先日Twitterにアーサー・ラッカム挿絵の新書館『グリム童話集』1~3巻を読んでいるとつぶやきました。
先ほど読了(3巻各20話)。
第 3 巻表紙『ヘンゼルとグレーテル』
第1巻表紙『白雪姫』
第2巻表紙『赤ずきん』
福音館書店/フェリックス・ホフマン編・絵/大塚勇三・訳や岩波書店/佐々木田鶴子・訳/出久根育・絵、小学館の高橋健二・訳、講談社青い鳥文庫、偕成社、こぐま社などの『グリム童話集』をここ数年読んでいました。
久しぶりに読む池内紀氏訳/新書館版は、大人向きでピリリとしたクールな訳。「おっォ~」「ひェェ~」と声を出しながら清々しく読み終えました。
グリム童話集は、21世紀の現代の普通の人間がしでかす、得体の知れぬ理不尽な怖さとは違い、"悪い奴"の明確さが際立っています。悪い奴がわかりやすい。
むかしむかしの悪い奴と現代の悪い奴…現代のほうが、煮ても焼いても喰えない悪い輩が多いと感じる…という、久々の『グリム童話集』読後の率直な感想です。
聖書に次ぐ世界的ベストセラーがグリム童話。繰り返し読んだお話もあるが、"へぇ~、この話は覚えていない。この話は知らない…初めて"と、各出版社と読み比べて面白いのがグリム童話集です。
『Arthur RACKHAM A Life with Illustration 』J・ ハミルトン編(評伝書)
久しぶりに読みたくなったのは、上の本の表紙を"厳しくも美しいキレイな絵だなぁ"と、夢か現か幻かと、まどろみながら眺めていた、やや風の強い日曜日の午後でした。
あわてて図書館まで行き、リクエストして借りました。
「麦わらと炭とそら豆」
"昔、あるところに貧しいおばあさんがいた。"の挿絵
それにしても、アーサー・ラッカムの挿絵の素晴らしさは、有無を言わさぬほど質が高くてゾクゾクしました。
3 ページの短い滑稽な「麦わらと炭とそら豆」そら豆の腹に真っ黒な縫い目ができたお話に、↑上の挿絵です。
寂寥感あふれるロンドンの昔の町とおばあさん。もう、第1巻のこの絵を見ただけで、グイグイ読み進ンじゃいました。
「歌いながらとぶひばり」
巻末の池内紀氏の"あとがき"がすこぶる愉快で、少し引用いたします。
第1巻より
~グリム兄弟が村や町に打ちすてられていたお伽噺の採集をはじめたのは、1806年ごろのことといわれています。
口伝えにつたわるおはなしを、ひたすら耳で聞いて、丹念に書きとめなくてはならなかった。ふたりは言語学や文芸学をうっちゃらかして熱中しました。
そんなに熱中したのも、メルヘンを話してくれたのが、若くて魅力ある女性たちだったからだ、という人もいます。略~
「がちょう番の娘」
などと、くだけた文章も書いていますが、歴史的にドイツがナポレオン時代に支配下にあったとき、グリム兄弟がなぜメルヘン収集に熱中したかという、真面目なこともちゃんとふれています。
~ドイツ受難の時代に、民衆の魂というべきお伽噺が採集されていったのです。
グリム兄弟は、単に学問上の関心だけから、メルヘンに手をそめたのではなかったはずです。軍事力では負けていても、精神のゆたかさでは決して負けない―その証拠品として、民衆の知恵袋にも似たお伽噺を、きちんと残しておきたいと考えたようです。略~
「蛙の王様」
第2巻"グリム童話の生みの親のお話"から…
~小さな町の薬局と、可愛い少女と、住みこみのおばあさんと、それに20代はじめの勉強好きの兄弟と―こんな平凡なめぐり合わせから、世界中で愛読されているグリム童話が生まれたのです。~
あとがきには、他のグリム童話の生みの親について、グリム兄弟の「骨太い素朴さ」「真実のために」の苦心さを語っています。
「ラプンツェル」
第3巻より~
グリム童話ひとつをとっても、多くの解釈の試みがあります。(古い神話、心理学、民衆信仰、教訓) 略
さまざまに解釈してたのしむのは自由ですが、昔ばなしは、意味づけしなければたのしめないというものでもありません。
意味がわからないと安心できないとしたら、なんと貧しい読書家でしょう。それは犯人がわかっていないと落ちついて読めない探偵小説の読み手のようなものではありますまいか。 略
…様々なグリム童話集や研究書的な本もかつて読みましたが、"あとがき"の率直さに惹かれたのは初めてです。
ラッカムの挿絵の魅力を何度かblogにも書きました。(過去blogをご参照ください)もうひとつの魅力は、妖しく美しい挿絵ばかりではなく、墨一色の線画のユーモアさもあります。この小人はイラストレーション・リストの挿絵です。
今回のblogは、真っ正面にグリム童話について書かず、変則的でへんな?!切り口で書いちゃいました。
ラッカムの挿絵と真っ直ぐな訳の余韻に浸りたかったので…あいすいません。
おまけ。
「ヨリンデとヨリンゲル」
"魔女は、昼間は、猫に姿を変え、夜は人間の姿をしている。"
…う〰ん、不気味な猫でカッコいい。