その日、朝起きると俺と同じ顔は四つしかなかった。


「あれ?カラ松は?」


なんとなしに発した言葉。


部屋の温度がわずかに下がった気がした。


「…さぁ?僕は知らないよ」


末っ子がにっこりと、口元だけ笑って見せて、四男を見ている。


「僕が起きた時にはもういなかったよ」


そう言って次男はちらり、と四男を盗み見る。


「一松兄さん!野球盤しよー!」


いつもより五男が四男にべったりしている。


「ふーん。…俺も、出掛けてくるわ、」


なんだか喉の奥が詰まったような違和感。


それをなんとかしたくて、外に出た。


居間から出る時に、一松の視線が背中に刺さっているのが見なくてもわかった。








なんとなく、いつもはパーカーが多い一松がツナギを着ていたので予想はついていた。


兄弟たちの態度でそれはほぼ100%だったし、


六つ子特有の兄弟間の感的な物では黒だった。


「…カラ松っ」


「に、兄さん、」


行きつけの喫茶店のドアを引けば、次男が店主の頬にキスをしていた。


…黒どころか真っ黒だわ。


店主は焦っている俺たちに首を傾げている。


自分がなにされてたかも、たぶんよく分かってない。


せいぜい、またカラ松がいじけてすり寄ってきているくらいしか考えてないのだろう。


俺がカラ松に、ちょっとこい、と呼ぶと奴は下唇をかみしめて黙ってついてきた。


「お前さ、何してんの?」


「…、」


店の横の路地裏でそう聞く俺にカラ松は全然目を合わせないし、一言も喋らない。


「弟の女に手を出すとか駄目でしょ。大体、一松にバレたら、」


「俺が、何?」


カラ松の方がびくり、と跳ねた。


これは、ものすごく、やばい。


頭の中がぐわんぐわん、と揺さぶられているようで、この状況をうまく丸める方法がまとまらない。


「…勝手に人の服、着ないでくれる?」


「…、あぁ、悪かったよ、」


なんとも言えない、息苦しい淀んだ空気が地面を這う。


いつもは一松の言葉、仕草にびくつくカラ松が今日は静かだった。


「あれー?一松くんきてたの?」


今日はツナギなんだねー、なんてにこにこと寄って来たシキに、


まじ、少しは空気読めよ!お前のせいだぞ!と言ってやろうかと思い立った時、


一松の目が光った。


シキの腕を掴み、自分の方へ引き寄せて、キスをした。


「…っ、」


しかも、あれべろちゅーじゃん。


カラ松むっちゃ悔しそうな顔してるし、横目でこっちを伺う一松はドヤ顔だし。


え、なに?どゆこと?


いいだけシキの唇を唾液でベロベロにした後、一松は俺たちを睨んだ。


「…帰れよ、クソ松。お前なんか一生来んなクズ松。おそ松兄さんもさっさとそいつ連れて帰ってよ」


さっきのべろちゅーでべろんべろんにしたシキを引きずり店の中に消えた四男。


俺の隣にはそんな四男のパーカーを着て、そういう事を企んでいたけど失敗し、挙句にあんなものを見せつけられ悔しさで唇を噛みしめる次男。


「…とりあえず、帰、」


「…一松のばかやろー!」


そう店に向かって叫んで次男は走り去っていった。


「…なんだよ、あいつら、恋心拗らせ過ぎだろっ」


ガシガシと後頭部を掻きむしって、恋愛を拗らせる兄弟を放置する事にし、


俺は一人、朝っぱらからパチ屋に行くとにした。





拗らせる。

こんな日は、決まって出ない。




俺もあいつも同じだ。


そうさ、俺たちは六つ子なんだから。


だから、大丈夫、大丈夫だ、誰にもわかりっこない。


そう自分に言い聞かせて、弟の服に袖を通す。


そうさ、服だってちょっと色が違うだけでみんな一緒だ、だから大丈夫。


ゆっくり息を吸って吐いて、いつものドアを引いた。


「…ん?あぁ、いらっしゃい」


いつも通りの柔らかい、気の抜けるような声色。


あぁ、どうか気がつかないで。


「珈琲今用意するねー」


カチャカチャとカウンター越しに聞こえる音がいつもより鮮明に聞こえる。


あぁ、どうか気がついて。


「はいはーい、おまたーせっしましたっ」


カップを俺の目の前におき、彼女は隣に腰掛けた。


静かにじっとこちらを見つめる彼女に恥ずかしくなり俺はカップの中身へと視線をずらした。


一抹の事はいつもこうやって見つめているのだろうか?


