背中に感じる熱と重み。
 
 
時々、聞こえる小さな声。
 
 
 
 
「堂島しゃん…」
 
 
「はぁ、」
 
 
むにゃむにゃと幸せそうに僕の背中でそう呟いた綴。
 
 
顔は見えないけどきっと気持ち悪い表情をしているのだろう。
 
 
「なんで僕が君を送っていかなきゃいけないんだろうね?」
 
 
ずるずると落ちかける彼女の体を背負い直し、そう聞いてみたけど、こんだけ酔ってちゃきっと話なんて聞いてないだろうな。
 
 
「…あのさ、」
 
 
薄暗い道。僕と綴しかいない。きっと誰も僕の話なんて聞いちゃいない。
 
 
「…好きだよ、ことは」
 
 
そう言って、ふと思い出した。
 
 
「…名前、嫌いだって言った」
 
 
少し不機嫌そうな声がすぐ後ろから聞こえる。
 
 
「あぁ、ごめん」
 
 
なんて、少しも悪いだなんて思ってないけど。
 
 
「…足立のバカ、」
 
 
そう言いつつ、ぴったりと僕の背中に張り付く綴。
 
 
なんだかそれが可笑しくて僕は綴にバレないように笑った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
25時の秘密。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 








「綴ー、いつまで寝てるつもり?」


乱暴に揺すられ、私は夢から覚めた。


「…足立、」


「はぁ、誰の仕事手伝ってると思ってるの」


そうだ、明日までに提出の書類整理をしていたんだった。


覚醒しきれていない頭は今の状況を確認するのにも少し時間がかかった。


足立は自分の席に戻りまた書類整理を始めている。


「…あのさ、」


「んー?」


ぐるぐると胸の奥で何かよくわからないものが暴れている気がする。


「足立って、」


言いかけて、止まる。言葉が詰まって出てこない。


気持ち悪い。


「どうしたの?」


足立は私を見ないで聞き返す。


…言うべきだろうか。


言葉が出なかったと言うことはきっと、彼にとって、むしろ、自分にとってはその方がいいから出なかったのだと思う。


それでも、私は言うのだ。


「いや、足立はさ、」


私も足立も結局は一緒なのだ。


「汚いよね、」


私の言葉に彼は顔をあげた。


私の顔を見た彼は笑っている。


彼はきっと、もっと前から気がついていたのだと思う。


「綴に言われたくないよ」


笑う彼が悪魔のようなら、それなら私はなんなのだろう?












裏と表と夢の話。


(私も足立も、気が付いていて、知らないふりをする。)













綴ちゃんは足立のしていることに気が付いていて知らんぷり。


足立もそれをわかっていて知らんぷり。


汚いのは罪ではなく、自分達の生き方や本質的なもの。
 
 
 
 
 
「じゃあね、」
 
 
「月森も志知花先輩も元気でな!」
 
 
「先輩達ぜったい遊びに来てよね!」
 
 
電車に乗り込む二人に自分はちゃんと笑えているだろうか?
 
 
「完二、」
 
 
「あ、」
 
 
無意識に志知花先輩に合わせなかった視線。
 
 
名前を呼ばれて先輩を見れば、真っ直ぐ自分を見ていて。
 
 
「…完二、あのね、」
 
 
先輩は笑っている。
 
 
俺の好きだった、笑顔。
 
 
ゆっくりと自動ドアが閉じていく。
 
 
先輩の唇が密かに動いた。
 
 
「…!志知花先輩っ!」
 
 
走り出した車体。
 
 
それを追いかける自分と、そんな自分に驚いた顔をして、またすぐ笑う先輩。
 
 
小さく振られた右手は、あの時俺が掴めなかったもので。
 
 
「…なんなんだよっ!」
 
 
 
走り去ったそれを見つめて、俺はただ後悔した。
 
 
 
(…完二、)
 
 
ちくしょう、
 
 
(あのね、)
 
 
ちくしょう、ちくしょう、
 
 
(……好きだよ。)
 
 
なんで、もっと早く言ってくれなかった。
 
 
なんで、あの時、先輩を捕まえれなかった。
 
 
 
 
「…好きだったなんて嘘だ」
 
 
 
 
今も、あんたが好きだよ。
 
 
 
届かなくなって、気がついたのは、結局諦められないということ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
行かないで、
僕らの初恋。
 
 
君に手が届かなくなって、そして気がつく、
 
 
あぁ、まだ愛してる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
連載完二と夢主が付き合っていなかったらの、
 
『例え話』です。
 
 
こんな報われない完二嫌だ。