彼のことをいつも心配していた。
私が彼の指導を担当したのは2015年のこと。高校を卒業したばかりであった。学力はまだまだではあったものの、能力的な素質は十分なものであった。私の中では一浪で医学部は難しいとしても、二浪目は勝負になるだろうと感じていたのだが。
ただ彼は不器用で頑固な性格があった。それが災いしたのか、なかなか医学部進学に届かないでいた。
三浪目以降は、名古屋を離れ、親元を離れて、勝負をしているということは聞いていた。
何度か誘ったのだが。「名古屋で一緒に勝負しよう!」
しかし、彼は言ったのだよね。「親の顔を見ながらでは、そのプレッシャーに耐えられない」
なんだかんだで彼は八浪となった。毎年、受験の結果は聞いていたのだが、今年はこちらからは聞けずにいた。
そして今日、不意に彼からlineが届いた。医学部に合格して、入学したことを現地から知らせてくれたのだ。
目頭が熱くなるという類の感情ではない。私の中の心のクビキが外れたような気持ちだ。
彼とは夏休みには呑みに行く約束をした。
これからが学業の本番だ。不器用なことを武器にして、戦っていってほしいな。
いくた