デビュー・アルバム「I・O」の中で、1曲だけで新津章夫を語れといわれたら、迷わずこの「迷宮の森」をあげます。このブログのタイトルにも用いた名曲。
作曲、編曲、演奏、エンジニアリング、ミキシング。すべての面で最高の曲。彼が亡くなったと聞いたとき、まっさきに「ああ、新津章夫は迷宮の森に入り込んだだなぁ」と感じました。
冒頭、ギターのハーモニックス音から始まるこの曲、もちろんバックの鳥のさえずりや猫の鳴き声もすべてギター音。そして、長い長いアルペジオ奏法。なんと録り直しすることなく一気に弾いています。高い演奏技術のなせる業です。テレキャスターにMXRのフェイズ100を使っています。
理由は聞いたことがありませんが、なぜか、この曲を録音した時には、アルペジオが引っかかったら、その場所から取り直してつないでもよさそうなものなのに、彼は頑なに一気に弾きとおしておりました。
そして、倍速ギターの音とともにこの曲のひとつの山場にさしかかります。
「イオッ!」の掛け声(当然、ギターの音なんですよ)とともに荘厳な雅楽。笙や篳篥の音、これらすべてギターで作り出した音です。「イオッ!」などは何度も何度も、幾度も幾度も練習をしていたこと思い出します。エフェクターはワウワウを使っています。別名、クライベビーというだけあって、人の声に似た加工ができます。
そうそう、この琵琶のような音も練習に練習を重ねておりました。どうやったら減衰音を短くできるか。研究に研究を重ねた結果のサウンドなのです。
そして、美しい倍速ギターのトレモロ。あのアンドレアス・ドーラウも惚れこんだ音。さらには、ワルツ・フェチ、新津章夫の独壇場といえる三拍子へ。
ラストは「シロス・リンダーホフ」(サイエンス・クラシックス)でもお馴染みのストリート・オルガンのような遊園地サウンドへ…。
今も新津章夫は、自らが作り上げた「迷宮の森」をさ迷い歩いているのでしょう。