適当なこと書く。


「きっと何物にもなれないお前たちに告げる!」

輪るピングドラムの有名なセリフ。


このセリフを聞いた時

ああ、そうか。

私は何者にもならなくていいんだ。

って、思ったものだ。



私の望みは何者にもならない。

ただただ時間を浪費し、生涯を終える。


だけど、ふと思う時がある。

本当にそれでいいのだろうか?と


その疑問は

焦りとなり

後悔となり

嫌悪となり


ぐるぐると

もやもやと



別に私の人生だから好きにしていい。

決めたことを覆すのも勝手でいい。

まずは1歩。前に歩いていけばいい。


だけど、その1歩が踏み出せない。


努力実らず絶望する未来が怖い。

挑戦を嘲笑われる環境が怖い。

それなら、駄目なままでいいと楽に惰性に流される。


私は臆病者だ。


臆病だがポジティブな考えをするのが得意だ。


今が底辺だと思うなら

そこからさらに落ちることはあるめえて。


努力してもいいのかな。

夢見てみようかな。

そんな事を考える深夜2時前。


夢は言葉にするほど叶いやすい。

だけど、まだ言葉にできない。

そう、まだね。

5月15日は我らがアイドルであり、俺の担当であるウサミンこと安部菜々の誕生日だ。

というわけで、今日は徹底的にウサミンをお祝いするぞ~!

思い切り右手を振り上げると、前から来た人がビクッと体を仰け反らし遠回りするように横を通りすぎて行った。

「………。おっと、早く向かわなければ」

俺はそう呟くと足早に事務所へ向かった。


「おはよぉございますよっとー」

両手が荷物で塞がっていたが手の甲だけを使って扉を開ける。これぞライフハック。そんなことを考えながら、荷物を事務所のテーブルへ置く。中身はナナさんの誕生日を盛大に祝うべく購入してきたパーティグッズやケーキ、ケンタッキーだ。そして、胸ポケットから各領収書をそっとちひろさんのデスクに置いておく。

「さてと」

と振り向いたところで事務所のソファに誰かが座っていることに気がついた。ん?あの後ろ髪。あの愛らしさ。もしやもしや!

「おっほー!やっぱりナナさんじゃないですか!おはようございます!それとお誕生日おめで…」

ポケットに忍ばせておいたチャリオット式クラッカーを放とうしたところで俺はナナさんの異変に気がついた。ナナさんはソファに座り、俯き。そして、静かに泣いていた。

「ナナさん、どうしたんですか!?どこかケガでも?それとも悪い夢?誹謗中傷!?ナナさんを傷つけるやつは俺がこの世から消しさりますから。俺に出来ることはなんでもやります!」

ナナさんの前に座り込んだことでようやくナナさんは俺を見てくれる。しかし、ナナさんの涙は止まることなく顔を背けて泣き続ける。

「うおおおおおおおお!誰だぁ!ナナさんを泣かせた奴はあ!例え神様仏様イエス様、お天道様閻魔様、総理大臣に大統領。都知事県知事市長町長村長ハ長調!誰が許そうとこの俺だけは絶対に許さんぞお!」

怒りに打ち震え、悪を打たんと事務所を飛び出そうとした時、スーツの端をきゅっと握られた。

「違うんです。プロデューサーさん、違うんです」

その手の主は我が心のアイドルナナさん!泣いていたせいかほんのり赤らんだ表情がすごく色っぽい。

色っぽい表情+俺の服の裾を引っ張る=プロポーズ

「わかりました!ナナさん、結婚しましょう!」

「ええええ!?なんでそうなるんですか!!」

「息子の名前はエイト、娘の名前はクウ。孫の名前はミリオなんてどうでしょう!」

「ま、孫!?」

「記念日管理も任せてください。俺、絶対に忘れないんで。毎月、毎年、毎世!盛大にお祝いしますから!!」

「プロデューサーさん、あの、ちょっと!」

「そうと決まれば善は急げ!今から必要な手続き諸々その他。さあ忙しくなるぞー」

「だから、話を聞いてくださーい!」


閑話休題。

ナナさんの必死なセクシーダンスもとい説得を受け俺は正気に戻る。まずは一息入れて話し合おうとお茶を用意して向かい合うようにソファへ座った。

「ふぅ…それでプロポーズはやはり男の俺がするべきだって話でしたよね」

「話がまた戻った!?」

「冗談です。それでナナさん。一体何があったんですか?」

そういうと、ようやくナナさんいつもの笑顔を見せてくれた。どうやら先程のやり取りはナナさんを笑わせるために俺が道化を演じていたと考えているらしい。いや、俺は冗談ではなく本気でナナさんのことをゲフンゲフン。これではいつまで経っても話が進まない。俺は逸る気持ちを抑えつつナナさんの話に耳を傾けることにした。

いつもの笑顔を見せてくれたナナさんだったが、オレが静かにしていると次第に表情を曇らせてゆく。どう話を切り出したらいいのか悩んでいるという感じだ。そして、意を決したようにナナさんは口を開いた。

「あの…私がウサミン星出身地というお話は覚えていますか?」

「もちろん!ウサミン星出身の永遠の17歳アイドル安部菜々!担当の情報を俺を忘れるわけがないじゃないですか!」

「ありがとうございます。で、ですね…えっと、プロデューサーさんはその話をどこまで信じていますかー…なんて」

「120%信じてます!」

俺はビシッとナナさんに親指を立ててサムズアップ。しかし、ナナさんはその反応にやや困り気味。これはきっと俺がふざけていると思われているのだろう。安心して欲しい。俺はプロデューサー。商談などで空気を読むことには人一倍長けている。いくら俺がウサミン星の女の子と地球の俺がアイドル活動を通して2つの星の架け橋となり宇宙をまたにかけるアイドル・安部菜々をそばで支えることに命をかけていても、ここはその感情を抑えてナナさんの望む答えを出すなんて造作もない。

