店頭に本を置いていたら、ガラガラとカートを引く音が近づいてきました。
「お店に入っていいですか?」
ふと顔をあげると、流暢な日本語を話す若い外国人の女性。
「友だちからこちらの話を聞いて来ました。うわぁ~、たくさんあるぅ」
ロンドンに住んでいるというMちゃん。
「勤めていた会社の絵本で、つまらないものですが…」
と差し出したのがこの絵本でした。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20150124/16/petsuko-0611/2c/f1/j/o0720096013198164149.jpg?caw=800)
2008年/Phaidon Press Limited ・英国版
『すてきな三にんぐみ』
今江祥智 訳 偕成社(1969年初版)
First published in 1962 /U.S.A
Copyright ©1963/Diogenes Verlag AG Zurich
(1961年フランス語版初版)
(実は頂いた絵本はプレ版。止むに止まれぬ大人の事情があって、コレクターの方と新本に交換。ごめんねMちゃん)
『つ、つ、つまらないものじゃないです。大好物ですトミー・ウンゲラー(=アンゲラー)。ましてや"すてきな三にんぐみ"ですもの』
『あれ、あれ、あれれれれ、邦訳版と違う絵があるじゃないですか?同じ構図で描き足したり彩色したり…えっ、えっ~』
『この出版社に勤めていたんですが、色々な事情で辞めました。』
『やはりイギリスの出版界でも、リーマンショックの影響ってスゴくあります?日本でもこれから、大変なことになるかも(2008年)』
『この絵本の出版には、かくかく然々の事情がありまして……』
話を聞くと、ある日トミー・ウンゲラーが編集室に突然やって来て、
『この絵本を描き直したい箇所がある』と。編集部は上へ下への大騒ぎ。
『えっ~~、日本でも100刷以上版を積み重ねている絵本を。~~んー、さすがウンゲラー』
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20150124/16/petsuko-0611/63/51/j/o0720096013198164161.jpg?caw=800)
『大変だったんですよ。編集部は良質な本の装丁をしようと、マットな紙質や表紙のエンボス加工など…。
コストがかかるし、営業部は本がビニール・コーティングされていないと汚れるし、破損が心配だとか…もめて大変でした』
(記憶をたどりながらなので、会話の正確性はちょっと。でも事実)
わたしはトミー・ウンゲラーが45年以上経ているのにこだわる、アーティストの飽くなき追求の姿勢に、引き続き畏敬の念を抱きました。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20150124/16/petsuko-0611/f4/c9/j/o0800060013198164185.jpg?caw=800)
本の表紙にあるエンボス加工された絵。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20150124/16/petsuko-0611/d3/43/j/o0540096013198164197.jpg?caw=800)
"おそろいの あかい ぼうしに あかまんと
さあ みんなの おしろへ ひっこした"の場面は、黒い帽子のシルエットを描き、木・女の子の表情を描き直しています。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20150124/16/petsuko-0611/cd/d3/j/o0540096013198164202.jpg?caw=800)
子どもの表情の違いと、指先に鳥を描き足すページ。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20150124/16/petsuko-0611/11/c5/j/o0540096013198164208.jpg?caw=800)
ラストのお城のバックに山と月を描き足しています。
M ちゃんは"こどものとも"シリーズが、いたく気に入っていました。お昼を食べに一度外に出て戻って、またもや集中して見て選んでいました。(なにせこどものともは、年中・年少合わせて800冊位は、いつも棚に並んでいました)
『いけなーい、約束の時間に遅れちゃう。ウソ、わたし6時間もいたんですね』
と、選んだ本をレジに持ってきて…
『えっ~、わたし反対側の棚を全然見なかった~、"かがくのとも"はこっちにもあるんですかぁ~』
そうです。Mちゃんは左側の日本の絵本しか見ていなかったんです。
言っときますが、お店はたったの5坪。店に置いてある本は約8000冊~でした。
『また、ロンドンから遊びにおいで』
次はフランスのペーパーバックと、邦訳版の表紙と裏表紙の違いをお楽しみください。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20150124/16/petsuko-0611/2b/c4/j/o0720096013198164214.jpg?caw=800)
ペーパーバック版・1980年初版
『エミールくんがんばる』(1960初版)
今江祥智 訳 文化出版局(1975)
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鮫に襲われそうになった船長さんを助けて、一緒に暮らすことになったたこのエミール。何をやっても器用にこなすエミールは人気者に。悪いやつらを捕まえようと大活躍します。
裏表紙は、本が白抜きしてある絵のフランス語版の方が見やすいです。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20150124/16/petsuko-0611/4d/ff/j/o0720096013198164232.jpg?caw=800)
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20150124/16/petsuko-0611/15/8f/j/o0540096013198164247.jpg?caw=800)
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20150124/16/petsuko-0611/8d/54/j/o0540096013198164252.jpg?caw=800)
新潟"マツヤ"のロシアチョコレートに入っていたイラストを切り抜き、ぺたりコラージュ。
わたしの手元に、雑誌(みづゑ2004・夏号/美術出版社)の記事のメモ書きがあります。お店を営んでいるとき、レジ横に貼っていました。
~子どもに嘘をつくこと、偽善。それは最も存在してはいけないこと。
もし、子どもたちが偽善のなかで育てられたら、現実の社会では、まったくの無防備になってしまうでしょう~
~間違いは正すことができる。~
トミー・ウンゲラーの絵本論の全文が胸に響きました。
そのなかでも"間違いは正すことができる"という言葉に励まされました。
間違えたら、素直に間違いを認め、正せばいいんだ…と。