1978年の発言 | 新津章夫 Official Blog 《迷宮の森》

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謎に満ちた迷宮のギタリスト、新津章夫のオフィシャル・ブログ。迷宮の森 《Forest in maze》

「いまにコンピュータで音楽を創る時代になる。そんな時代がやってきた時、ギター1本とわずかな楽器でこんな馬鹿な音楽を創ったやつがいたって笑ってもらいたいんだよね。でも、その未来のミュージシャンたちにギターと多重録音だけで、このアルバムと同じ音は絶対に作れっこないという自信はあるけどね」

 これは1978年に「I・O」が発売になった当時、新津章夫のスーパーバイザーだった、音楽ライターでありプロデューサーの岩田由記夫氏が「I・O」の宣伝資料に綴った言葉です。

 日本初の8ビットのパーソナル・コンピュータ(当時は「*マイコン」と呼びましたが…)が発売されるのは、その2年後のこと。実際、それ以降、音楽は大きく変化しました。

 当時、僕もミュージシャンを志すティーンエイジャーでしたが、僕から見ても今の若い人たちは、機材面では本当に恵まれています。ビートルズの日本公演の映像を見たことがある人は、ポール・マッカートニーが、どんどん横を向いてしまうマイクスタンドを手で押さえながら歌っているのに気づいたことでしょう。60年代、70年代の機材なんて、あんなものだったんです。天下のビートルズの公演でですよ?!

 実は「I・O」は、アルバム制作のきっかけとなった4チャンネルのオープンリール・レコーダーで録音されたデモテープの内容と、あまり変わりがありません。プロ機材を使ったことで、音質が格段によくなった。そのくらいです。CD化した際の解説に「何千時間もかかった」とか「制作に1年以上」とありますが、アルバム化されるまでには、その倍の時間が費やされました

 時間をかけて、何度も何度も見直し、手直し、練り直し、修正、取捨選択がされたものは、当然のことですが、タフです。ある有名デザイナーは20回縫い直す、といわれています。19回縫い直しても、まだ直すべき点を見つけられるわけです。新津章夫の音が約30年経った今も新鮮に響くのは、音をひとつづつ取り出しては磨きあげたから、だと思うのです。

 機材の質が向上し、またデビューへのハードルが低くなったためか、昨今の音楽の薄っぺらさがとても気になります。発表したばかりの気持ちがホットなときはいいけれど、”その時”が過ぎてしまうと気持ちまで冷めてしまうハズレ馬券のようになってしまいます。

 若いミュージシャンたちへ。創意工夫を凝らして、アイディアを練って、楽器の練習をして、何年経っても褪色しない、ヴィヴィッドであり続ける音楽を作ってください。

*新津章夫は、この”マイコン”をすぐに手に入れ、そのことがのちにコンピュータ・プログラマーへの転進のきっかけとなりました。