が、
鎬を削るように絡み合いながら音楽が高揚していきます。

4)Von den Freuden und Leidenschaften
(喜びと情熱について)
新しい動機も加わって、更に活発に展開が続いていきます。
その頂点に到達したところで、トロンボーンに減五度音程が印象的な
“懈怠の動機” が提示された後、徐々に音楽は静まっていきます。

・・・この辺りまでが提示部に相当する部分に感じられます・・・

5)Das Grablied(墓場の歌)
「喜びと情熱について」と共通する動機による
音楽が続きますが、雰囲気はまなり異なり、
室内楽的で内政的な部分となります。

・・・この5)が経過部分となって、
   6)から展開部に突入するように、私には感じられます・・・

6)Von der Wissenschaft(学問について)
“自然の動機” をもとにして上行と下行を交互に繰り返す
12音全てを含む特徴的な主題による、
低音でうごめくようなフーガの部分が、
厳粛な雰囲気の中で始まります。
その遅いテンポのフーガが次第に高揚していくと、
一旦フーガから離れて “舞踏の動機” が提示されます。
更に“自然の動機” と “懈怠の動機” による展開も高まり、
次の部分に向けて突進していきます。

7)Der Genesende(病より癒え行く者)
「学問について」と共通の同じ主題によるフーガが、
今度は早いテンポに乗せてエネルギッシュに展開されます。
やがて “懈怠の動機” の彷徨が重ねられた後に
“自然の動機” が壮大に回帰して展開部の頂点に到達します。
ここで、音楽は一旦停止します。
その後、“懈怠の動機” “憧憬の動機” による経過的な楽想を経て、
“懈怠の動機” などが交錯する諧謔的な部分に入っていきます。
やがて“舞踏の動機” や “憧憬の動機” が主導する
クライマックスに到達した後、、次の部分に移行していきます。

・・・この辺りまでが、展開部に感じられます・・・

8)Das Tanzlied(舞踏の歌)
全曲の約3分の1を占める長大な部分です。
ワルツのリズムを基調にした音楽に乗せて、
独奏ヴァイオリン(コンサートマスター)の活躍も交えながら
“自然の動機”、「世界の背後を説く者」のコラール、
“舞踏の動機”、「喜びと情熱について」等は
次々と再現されます。しかも単なる再現ではなく、
諸動機が複雑に交錯する展開も施され
この作曲家ならではの綿密な筆致による
壮麗なクライマックスが構築されます。

・・・この部分は、発展的な再現部と言えるでしょう・・・

9)Nachtwandlerlied(夜の流離い人の歌)
真夜中を告げる鐘が鳴り響くなか、
「舞踏の歌」のクライマックスが “懈怠の動機” が主導しつつ
瓦解していくかのように収束していきます。
音楽がロ長調(人間を象徴する調)に落ち着くと、
「大いなる憧れについて」や「学問について」で聴かれた
音楽が極めて遅いテンポで再現されます。
さらに静寂に帰結する最後の部分では、
高音のロ長調の和音(「人間」)と低音のハ音(「自然」)が
両者が決して両者が交わらないことを象徴しているかのように、
対峙されたまま、謎めいた結尾となります。

・・・当然この部分は終結部と考えてよいでしょう・・・

YouTube / シュトラウス:
交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」 Op. 30




スタンリー・キューブリック監督と
SF作家:アーサー・クラークによる不朽の名作
<2001年宇宙の旅>のサウンド・トラックには、
カラヤン指揮&ウィーン・フィルの演奏による
デッカ盤が使用されたということです。

R・シュトラウスの標題音楽シリーズは、
まだまだ続きます。どうぞお楽しみに!