また一つ、忘れられないエピソード。
高校三年生の男の子。その彼は夏までは応援団なんかをやっていて、そこから国立理系を目指すということで、かなりの急ピッチでセンターに向けて仕上げていかねばならない状況だった。正直に言って、合格は厳しいと感じていたので、そのことを話すためにお母様にお話に伺ったときに、驚愕の事実を知ることになる。
御家庭は自営で、新規立ち上げのためお金がなくて、指導料金は全て本人のお年玉と小遣いの貯金で賄われているということだった。
更に家庭教師派遣会社の名簿から、私を指名したのも彼自身だったというのだ。
そういうことであれば、私もやぶさかではない。何とかしてやらないといけない。彼からは追加指導の依頼をされたが、追加分は
"私からあなたの未来への投資"
ということにして、受け取らなかった。
でも結局は合格には全然届かなかったんだけどね。そりゃ、私が担当したのはセンターから4か月前だから。その期間で数物化を全部指導したけれど、週1回か2回の指導では焼け石に水だったというのが結果だ。
また別の生徒の話だけれども、その生徒も諸般の事情があり、未来投資で指導を受け持ってあげた。その生徒は大学に合格してしばらくした後に、バイト代を貯めて、指導料を支払いにきたのだ。
「私はあなたの未来へ投資したのだからお金はいらない。誰もがいろんな人から恩を受けて育っていくものだから、受けた恩はまた広くいろんな人に還元していくものだ。それが大人というもの」
と言って受け取らなかった。
これを読んでいる方は
”幾太郎さんよ~。カッコつけちゃって!”
と思われるだろうが。
本心で言うと、私の立場上、まず学生からは金は受け取れないだろうよ。金があったら、まずは親御様に還元するのか本筋だわ。
私も教育に携わる人間の端くれとして、立派な大人というものを育成していく責務もあるからね。
そういった仕事に対する理念を重視すると儲からないんだけど、仕事を続けていく力にはなるから。結果として、仕事を続けていくためには想いも大切にしないと。
そして生徒が本当に立派な大人になって、私に還元してくれる気持ちであれば、オシャレなBarでI.W.Harperをストレートで一杯ごちそうになったら最高だろう。喜びが喉の奥に響き渡る。
いくた
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