「まだ帰らない、」
あぁ、君は縋り付く様な目をしてそんなことを言って、でも、もっと大事なことは言ってはくれない。
「おうちの人心配するよー」
なんとなく、悪い顔になりそうなのを抑えいつも通りの笑顔を彼に向ける。
それでも彼は帰らないとそっぽを向くのだ。
「ほらほら、明日は特別大サービスしちゃうからさ、みんなに内緒の大サービスするからさ!」
「…それ、この前十四松にも言ってたよね」
丸め込もうとしたけど逆効果だった。
考えてもよくわからない。
どうするのがいいのだろうか?
絡ませた指を少し乱暴に振り払うと彼は目を丸くした。
「シキ?」
「おいかけっこしよっ!」
私が勝ったら、おうちに帰るんだよ!
勢い良く地面を蹴り出せば、待って!なんて珍しく焦ったのか少し上ずった声が後ろから聞こえた。
「はぁーはぁ、…うん?」
走って走って、
気がつけばいつか、走り去った彼を捕まえた所にたどり着いた。
今はあの時と違い、もう太陽はいない。
むき出しの額が冷たい風にさらされて、寒い。
「一松くん走るの遅いなぁ、」
なかなか見えない紫に寂しい気持ちを抱えながらあたしはもう少し先へ進んだ。
この辺は街灯も少なくて暗いせいか、いつもは目隠ししてる、胸の奥にある物が疼く。
あぁ、彼は来てくれるだろうか?
面倒で帰ってしまうだろうか?
一人は想像以上に寒くて、でもあたしには帰る事なんて出木ないから、ただ彼が来るのを待つばかり。
僕は君を信じてる。
(と、言ってもあたしが勝手に離れたんだけどね)