数日前のどんよりとした雨空から一転、本日は晴天なり。
 
 
とはいえ、まだまだ肌寒い日が続いている。
 
 
こんな日は熱いコーヒーが飲みたい。
 
 
と言っても、まだあの戦いからそんなに日は立ってないわけで、
 
 
本来ならカフェで美しいシニョリーナと楽しいひと時を過ごしたいわけだが、
 
 
身体のこともあり仕方なくジョジョと向かい合いコーヒーを啜る。
 
 
「で、俺がいない間、ねぇちゃんとはどこまで進んだわけェ?」
 
 
「ごふっ!?…何、を、このスカタンッ!」
 
 
頬杖ついてこちらをニヤニヤしながら見つめるジョジョの問に飲んでいたコーヒーを勢いよく吸い込んでしまった。
 
 
「えっ?ちょ、なになにっ?もしかしてシーザーちゃん何もしてないの?うっそーん!あのスケコマシーザーちゃんが?」
 
 
「…、」
 
 
「…マジで?」
 
 
マジでだよ!悪かったなっ!
 
 
最初はニヤニヤと笑っていたジョジョの顔から笑顔が消え、
 
 
次に奴はNooーッ!と叫び出した。
 
 
「えっ?えっ?シーザーお前ワムウとの戦いで脳みそ死んじまったんじゃねぇのっ?!馬鹿なの?!死ぬの?!寧ろ今、生きてますぅ?!」
 
 
「うるさい!俺にだって色々あるんだよっ!」
 
 
「色々ってなんだよっ!あれか?女関係の整理か?どんだけスケコマシーザーしてきたんだよ!」
 
 
「違うわ!そもそもお前がー、」
 
 
いや、違う。
 
 
「あん?俺がなんだってんだよ?」
 
 
ジョジョが悪いわけではない。
 
 
「…何でもない」
 
 
彼女との約束を守れなかったのは俺の責任だ。
 
 
「…あー、もしかしてよぉ、気にしてるわけ?」
 
 
「何を」
 
 
ジョジョはバツが悪そうに頭を掻いて、俺をちらりと見た。
 
 
「言われたんだろ?俺を連れて帰って来いって」
 
 
「そ、れは、」
 
 
そう、旅立つ前彼女から伝えられた、たった一つの、俺が叶えてやれなかった願い。
 
 
「それな、あんま気にすんなよ」
 
 
「お前が生きて帰ってきたからか?…そういう問題じゃないんだ。俺は約束を果たせなかった」
 
 
約束を守ってやれなかった俺に、彼女のそばにいることなど許されない。
 
 
「いや、だからさ、あー、なんて言うか、そもそも誤解してるわけよ」
 
 
「はぁ?」
 
 
誤解ってなんだ誤解って。
 
 
「誤解もなにも、俺は直接だな、」
 
 
「だーかーらー!ねぇちゃんは『俺を連れて』『帰って来て』って言ったのは、俺の事もあるけど、お前に言ったんだよ!絶対帰って来いって!」
 
 
だんっ、とジョジョがテーブルを叩いた。
 
カップが揺れ、コーヒーが溢れ、白いテーブルクロスにシミを作る。
 
 
「…俺に?」
 
 
「そう」
 
 
「俺に帰って来てほしいと言ったのか?」
 
 
「だからそうだって!」
 
 
そもそも、ねぇちゃん俺には馬鹿は死なないから!って言いやがったし!
 
 
だんだん、とジョジョがテーブルを叩くたび、カップが揺れ、クロスにシミが出来ていく。
 
 
「だからよォ、まぁ、なんつーかあれだ、…ねぇちゃん寂しがってるから」
 
 
会いに行ってやれよ。
 
 
「…あぁ、そうだな」
 
 
俺も、本当は会いたかった。
 
 
かたり、音を立てて立ち上がる。
 
 
「…たく、手間かけさせやがって。手間賃とるからな!」
 
 
「なら俺はクロスのクリーニング代を頂けこう」
 
 
「げっ!本当嫌な奴だな!…まぁ、頑張れよ」
 
 
「…あぁ、ありがとうなジョジョ」
 
 
ジョジョに背を向け歩き出す。
 
 
君に会いに。
 
 
 
