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新津章夫 Official Blog 《迷宮の森》

謎に満ちた迷宮のギタリスト、新津章夫のオフィシャル・ブログ。迷宮の森 《Forest in maze》

 楽しみにしていたブリッジ・レコードのマンスリー・チャート(月間売り上げランキング)が出ました。とりあえず第3位。満足です。知名度で大村憲司氏には勝てませんからね。


 少し前になりますが、9月17日付けの日刊スポーツ新聞 芸能・文化面に「サイエンス・クラシックス」が紹介されました。ありがとうございました。


 アメブロのランキングは停滞していますが、着実に多くの人の目にふれているのはわかります。皆さんに感謝・多謝です。


 ミラノはすでに初冬のたたずまいです。仕事場にデロンギ・オイルヒーターを灯してブログを書いてます。そろそろ骨のある原稿をアップします。お楽しみに。

「サイエンス・クラシックス」のライナーノーツを読んでいただいている方はご存知かと思いますが、「サイエンス・クラシックス」は四半世紀にまたがる2つの企画からできています。ひとつは、デビュー作「I・O」から「ウィンターワンダーランド」に至る期間に録音されたもの。もうひとつは、新津章夫が亡くなる1年前に製作された「プチクラ」というプロジェクトからの抜粋です。ライナーノーツには書きませんでしたが、ここに新津章夫から届いた1通のEmailを紹介します。


・ 2001年3月25日 受信
≪企画「プチクラ21」は4月スタート予定≫
 クラシック曲を100曲程度サンプリング音源で制作してきました。小品だけでなく、運命やボレロもあり、省略抽出加工型編曲を施してあります。全文提示型の’樽酒’ではなく’柑橘系エッセンス’に近付けてきました。この中から、ショパン、フォーレ、サティー、ラベルなどのフランス音楽を中心に売込み用の選曲をしました。

《中略》

 クラシック小品集21曲の仕様は次のようになります。
ⅰ.演奏時間は1分40秒から2分30秒の間に収まります。
ⅱ.編曲では、原曲に音数を増やすことなく新音を付加しない。
ⅲ.通常の楽器音を使わない。
 こうすることで、曲イメージに集中でき、情感リピートさせやすくデータとして扱いやすくなります。
《中略》

≪企画「プチクラ21」は放送の為のCD販売化≫
 これは放送での消費を前提とします。放送では記号化、楽曲ラベリングが進んでいます。10年前からこの場面にはこの系統の楽曲という紋切り型消費指向からIndex化が進行しています。サティーはその典型でしょう。今だに放送回数は多いようです。
《中略》

 1985年の音楽からソフト屋に移行するにあたって、映画の仕事だけはやり残しになりました。ビデオ(曼荼羅のCG)は最後の秀作であると思うのは、やっつけ感ですんなりはまっている作業スタイルが新鮮でした。「ほぼ日」の糸井氏が横尾忠則と祖父江慎の仕事感でふれていた。’いいかげんにやって いい感じにしあがると、いい感じがするんですよ。’今回の「プチクラ21」もこれに近い感触です。



以上。

 唯一無二と言われる新津章夫の音楽は、彼がこだわったいくつかの独創的な録音技術によって支えられている。ひとつは、自身が「倍速ギター」と呼んでいた録音技術。
 昔のオープンリール型のテープレコーダーは速度が変えられたビデオでいえば標準と3倍速のようなもの。1960年代に大ヒットした帰って来たヨッパライ 」(ザ・フォーク・クルセーダーズ=加藤和彦)はこの技術を使った代表的な作品だ。新津章夫は再生する半分の速度でギターを録音し、それを倍の速度で再生することで、音階も2倍高く、演奏速度も2倍、逆に響く音の長さ(音の減衰)は2分の1という不思議なギターサウンドを手に入れた。
 この技術を効果音として使用することは昔から多かったが、新津章夫は音階、速度、残響を計算し、偶然がもたらす計算不可能な面白さではなく、必然的に得られるユニークな音を計算して作り出した。「I・O」のレコード紹介に「何千時間という気の遠くなるような時間が流れた」とあるが、その大部分はこの作業にあてられたと言ってもいい。
 今の時代だったら、そんなもの、コンピュータを使えばちょちょいのちょい。なにをご苦労さんに…となるが、1970年代末はまだコンピュータで音楽を作れる時代ではなかった。世界初のパーソナル・コンピューター(当時はマイコンと呼ばれていた)である8ビットの個人向けパソコンが出るのは、その5年後のことだ。
 新津章夫はなんと2倍速ギターどころか、「I・O」の中の「ブラックホール」では最大8倍速まで実現している。シンバルのように聞こえる音のいくつかは、この8倍速ギターだ。 8倍速と言葉にするのは簡単だが、8分の1の速度で演奏する技術を考えてみて欲しい。ちょっとしたピッキングミスが再生時には、何倍も耳障りな音になる。新津章夫のアナログ技術の結集は、実は卓越したギターテクニックにあるのだ。 
 また、「オレンジ・パラドックス」では、途中のピッという音から後半部分が逆回転になるわけだけど、それを録音するために正回転で演奏したテープを逆回転で聴き、それをコピーするという、まるで偽札を作るときに鉛の版から掘り起すような作業をしていた。今ならばスキャナーすれば済むこと。しかし、その安直さがわざわいして捕まる若者の多いこと…。関係ないけど。
 そういった、いわば実験で得られたものは技術的なものだけではない。新津章夫のメロディーには、一見、メルヘンぽいようで不条理な後味の悪さ残ったり、心地よいメロディーのようで留まる先のない不安定さが待っていたりする。このような音階は、往々にしてこれらの実験の中から見つけ出されたものであったりした。1対1の縮尺の世界で見つけられないものが見つけ出せる。1分が60秒とされる世界では感じられない音が聞こえる。それを現実のサイズにまとめなおしたものが、新津章夫の音楽の摩訶不思議さを支えている。

