やっと、やっと、『ピカレスク 人間失格』を観た。
ピカレスク

 いきなり線が細過ぎるぞ~河村隆一。と叫んでしまいそうになったが、見続けるに従って違和感がある部分とイメージする実像とダブる部分とが出始めた。いわゆる軽佻浮薄で弱々しいイメージの太宰像には河村隆一はマッチしていたと思う。駄目なのはまず、声がいけない。子供のようで軽すぎる。道化の人生とはいえ、屈折を感じない河村の声では太宰の人生は語れない。但し、居酒屋で軽薄にコンチハと挨拶することを薦める段の太宰の声はよかった。映画の最後の部分。破滅へ突き進む太宰の姿は迫力はなかったが、独特のふらふわした感じは「もしかしたら太宰は最期までこうだったのかも知れない。」とも思わせた。そういう感想を抱かせたという意味では河村隆一の演技も捨てたものではなかった。

 まあ、主演の河村隆一には沢山言いたいことはあるけれどもしかし、井伏鱒二役の佐野史郎。檀一雄役の岸田修治。 山岸外史役の天宮良。大田静役の緒川たまき。 津島佐知子役の裕木奈江。山口冨美江役のとよた真帆。佐藤春夫役に大杉漣。ちくま書房社長役に田口トモロヲと脇を固めた人たちがものすごかったので、全体的に文芸作品として格調高く仕上がっている。おそらく一通り太宰文学を読み、年表に目を通したことのある人ならそれなりに楽しんで見ることができただろう。ちょい役だが太宰の兄役に猪瀬直樹が出演していたのも面白い。また、意外にも戸山初枝役のさとう珠緒は私のイメージにぴったりだった。
 結局、かくれ太宰ファンは最後まで見て飽きることはなかった。傑作とまでは言い難いが、まあまあな内容だったと思う。ただし、原作では太宰の闇の部分のクローズアップが凄くてそこが面白かったのだが、映画の方はかなり日当たりのよい所に陣取っている感があった。つまりはそこそこ軽く触れるか触れないか位に済ませてしまっていたのは残念だ。

 また、いわゆるエンディング・テーマは、河村隆一には我慢して欲しかった。全く内容とかみ合わないイメージ・ソングや挿入歌が多い昨今の日本映画界、その中ではかなりまともであったと思うけれど、エンド・タイトルも歌なしで終わって欲しかったというのが、かくれ太宰ファンの本音である。

 追伸。実際に何人もの女がナンパ(?)され、生死を共にしようとしたのだから、太宰治はかなり魅力的な人物だったのだろう。私がもし女で太宰と同じ時代に生きていて、飲み屋で行き合っていたとしたら、きっと惚れ込んでしまっていただろうと思う。昔学生の頃そんなことを思いながら彼の小説を読んでいたものだが、この映画を 観てそんな気持ちになったのを思い出した。

かくれ太宰ファン 『ピカレスク』を読むも併せてご覧頂けると幸いです。