 
 
 
 
ただいま、と、ごめん。
 
 
『あら、シーザー?どうしたの?』
 
 
彼女が好きだと言った真っ白な薔薇の花束を持って会いに行った。
 
 
「まだちゃんと言っていなかったから。…ただいま。あと、ちゃんとジョジョを連れて帰ってこれなくてすまなかった」
 
 
許してくれるか?そう遠慮がちに言えば彼女は目をぱちくりさせた後、笑って、
 
 
『おかえりなさいシーザー。いいのよ、お互い困った人に振り回されてしまったわね!』
 
 
と言って抱きしめてくれた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ジョセフたんを理由に帰って来てと言いたかっただけなんだ。
 
シーザーがうっかり生きてるって話。












  




シーザー、お願いがあるの。


一つだけ、たった一つだけ、これだけでいいから、


…ジョセフを連れて、帰ってきて。


俺の手を握り、彼女は銀色の睫毛を伏せて、静かにそう囁いた。


「…ああ、必ず守る。ジョジョを君の元へ連れて帰ると約束しよう」








しとしと、と冷たい雨が降る。


からの棺桶に花を手向ける彼女。


輝くヴェネチアの海のような瞳は、今は深海のように深く沈んだ色をしている。


…俺は約束を守ってやれなかった。


たった一つだけの、彼女の願いを叶えられず、


俺は運悪く生き延びてしまった。


本当は俺ではなく、友が、彼女の弟が生き延びるべきだった。


雨で湿った土がからの棺桶を少しずつ隠していく。


彼女の瞳に涙はない。


彼女が泣いたのはあの日だけだった。


「…すまない、俺は約束を、」


『…シーザー、』


俺の言葉を静かに彼女は遮った。


『ごめんなさい。私、貴方に酷いことを言ったわ』


雨で冷えた指がそっと俺の手を握った。


『私のせいね。私のお願いが今、貴方を苦しめている』


「…?!ちが、」


『違わないわ。私の言葉が貴方を傷つけた』


ごめんなさい、


すっかり土が被さって、見えなくなったからの棺桶。


周りがすすり泣く中、彼女は一人、泣かなかった。


ただ形だけでからの墓を見つめるだけ。


冷たく暗い瞳で弟の墓を見つめている。


『…私、先に戻るわ』


「ま、待ってくれ!」


くるり、と黒のワンピースをなびかせて、何かに急ぐように、逃げるように歩き出す彼女。


咄嗟に腕を掴んで振り向かせた彼女の目には、薄っすらと涙が浮かんでいた。


『…シーザー、どうして?私、私は、』


「いい、わかってる」


知ってる、彼女はただ大切な人が帰ってくると信じていただけだ。


「俺を責めてくれ。約束を守れなかった俺が悪いと言ってくれ。君は悪くない、全部俺が悪いんだ」


俺を責めてくれ、そうすれば少しは気が楽になる。


俺も、君も。


泣いて縋り付く彼女に腕を回すことなどできなくて、


ただ立ち尽くすことしかできない俺は無力な男だ。


俺は、


「あぁー!?シーザー!テメェねぇちゃんに何してやがるッ!」


「…は?」


よく知った馬鹿でかい声が聞こえる。


「は?じゃねぇよ!俺の方がはぁ?!だわ!…ねぇちゃん大丈夫か?こいつに虐められたのか?」


『え、ジョセフ?え、えっと、…え?』


困惑した顔で俺と目の前のジョジョを見比べる彼女。


だが次第にまた涙が溢れてきて、目の前のジョジョに飛び込んだ。


『ジョセフっ!』


「おぉう!?どうしたねぇちゃん!そんなにか!?そんなに酷いことされたか!?」


『貴方のせいよ馬鹿っ!』


気がつけば、雨は上がったようで、


泣きながらぎゅうぎゅうとジョジョに抱きつく彼女の目は太陽の光を吸い込み、


いつかのヴェネチアの海のように輝いていた。









手向けの花は必要なくなった。




聞いた話によれば、スージーQが電報を送り忘れていたという、単純な話だった。


「いやー、しかし、俺の葬式にも驚いたが、シーザー!お前が生きていたのにも驚いたぜ!」


「笑い事じゃあない!お前がさっさと帰ってこないからこっちは大変だったんだぞ!」


「ごめんなさいねー、ついうっかり!」


『いいのよ!スージーQがお嫁に来てきくれて嬉しいわ!』


「え、ねぇちゃん俺は?」











シーザーが死ぬっていうのはね、わかってたんだけどね、

やっぱ辛いよね。

ジョセフが死なないのわかっててもね、

やっぱビクビクするよね。

ジョセフに至っては三部でも死にかけてるしね。

まじジョセフたん罪深いわ!










