「シリル、ベルと一緒に来て」
 
 
差し出された手のひら。
 
 
それは、ぼくがずっと探していた子。
 
 
 
 
 
 
 
 
夜風に辺りながら、今日あったこと、久々に会った彼女の事を思い出した。
 
 
「シリル、」
 
 
「うわっ」
 
 
名前を呼ばれて振り替えると頭の上から毛布が降ってきた。
 
 
「コンウェイ…、」
 
 
「後悔してるのかい?」
 
 
「え?」
 
 
ちらり、と彼の方を見ると、薄紫色の瞳がぼくを見つめていた。
 
 
「彼女と一緒に行かなかったこと、後悔してるかい?」
 
 
「…わからない、」
 
 
そう、わからない。
 
 
あんなに会いたくて、仕方なかったのに。
 
 
「…ぼくとベルは、本当は家族じゃないんだ」
 
 
「え?」
 
 
「ぼく、家が嫌いだったんだ。それで、家を飛び出して一人で居たときにあの子に会ったんだ」
 
 
冷たい雪が舞う中で、ぼく達は出会った。
 
 
「…今思えば、あの時互いに引かれあったのは、前世での事があったからなんだろうね」
 
 
(シリル、ベルね、思い出したの、)
 
 
彼女の声が頭に響く。
 
 
(ベルはシルヴィエの生まれ変わりなんだよ。だから、)
 
 
(シリル、ベルと一緒に来て。)
 
 
(シルヴィエはアルミィロに守られるだけだったけど、ベルもシリルに守ってもらってたけど、)
 
 
(次はベルがシリルを守るから。)
 
 
「…知らなかったなぁ。あの子は、ぼくの知らないところであんなに強く、一人で歩けるようになってたんだなぁ」
 
 
なんだかぼくだけ、ぼくだけが取り残されたようだ。
 
 
「…寂しいなら、」
 
 
コンウェイがぼくの肩を抱き寄せた。
 
 
「少しだけなら、泣いてもいいよ」
 
 
今はボクしかいないから。
 
 
そう言って、ぼくの頬を撫でる彼の胸に額を付けて、ぼくは声も出さずに泣いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ぼくらだけの秘密。
 
 
 
なぜぼくは街の真ん中で正座をさせられているのだろう?
 
 
「シリル!ちゃんと聞いているの!?」
 
 
「キイテマスヨ」
 
 
「…あれ、絶対聞いてなかったよね」
 
 
なんだか良く分からないが、ぼくが女性であることを言わなかったのが良くなかったらしい。
 
 
「別に隠していたわけではないんだけどね」
 
 
「アンタの格好としゃべり方が紛らわしいのよ!」
 
 
そんなこと言われたって困るんだけど。
 
 
「僕達と同じ部屋になった時に言えば良かったのに」
 
 
「そうよ!なんで言わなかったのよ!」
 
 
「え?んー?人数的なアレなのかなぁと」
 
 
それでも言いなさいよ!なんてイリアに怒鳴られた。
 
「あー、うん、ごめん」
 
 
「…まぁ、いいんじゃない?」
 
 
イリアとぼくの間にコンウェイが入った。
 
 
「ボク達が勝手に勘違いしてただけなんだし」
 
 
「確かにわざわざ自分の性別を言う者などいないしな」
 
 
リカルドとコンウェイが上手く丸めてくれてアンジュもイリアも許してくれた。
 
 
 
 
 
 
「…シリル」
 
 
「なに?」
 
 
並んで歩くコンウェイに手招きされた。
 
 
近寄った瞬間、腕を引かれた。
 
 
耳元に彼の息がかかる。
 
 
「もう少し、自分が女性であることを意識した方がいいと思うよ」
 
 
それだけ言って、彼は前を歩くルカ達の元へ行ってしまった。
 
 
「…意味が良くわからないよ」
 
 
彼が囁いた耳元がなんだが熱かった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
微熱。
 
 
 
 
「あのね、わたし、夢の中だと神様なんだよ」
 
 
そう言って彼に胸を張って言ったが、予想通り彼は鼻で笑って。
 
 
「所詮、夢の中の話だろ?」
 
 
「そうだけどさぁ、」
 
 
彼の言うことはもっともだ。
 
 
所詮、夢の中のお話。
 
 
…でも、
 
 
(…どうして、こんなに胸が苦しいんだろう?)
 
 
夢の中のわたしと、触れられなかった彼女。
 
 
彼女を想うと、愛しさと罪悪感で胸がいっぱいになる。
 
 
「シルヴィエ…、」
 
 
月明かりの下で微笑む彼女を思い出し、傷む胸を押さえた。
 
 
 
 
 
 
 
「…んー?」
 
 
…なんだが、不思議な夢だ。
 
 
「あれもいつかの前世の記憶かなぁ」
 
 
もう顔を思い出せない夢の中の彼がなんだか誰かに似ているような気がした。
 
 
「シリルーいつまで寝ているの?」
 
 
ぼぅ、と先ほどの夢を思い出していると、ノックの音と共にアンジュの声が聞こえる。
 
 
「あ、ごめん、今行くよ。先に行ってて」
 
 
「急いでねー」
 
 
「わかったよー」
 
 
さて、みんなを待たせるわけにもいかないし、早く支度をして…、
 
 
「?オイッ!シリルお前どんだけ支度に時間かかるんだよ!女、か…」
 
 
「あ、」
 
 
勢い良く蹴り開けられた扉。
 
 
こんなことをするのはスパーだくらいだ。
 
 
「ごめん、もう終わるよ」
 
 
急いでシャツのボタンを留め、椅子にかけていたジャケットを羽織り、ステッキを持った。
 
 
「うん、終わった。待たせてごめんね」
 
 
「え、あ、おう」
 
 
扉の前で固まっていたスパーダは、はっ、としたように頷いた。
 
 
「…って、ちげーよ!」
 
 
「え、何が?」
 
 
「何がって、お前…、」
 
 
「ちょっと!アンタ達遅すぎ!」
 
 
待ちきれなくなったイリアがやって来た。
 
 
「イリア!それどころじゃねぇんだって!」
 
 
「何がよ!」
 
 
「こ、こいつ、」
 
 
スパーダが顔を真っ赤にしてぼくを指差す。
 
 
「女だったんだよ!」
 
 
スパーダは宿中に響き渡るんじゃないかってくらい大きな声で叫んだ。
 
 
 
 
 
 
 
ぼくっ子。