そう考えると胸の奥がざわつく。


「あ、わかったわかった!」


「な、なに?」


「腕、貸して!」


ニコニコと笑いながら彼女はパーカーの袖をまくる。


「できたよぅ!いつも通り!」


なんか変だと思った!そう笑いかける彼女に胸が苦しくなる。


あぁ、気がついてしまった。


「…?カラ松?」


「黙ってくれ、頼む、」


あぁ、気がついて欲しくなかった。


あぁ、気が付きたくなかった。


同じだったはずだったのに、いつから俺たちは、バラバラになってしまったのだろう?


いつから俺は、俺たちになれなくなってしまったのだろう。


弟の服を着れば、俺が一松になれて、俺が愛する権利を得られると思ったのに。


不思議そうに顔を覗き込む彼女を引き寄せて、頬に唇を当てた。


あぁ、どうせなら、






この想いに気がついてよ。

(そうしたら、きっと君を攫えたはずなんだ。)



いつだったか、誰にだったか、なんで付き合っているのか聞かれた。


自分でも驚く、だってクズだしニートで根暗で、


それとは逆にシキは見かけは、うん、大人しそうだ。


喫茶店の扉を開けるまではね。


性格は人懐こいし、バカ、でも、一定のラインを越えてこない、


おそ松兄さんはそれが少し寂しいらしいけど、俺には心地いい。


俺とは逆で誰とでも上手くやれる、そんなやつ。


でも、あの晩、彼女の首に手を伸ばした日。


あの日、俺にすがる様にいかないで、と言った。


あの言葉と表情が頭の後ろにこびりついている。


「はぁーはぁ、…あぁ、クソっ、」


何でこんな汗掻いて走ってるんだ?


季節は秋と冬の間でそれなりに寒くて、今だって吐く息は白い。


なのに、滝みたいに汗は次から次から流れていく。


「見つけたら、犯す、ぜってぇ犯す」


額の汗をぬぐって、あぁ、でもこんな事、普段の俺なら絶対しない、なんて少し笑った。





「あ、…って、猫かよ」


高台のさらに上、木の上から町並みを見下ろす見知った背中。


さっきまでのイライラと、最初の不安と、今、込み上げるのは愛しさで。


いろんな感情が混ざり合って気持ち悪いから、一つくらいはこっそり吐き出してしまおう。


「おー、一松くんおつかれー」


「お前のせいだ」


猫の様に身軽に木から降りた彼女をぎゅうぎゅうに抱き締めてやった。


絡め取った指は俺より冷えていた。


前ならきっと、この指から俺の黒い物全部、流れていけばいい、そう思っていた。


バカだけど心地良かったあの場所は彼女が誰にも気がつかれない様にと作った壁だったんだと気がついた。


ずっと、彼女に引っ張られてると思っていたが、もしかしたら俺が彼女を連れ出したのかもしれない。


冷え切ったその唇にガサガサの自分のを押し当てて、もう重いしさ、別に格好つけるほどでもないし、ドロドロを少し貰ってくれよ。


「シキ、…すき、だ、」


自分でも驚くくらい小さなその声に、彼女は笑って。


「あたしも、すき!」


あぁ、大丈夫。


きっと俺も君も弱いけど、2人もいればなんとかなるよ。







僕と君。

(不安も愛も全部2人で分け合っていこう)







まりまりの心と体を聴いて書いたらなんか三編になったけど文才ってなに?


気持ちを伝えてこない一松は実は好きじゃないんだろうなぁ、傷つくのは嫌だし黙っとこ、見ないふりしていつも通りのアホな夢主と、


好きとも嫌いとも言わないし、どう思ってんの?と考えすぎてモヤモヤ(でも、恥ずかしくて自分からは言えない)な一松の、


入れ違いな話を書きたかった…