逢魔が時に会いたいトミー・ウンゲラー(アンゲラー) | B/RABBITS(ビーラビッツ)のおしゃべり・絵本

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絵本専門古本屋(児童書)を13年経営していました。手と腕を壊して休業中です。この機会にもう一度、絵本や好きな本を見つめ直します。お店で"おしゃべり"していたように、本以外についても"しゃべる"ように書いています。

開店準備をしていたある日のこと、
店頭に本を置いていたら、ガラガラとカートを引く音が近づいてきました。

「お店に入っていいですか?」
ふと顔をあげると、流暢な日本語を話す若い外国人の女性。

「友だちからこちらの話を聞いて来ました。うわぁ~、たくさんあるぅ」
ロンドンに住んでいるというMちゃん。

「勤めていた会社の絵本で、つまらないものですが…」
と差し出したのがこの絵本でした。

2008年/Phaidon Press Limited ・英国版
『すてきな三にんぐみ』
           今江祥智 訳  偕成社(1969年初版)
First published in 1962 /U.S.A
Copyright ©1963/Diogenes Verlag AG Zurich
(1961年フランス語版初版)
(実は頂いた絵本はプレ版。止むに止まれぬ大人の事情があって、コレクターの方と新本に交換。ごめんねMちゃん)


『つ、つ、つまらないものじゃないです。大好物ですトミー・ウンゲラー(=アンゲラー)。ましてや"すてきな三にんぐみ"ですもの』

あれ、あれ、あれれれれ、邦訳版と違う絵があるじゃないですか?同じ構図で描き足したり彩色したり…えっ、えっ~

『この出版社に勤めていたんですが、色々な事情で辞めました。』

『やはりイギリスの出版界でも、リーマンショックの影響ってスゴくあります?日本でもこれから、大変なことになるかも(2008年)』

『この絵本の出版には、かくかく然々の事情がありまして……』

話を聞くと、ある日トミー・ウンゲラーが編集室に突然やって来て、
『この絵本を描き直したい箇所がある』と。編集部は上へ下への大騒ぎ。

『えっ~~、日本でも100刷以上版を積み重ねている絵本を。~~んー、さすがウンゲラー』
裏表紙》

『大変だったんですよ。編集部は良質な本の装丁をしようと、マットな紙質や表紙のエンボス加工など…。
コストがかかるし、営業部は本がビニール・コーティングされていないと汚れるし、破損が心配だとか…もめて大変でした』  
(記憶をたどりながらなので、会話の正確性はちょっと。でも事実)

わたしはトミー・ウンゲラーが45年以上経ているのにこだわる、アーティストの飽くなき追求の姿勢に、引き続き畏敬の念を抱きました。

本の表紙にあるエンボス加工された絵。




"おそろいの あかい ぼうしに あかまんと
さあ みんなの おしろへ ひっこした"の場面は、黒い帽子のシルエットを描き、木・女の子の表情を描き直しています。




子どもの表情の違いと、指先に鳥を描き足すページ。




ラストのお城のバックに山と月を描き足しています。

M ちゃんは"こどものとも"シリーズが、いたく気に入っていました。お昼を食べに一度外に出て戻って、またもや集中して見て選んでいました。(なにせこどものともは、年中・年少合わせて800冊位は、いつも棚に並んでいました)

『いけなーい、約束の時間に遅れちゃう。ウソ、わたし6時間もいたんですね
と、選んだ本をレジに持ってきて…
『えっ~、わたし反対側の棚を全然見なかった~、"かがくのとも"はこっちにもあるんですかぁ~』
そうです。Mちゃんは左側の日本の絵本しか見ていなかったんです。

言っときますが、お店はたったの5坪。店に置いてある本は約8000冊~でした。
『また、ロンドンから遊びにおいで』



次はフランスのペーパーバックと、邦訳版の表紙と裏表紙の違いをお楽しみください。

ペーパーバック版・1980年初版



『エミールくんがんばる』(1960初版)
              今江祥智 訳   文化出版局(1975)

鮫に襲われそうになった船長さんを助けて、一緒に暮らすことになったたこのエミール。何をやっても器用にこなすエミールは人気者に。悪いやつらを捕まえようと大活躍します。


裏表紙は、本が白抜きしてある絵のフランス語版の方が見やすいです。





新潟"マツヤ"のロシアチョコレートに入っていたイラストを切り抜き、ぺたりコラージュ。

わたしの手元に、雑誌(みづゑ2004・夏号/美術出版社)の記事のメモ書きがあります。お店を営んでいるとき、レジ横に貼っていました。

~子どもに嘘をつくこと、偽善。それは最も存在してはいけないこと。
もし、子どもたちが偽善のなかで育てられたら、現実の社会では、まったくの無防備になってしまうでしょう~


~間違いは正すことができる。~
トミー・ウンゲラーの絵本論の全文が胸に響きました。
そのなかでも"間違いは正すことができる"という言葉に励まされました。
間違えたら、素直に間違いを認め、正せばいいんだ…と。