 新津章夫のセカンドアルバム「PETSTEP」はタイトルが回文になっているが、パラドックス、シンメトリー、回文、アンチクライマックスなど、視覚的及び論理な不思議遊びが彼は大好きだったことも付け加えておきたい。


IO

「I・O (イ・オ)」 発売元・(株)ブリッジ
http://www.bridge-inc.net/catalogs/bridge/bridge009.html


「I・O」のCD復刻から3年。9月20日に新津章夫としては20年ぶりの新譜(!)が出ました。


タイトルは、「サイエンス・クラシックス」誰もがどこかで聞いたことがあるクラシックのスタンダードともいう名曲の数々を、新津章夫の音作りで仕上げました。「2005年は未曾有のクラシックブーム」と言われていますが、従来のオーケストラとは一味違った新津章夫のクラシックスをぜひ聞いてください。


《 曲目 》

・ 金平糖の踊り(チャイコフスキー)

・ アニトラの踊り(グリーク)

・ ジムノペディ(サティ)

・ 亡き王女のためのパヴァーヌ(ラベル)

・ アンダンテ・カンタービレ(チャイコフスキー)

・ G線上のアリア(J.S.バッハ)

  など全16曲

SC

「SCIENCE CLASSICS」 新津章夫 9月20日発売
発売元レコード会社 Bridge Ink のサイト



 新津章夫(にいつあきお) 1952年8月19日、東京・浅草生まれ。兄の影響で14歳でギターを始め、ジミ・ヘンドリックス、ジェフ・ベック、マイケル・ブルームフィールド、ジョー・パスなどに影響を受け、独学でロックからジャズまであらゆるスタイルのギターテクニックを習得。
 大学3年の時に友人と軽自動車ごと40㍍崖下に転落したものの九死に一生を得る。そして「せっかく生かされた命、好きなことをやろうと」、自分の音楽を突き詰めるため作曲から編曲、演奏、エンジニアリングまで一人で行うことを決意。当時ブームだった4チャンネルのオープンリールデッキを使って半年がかりでデモテープを作成した。これがレコード会社のスタッフの目に留まり、1978年、アルバム「I・O」を発表。このアルバムも自宅にプロ用スタジオ機材を搬入し、すべてを一人で行った。制作時間は約2年。気の遠くなるような時間を、たった一人で過ごした。
 1985年、音楽の道から退きコンピュータ・プログラマーに転身。2002年1月、呼吸不全のため死亡。まだ実年齢で49歳だった。


《ディスコグラフィー》

1978年 アルバム 「I・O( イ・オ)」 *1

      (日本フォノグラム / 現・ユニヴァーサル) 
1982 アルバム 「PETSTEP」

      (ジャパンレコード / 現・徳間ジャパン)

1985年 ミニアルバム 「Winter Wonder Land」

      (スウィッチ)

2000年 コンピレーションCD 「無印良品BGM1980-2000」

      (無印良品 / 8曲提供)

2003年 CD 「I・O( イ・オ)」 *1のCD化

      (ブリッジ)


 新津章夫(にいつあきお)は、1970年末から80年代初にかけて、ほんの一握りのマニアにだけ愛された音楽家です。しかし、そのファンは本当に彼に心酔していて、彼が音楽家としての活動を休止してから半世紀が過ぎた今も、その短かったミュージシャン生命についてネット上で語られています。数は少ないけれども、その声は賛美の限りを尽くしたもので、その声援に応えるために、私は実弟として知っている限りの新津章夫の秘密を語っていこうと思っています。
 ネット上で彼について語ってくれている人々はミュージシャンだったり、クリエーターだったり、いかにも新津章夫の音楽が玄人好みであるように映ります。卓越したギターテクニック、神秘に満ちた音作りとレコーディング技術。たしかに、製作サイドのことを知っていれば、より深く理解でき、驚かされることも多いことは確かです。しかし、けして気後れはしないでください。
 新津章夫の音楽は、愉快な音楽です。子供番組のBGMのような音楽です。
 エッシャーのだまし絵、クラインの坪やメビウスの輪、シンメトリーとパラドックス、そして、アンチクライマックス、回文、円周率…。視覚や論理、言葉など、あらゆるものの中に、平気な顔をして混じり込んでいる座敷童子(ざしきわらし)のような「不思議」が大好きでした。そんな、新津章夫の音楽は、可能性と挑戦、そして、実験に満ちた音の科学式のようなもの、なのかもしれません。もっとも本人は「まやかし音楽」と呼んでいました異常なまでの照れ屋であるがゆえの照れ隠し的表現に他ありません。
 歌とドラムはありません。現代の音楽と呼ばれる「商品」が、いかに歌とドラムに頼って成り立っているのか、彼のもっとも嫌うところでした。まぁ、それでも歌謡曲のアレンジやロックバンドのプロデュースもしていましたから、気難しい人ではありますが、けして悪い人ではありません。
 これまで聞いたこともない音楽を、という好奇心あふれる方は、ぜひ一度、新津章夫の音の迷宮へようこそ。