オレンジ・パラドックス | 新津章夫 Official Blog 《迷宮の森》

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「I・O」のCD盤は「音楽の基礎研究」というシリーズ(ブリッジ・レコード)の1枚として再発された。付けも付けたり、というタイトルだと思う。そのシリーズを象徴する、あるいはシリーズに恥じない一曲が「オレンジ・パラドックス」であります。

 2分12秒と短いこの曲は1分6秒の地点を中心に、最初から聞いても最後から聞いてもまったく同じ曲に聞こえるように作られている。しかし、この曲のそういった構造については、どの資料にも明確には書かれていない。題名からの類推、制作サイドからの漏れ伝わった話、あるいは、数少ない新津章夫のインタビューなどから知った一部のファンの間で語り草となり、アナログ盤発売から四半世紀経った今も、この曲がいかに先鋭的な実験に富んだ曲なのか、ネットのどこかで噂されているのだ。

 このBlogにもさんざん書いたけど、新津章夫の曲作りのひとつの技法として、シンメトリーやパラドックス、アンチクライマックス、クラインの壺、メビウスの輪など、思考や論理や視覚における不思議を音に表すというのがある。

 1960年代、70年代にはそういった実験的な音楽というのがさまざまな分野で作られていた。その中のひとつに「無段階音階」記憶が怪しいけど…)みたいなレコードがあって、これはドレミファソラシドという8つの音階がいつまでたっても上に上がっていかないというもの。タネを明かせばミキシングの技術で下のドと上のドを摩り替えているのだ。

「オレンジ・パラドックス」はこれに大きなヒントを得ている。いつまで立っても上昇しない音階。最初から聞いても最後から聞いても同じ曲。ともに、論理的な遊びから音楽が作られている。

 正直言って、「オレンジ・パラドックス」は心地よいメロディーでもなければ、カッコいいフレーズもない。辻褄を合わせるための音の羅列に他ならない。

 しかし、コンピュータのない時代に、しかもアナログ録音で、どうやってそんなものを作れというのか? これもBlogで書いたけど、前半部分を録音したテープを逆回転させて、その音に近づけるようにひたすら練習するのだ。まるで偽札を鉛の版から起こすように…。

 新津章夫はギタリストというよりもアレンジャーであり、エンジニアである。しかし、アレンジャー新津章夫、エンジニア新津章夫の求める音を実現させられるだけの技量を持ったギタリストでなければ、逆回転音楽も倍速ギターも何も生まれない。卓越したギター・テクニックを持っていたからこそ、このような実験音楽を具現化できたのだ。

 ちなみに、バックに聞こえるリズムは、エーストーンかローランド(どちらを使ったか、記憶が…)のリムズボックスであります。もちろん、打ち込みもなんにもできない、「ルンバ」とか「マーチ」なんてリズムがあらかじめセットされている、アレ。そして、1分6秒目の「ピッ」ですが、これはシンバルの音です。その前からのジリジリジリジリはシンバルの音の減衰音です。それを加工しました。シンバルのアタック音が逆回転では「ピッ」になるので、二人でひっくり返って笑った記憶があります。

 今や曲作りのテクニックとしては古典となっている「輪唱」。これなども元を辿れば、まず構造的にこうやったら面白いのではないかという論理的な曲作りがあって、それを音に現した結果が、♪ある~ひ、もりのなか、くまさんに、であり♪ゲロゲロゲロゲロクワックワックワッになったのだと思っています。

 新津章夫が取り組んだ、逆回転音楽を現代のそして後世の音楽家たちが、ぜひ美しいメロディーで誰もが楽しめる形に仕上げてくれれば、それは輪唱などと並ぶ音楽のテクニックのひとつに育つのではと、誠に淡い期待をしているのですが…。

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