海沿いに小さなカフェ、

彼女は午後、ここでキラキラと光るヴェネチアの海を見ながらコーヒーを飲むのが日課だ。

いつだったか、本当は紅茶の方が好きなのだけれど、このカフェのコーヒーは特別なんだと笑っていた。

…まぁ、俺にではないが。

そう、この俺にではなく、

『ジョセフ!今日は午後は少し時間があるのでしょう?一緒に…』

「一緒にカフェに行かないかい?」

『…あら、シーザー、いたの?』

視界に入らなかったわ、なんて相変わらず俺を見ずに冷たくあしらう。

「あー、カフェね、」

ジョジョが俺と彼女を交互に見つめ、少し楽しそうに、でも、珍しく困ったように眉を下げた。

「ごめんなねぇちゃん、午後はちと先約があって、」

『あら?スージーQかしら?なら、仕方ないわね』

溜め息を一つ零す姿すら美しい人、ああ、でもやはり俺は蚊帳の外だ。

なんて、ここで引くわけにはいかない。

そう意気込んで次の一言を発する前にジョジョが俺の腕をひいた。

「そっ!だからさ、シーザーちゃんと行ってきてよ!」

「はぁ?!」

『そうね、今日は話し相手が欲しいと思っていたし、シーザーでいいわ』

「えっ?!」

さぁ、行きましょう、と白いワンピースを翻しさっさと歩き出す彼女と、

お土産ヨロピク!なんてニヤつくジョジョ、

そして、状況が今ひとつな俺。

『シーザー?早く行きましょう?』

少し離れたところで振り返った彼女がまっすぐと俺の瞳を見つめいる。

…あれ?こんな風に彼女と視線があったことなどあっただろうか?

彼女が俺と出かけると言ったり、俺の目を見つめたり、

なんだか今日はいつもとは少し違い、なんだかいつも以上に彼女を見ると胸がざわつく。

「あぁ、今行く」

俺が返事をするとまた一人、進み出すから俺は慌てて彼女の後を追っていった。







キラキラと光る海を見つめ、カップに口をつける、

時々、俺の方を見て口を開くが、

やはりジョジョの話ばかり。

…いや、絶対俺の誘いに乗らない彼女とカフェに来れただけマシじゃあないか!

なんて俺らしくもなく弱腰になったり、

「…ん?どうしたんだ?」

気がつけば、頬杖ついてこちらをジィ、と見つめていた彼女。

アイスブルーの瞳が俺を捉えて離さない。

柄にもなく恥ずかしく感じて、少し声が上ずった。

『たまには、貴方と出かけるのも悪くないわね』

ふわり、と汐風が彼女の髪を揺らす。

いつもはジョジョに向ける笑顔が俺に向いていて、

もうそっから先はせっかく彼女と出かけたのに全く覚えていない。

「で、おデートはどうだったの?シーザーちゃんよぉ~」

「…、覚えていない」

「はぁ?」

「浮かれ過ぎて全く覚えていない」

お前、どんだけだよ!とジョジョが頭を抱え叫び出しても未だふわふわと地に足つかない気分で、

ああ、今日はいい日だった。




ブラコンをすけこまシーザーしようとしたら、
マジになってしまったんだが、どうしたらいい?

(今日はシーザーとデートだったんだってね!どうだった?)

(そうね、今日もあそこのカフェのコーヒーは美味しかったわ。あ、これお土産ね)

(あらあら、…シーザーがんばれ!)










シーザーちゃんがブラコンをすけこまそうとしたが、

ミイラ取りがミイラになって辛いって話を書きたかった。

書けなかったw