ルカが、刺された。
 
 
「ルカ…、」
 
 
ベットの上の彼は青白い顔をしている。
 
 
彼の手に、触れようとして、やめた。
 
 
前世の記憶、あの日の“彼女”と彼が重なって触れられなかった。
 
 
「…ルカくんは、“彼女”じゃないよ」
 
 
「…わかってるよ、」
 
 
いつの間にか部屋に入ってきていたコンウェイに呆れたように言われた。
 
 
「…わかってる、けど、怖い、」
 
 
あの日の記憶が、頭に焼き付いて離れない。
 
 
触れた、指先から“彼女”に広がる黒い影が。
 
 
(…アルミィロ、貴方は悪くないよ。だから、泣かないで、)
 
 
「キミのせいじゃない」
 
 
「…え?」
 
 
「…キミが悪いわけじゃないよ。ほら、」
 
 
コンウェイがぼくの手のひらを掴み、ルカの手のひらに重ねた。
 
 
「あ…、」
 
 
「ね?大丈夫だ」
 
 
振り返ると、彼は微笑んでいた。
 
 
「きっと、もうすぐ目が覚める。だから、今のうちに少し休んだ方がいい」
 
 
「…うん、コンウェイ、」
 
ぎゅ、と握ったルカの手は、思ったより暖かい。
 
 
「なんだい?」
 
 
「…ありがとう、」
 
 
彼の言葉で胸が少し軽くなった気がした。
 
 
ぼくはコンウェイにお礼を言って、部屋を出た。
 
 
 
 
「…どういたしまして」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
過去を一つ越える。
 
 
 
 
あの頃は、気が付かなかった。
 
 
キミがそばにいるのが当たり前になっていた。
 
 
 
 
「コンウェイあのね今日はね、」
 
 
彼女は楽しそうに夢の話をオレにする。
 
 
「…それでね、“彼”ったらどうしたと思う?“彼女”が花を好きだからって、花の女神を連れてきちゃったんだよ?」
 
 
「…キミは夢の中でも突拍子も無いことをするね」
 
 
「夢の中でもってなに!もう!」
 
 
むすっ、とする彼女の頭を撫でてなだめると、
 
 
子供じゃない、と言いつつも直ぐ機嫌の良くなる彼女。
 
 
微笑み、オレの手のひらに擦り寄る彼女。
 
 
 
 
 
 
「…、」
 
 
「でもさ、ホント驚いたよ。まさかサクヤを連れていっちゃうなんて」
 
 
「やめてやめて、本当に恥ずかしい」
 
 
ルカくんの言葉に両手で顔を隠して首を振るシリル。
 
 
「なんつーか、アルミィロって天然だよなぁ」
 
 
「ホントばかよねー」
 
 
「でも仕方ないんじゃないかしら?だって彼は随分と長いこと泉の底に一人でいたんでしょ?」
 
 
アンジュさんがシリルの背中を擦りながら聞く。
 
 
「…ちなみに、シルヴィエとアルミィロの馴れ初めは?」
 
 
「抜け目ないね、アンジュ…」
 
 
困ったように笑う、シリル。
 
 
「もうやめよう!この話は!恥ずかしいから!」
 
 
そう言って、走り去るシリルをイリアさんとスパーダくんが追いかける。
 
 
「…コンウェイさん、」
 
 
「…?なに?」
 
 
先程まで話の輪の中にいたアンジュさんがボクに微笑みかける。
 
 
「そんなに彼女が気になりますか?」
 
 
「…なんのことかな?」
 
 
にっこり、と微笑み返せば、アンジュさんもまた笑う。
 
 
「…そうですか、まぁ、彼女もいくら鈍感と言っても、アレだけ行動で示せばわかるんじゃないでしょうか?」
 
 
ちらり、とこちらをみたアンジュさんの顔は全てを知っている顔だ。
 
 
「…だといいんですけどね」
 
 
ボクが降参しますよ、と両手をあげれば、
 
 
アンジュさんは、今度詳しく教えてくださいね、と言い残し、
 
 
未だイリアさんとスパーダくんに絡まれている彼女のもとへと向かった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
記憶が重なる。
 
 
 
本当は他人に干渉したりするのは、ボクには合わない。
 
 
「今はボクしかいないから。」
 
 
そう言って彼女の頬を撫でる。
 
 
彼女は静かにボクの胸に額をつけた。
 
 
(…なんでだろうな?)
 
 
なんて、そんなのわかりきってる。
 
 
シリルが気になるのは、“彼女”に似ているからだ。
 
 
…そう、それだけだ。
 
 
「…コンウェイ?」
 
 
涙で揺れる、水色の瞳。
 
 
ボクはまるでその瞳に吸い寄せられるように、シリルにキスをした。
 
 
「…目、閉じたら?」
 
 
「え、や、その、」
 
 
顔を真っ赤にしてあたふたとするその姿がさらに“彼女”を思い出させる。
 
 
「えっと、あ、ありがとう。元気でたよ、おやすみっ」
 
 
「あ、」
 
 
捲し立てるようにそう言って、彼女は逃げるように宿へ戻っていった。
 
 
「…はぁ、」
 
 
手のひらを見つめた。
 
 
ボクはなにをしてるんだ。
 
 
「ボクの目的は、彼女を取り戻すことだ」
 
 
そう、目的を忘れてはいけない。
 
 
そう思いながらも、脳裏に焼き付いて離れないのは“彼女”ではなく、シリルだった。
 
 
 
 
 
 
思い募る。