「お前には向いてないよ」
 
 
今でも頭の中で響く。
 
 
あの人の声が焼き付いて消えてくれない。
 
 
 
 
 
「椿さんは優しいですね」
 
 
「えっ?」
 
 
ふんわりと優しく笑う彼女。
 
 
ずきり、胸の奥が疼いた気がした。
 
 
「…そうかな?」
 
 
「はい!今だってお洗濯物干すの手伝ってもらってますし…」
 
 
いつもすみません。
 
 
先程とは変わり、申し訳なさそうに俯く千鶴の頭を撫でた。
 
 
「そんな大したことじゃないから」
 
 
「そんなことないです!」
 
 
勢いよく顔をあげた彼女にびっくりして洗濯物を落としかけた。
 
 
「私、いつも椿さんに助けてもらってます…」
 
 
「そう?」
 
 
きっと、君の気のせい。なんて、こんなに一生懸命な彼女には言えないけど。
 
 
「…椿さん、どうかしましたか?」
 
 
「ううん、ちょっとね」
 
 
「私なにか気に触るようなこと言いましたか?」
 
 
ああ、君はまたそうやって真っ直ぐ僕をみる。
 
 
「違うよ。…ただね、」
 
 
空が高い。あの日もこんな空だった。
 
 
「兄にね、昔、言われたんだ。『優しすぎるお前には向いてないよ。』って」
 
 
「何がですか?」
 
 
「…人殺し」
 
 
そう答えると予想通り息を飲む彼女に笑いかける。
 
 
「…は、いいすぎかな?刀より花でも活けてろってことだよ」
 
 
「なんだ。…もう、椿さんたら脅かさないでください」
 
 
「ごめん。君が優しいなんて言うからだよ?」
 
 
優しいんじゃない。僕はただ、弱いだけ。
 
 
「優しいですよ。いつも、私を守ってくれてる」
 
 
笑う君に僕はまた目を見開いて驚いた。
 
 
でも、すぐ笑い返して千鶴を抱き締めた。
 
 
「…なんでだろう。同じ言葉でも、君に言われるとうれしいなって思うんだ」
 
 
「椿さん、」
 
 
「ありがとう。千鶴のおかげだね。少し気持ちが軽くなったよ」
 
 
ちゅ、と彼女の頬に口付ければそこから徐々に赤くなっていく。
 
 
そんな彼女が愛しくて、今度は唇に口付けた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
君の魔法。
 
 
 
(いつも、助けられてるのは本当は僕だよ。)
 
 
 
 
 
「僕は、男に見えない?」
 
 
突然やって来た椿さんはよく分からないことを言い出した。
 
 
「確かに椿さんは綺麗なお顔ですね」
 
 
「そう?やっぱり、男に見えない?」
 
 
「えっと、その、…一目見ただけだと分からないかも知れません」
 
 
まっすぐ私を見る椿さんに正直に答えると、また『そう、』と小さく呟いた。
 
 
「あ、でも、私は椿さんの男の人らしいところも知ってますからっ」
 
 
慌ててそう返せば、一瞬、椿さんの瞳の奥が光った気がした。
 
 
「例えば、どんなとこ?」
 
 
一歩椿さんが前に進む。思わず、私は一歩さがる。
 
 
「…一杯ご飯食べるところとか?」
 
 
「うん。あとは?」
 
 
椿さんが進む度、私も同じだけさがる。
 
 
「意外と手が大きいです」
 
 
「他には?」
 
 
不意に腕を捕まれて引き寄せられる。
 
 
「つ、椿さんっ」
 
 
「他にはない?」
 
 
にこにこ、楽しそうに笑う椿さんに抱き締められている。
 
 
肺を満たす、椿さんの香りに肩の力が抜けた。
 
 
「…着痩せしてます」
 
 
「えっ?」
 
 
少し驚いたのか目を見開いて私の顔を見る。
 
 
「だって、きっと皆さん知りませんよ?椿さん見掛けによらず背中広いし、胸だってがっしりしてるし、腕だって…」
 
 
いつも、私を抱き締めてくれる腕だってこんなにも力強い。
 
 
「…ふふ、ありがとう」
 
 
ちゅ、と額に触れる柔らかな感触。
 
 
思わず顔を上げれば、顔を真っ赤にさせて微笑む椿さん。
 
 
「良かった。ちゃんと、見てもらえて」
 
 
意識されてないかと思った。と笑う椿さんに私も笑った。
 
 
「もうっ、いっつも抱き締めたり、口付けしたりしてくるのに意識しないわけないじゃないですか」
 
 
「確かにね」
 
 
そう言って、私の唇に自分のそれを押し付ける椿さんはやっぱり男らしいとおもう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
君だけ気づいてればいい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
男主は沖田とかに「千鶴より可愛い」とか言われて、
 
「千鶴の方が可愛い」って普通に返せばいいwww
 
 
 
 
「椿さんの髪、本当に綺麗ですね」
 
 
「うん?よく分かんないけどありがとう」
 
 
さらさらと風に揺れる椿さんの黒髪。
 
 
肩より少し上で切り揃えられたその髪に櫛を通す。
 
 
「でも、伸びてきてちょっと邪魔なんだ」
 
 
「あぁ、だから急に『髪を結って』なんて言い出したんですね」
 
 
本当は切りたいんだけど、僕不器用だから。
 
 
困ったように笑う椿さんの顔は何時もより少し大人っぽく見える。
 
 
「…はい、出来ましたよ」
 
 
「ありがとう。今度、お礼にお茶をご馳走するよ」
 
 
「えぇっ!いいですよ!」
 
 
髪を結ったくらいでご馳走になるわけにはいかない。
 
 
首を勢いよく左右に振れば、椿さんはくすり、とまた笑って振り返った。
 
 
「僕が君とお茶したい。それじゃ駄目?」
 
 
私の手を取り、指先に口付けを落とす椿さんは普段の可愛らしい笑顔ではなく、私の知らない男の人のようだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そんなの口実に過ぎない。
 
 
(ただ、君といる理由が欲しかっただけ)