ガブリエル・バンサン『アンジュール ある犬の物語』 | B/RABBITS(ビーラビッツ)のおしゃべり・絵本

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絵本専門古本屋(児童書)を13年経営していました。手と腕を壊して休業中です。この機会にもう一度、絵本や好きな本を見つめ直します。お店で"おしゃべり"していたように、本以外についても"しゃべる"ように書いています。


先日図書館で借りた『100人が感動した100冊の絵本』『おとなが子どもに出会う絵本 80人が語る80冊』(平凡社)。合計180冊の絵本の紹介のうち、手にしたことがなかった絵本は10冊でした。(洋書のみも含め)

絵本の古本屋を営んでいた13年間、毎日色々な絵本に出会えたのだなぁと、つくづく、しみじみ思います。


『アンジュール ある犬の物語』の紹介を読んで、久しぶりにページを繰りました。

~疾走する車から、投げすてられた飼い犬。その瞬間から野良犬になってしまった。

自身に突然おきた出来事に戸惑い、立ち尽くし、さすらう、野良になってしまった犬。


飼い主の車を必死に追いかけ全力疾走。やがて車が見えなくなり立ち尽くす。

地面に鼻をこすりつけて臭いをかぎ、犬は道路に飛び出し、車の事故をひきおこしてしまう。

驚き怯え、どうしようもなく…、
その場を立ち去る。

途方もなく歩き浜辺へ。
海を背に空に向かって吠える。
渚を歩き、立ちどまり、振り返る。
高台から遠くに見える町。

ひたすら歩き、さまよう。さまよう。
どのくらい歩いたのだろう。
町に着き路地裏へ。
邪険にされて広い道に出る。

ひとりぼっちの子どもが、犬に向かってゆっくりと歩いて近づいてくる。


バンサンのデッサン風の表情や姿態、遠近法の絵に魅入られます。
想いのたけを伝え、語られているこの絵本は、久しぶりに開いても、最初に見たときの新鮮さはちっともかわりません。

犬の気持ちに寄り添いながら、
いっしょにさまよい、
さまよい歩き、
せつなさに顔を歪めながら見守り続け、

安堵し、ページを閉じます。


文字のない『アンジュール』は、
今日のような真夏日に見ると…、
道や浜辺の灼けつくような暑さが感じられ、
凍てつくような真冬に見ると…、
吹き荒む寒さが感じられます。

朝、昼、夕方、夜、深夜、夜明け前…。
心とからだが弱っているとき、
エネルギーに満ち溢れているとき…、
自分のその日のその時の立ち位置で、心の琴線の音色が違って聞こえます。

理不尽な無情、人間の業に対しての怒り。
生きとし生けるものへの慈しみ。
書くまでもない、人としてあたりまえのこと。生涯変わることはない。


[裏表紙/表紙]ブックローン出版