「ナナさん、好きです」

「え?」

おっと、感情を抑えすぎて本音が漏れてしまった。

「そうですね。ウサミン星という設定というのがやはり世間一般的なイメージでしょうか」

「そう、ですよね…」

ナナさんがしゅんと項垂れる。おや、選択肢を間違えたか?いや、そんなはずは無い。何かの間違いだ。大丈夫、ここから巻き返せばいい!と、俺がどう声をかけたらいいか迷っているとナナさんが切り出した。

「実は、本当なんです。私がウサミン星出身という話」

「はぁ」

これにはさすがの俺も気の抜けた返事を返すしかない。信じて欲しくなさそうだったり信じて欲しいと言ったり。しかし、それはナナさんも同じなのであろう。信じて欲しいけど信じてもらえない。それは悪魔の証明にも近い内容なのだ。であれば、俺のする事は何一つ変わらない。俺は意を決するとナナさんの両手をきゅっと握った。

「ナナさん」

「え?あ、はい!」

「俺はナナさんの言うことだったら全っっっっっ部信じますから!安心して俺に悩みを打ち明けてください!」

突然手を握られ一瞬動揺したものの俺の熱い視線にナナさんはようやく堅くなっていた表情を和らげてくれた。

「わかりました。それじゃあ、お話します。私達の星ウサミン星を滅ぼしたQ-61飛行船団が地球へ接近しています。このままでは地球が滅びてしまいます」

「………」

想像以上にやばい話だわ、これ。


私たちが暮らしていたウサミン星は地球と同じくらい緑豊かでかつ文明も進んでいて住民も生き生きとしたとても素晴らしい星でした。

そう、過去形です。その日は唐突に訪れました。突如宇宙から謎の飛行船が襲来し、攻撃を開始したのです。

私たちがQ-61と名付けた飛行船郡は次々と都市部を破壊。多くの住人が犠牲となりました。私たちウサミン星の人達も懸命に応戦したものの叶わずたった数日で全滅しました。

もはや星を放棄するしかない状態。しかし、国民全員を救うすべなどなく1部の王族のみを星から脱出させました。

いつかウサミン星の再興となる事を祈って。

そして、そのうちの一つが地球に到着。その中にいた王族の姫それが私です。

私達は地球の文明になれるため職を得て細々と暮らしていました。しかし、それを許さないとするものが現れたのです。

それがかつてウサミン星を滅ぼしたQ-61だったのです。

Q-61はウサミン星の人々を根絶やしにするため地球の我々を追いかけてきたのです。

このままでは地球の人々に迷惑をかけてしまいます。なので、我々は今日、この星を去ることになりました。

だけど、別れを告げようとこの部屋を訪れた瞬間、涙が…あふれ出てきて…」


そこで言葉を区切るとナナさんは再び俯いてしまった。さすがの俺も想像以上にスケールの大きな話で上手くセリフを紡げないでいた。

例えば「ウサミン星からお迎えが来て、星に帰らねばなりません」という展開なら「着いていきますよ。例え火の中水の中草の中森の中土の中雲の中あの子のスートの中だろうとどこまでも!」と一言で済む話なのだ。…ナナさんのスカートの中か。チラリとナナさんの足元を見る。膝丈のスカートだが座っているせいで綺麗な太ももが顕になっている。ふむ、ありだな。

「プロデューサーさん」

名前を呼ばれ、ナナさんの足の生態観察をしていたことがバレたのかと思ったがそうではなかった。

「最後に貴方に会えてよかったです。今までありがとうございました」

「まってください。ナナさん。もしや、全てを諦めてその飛行船団とやらの元へ行く気じゃないでしょうね」

「はい、もうそれしか

「その結論はまだ早い!!よくぞナナさん、この俺に相談してくれました。此度のもんだい、俺がまるっとズバッと解決してみせましょう!」

突然の見栄に一瞬、ポカンとするもののナナさんはすぐに反論を切り返してきた。

「無理ですよ。これはもはや戦争にもなり得る問題ですよ。それをただの地球人である貴方に一体何ができるって言うんですか?」

「もちろん、俺一人じゃ何もできません。だけど、俺にはナナさんがいる。そして、ナナさんにも俺がいます。今まで如何なる苦難も2人で乗り越えてきました。だからこそ、今回も2人で乗り切りましょう」

「でも、どうやって…」

「宇宙戦争だろうがラグナロクだろうが俺たちのやることは変わりません。ナナさん!飛行船団に向けてライブを行います!」


そこからの準備はスムーズだった。あっという間に宇宙向けのステージが建設され、数日のうちにライブの準備が整った。その頃にはQ-61飛行船団が近くまで来ていることは世界中でも確認できるほど彼らは迫っていて、地球の皆が固唾を呑んで見守る中。数分後にライブの開演が迫っていた。

「えええ…」

「どうしたんですか?ナナさん」

「いや、あの展開早すぎる…というか、なんでこんなに準備が早いんですか?」

「敏腕プロデューサーですから。というのは冗談として、実は346プロには対宇宙戦争のためのライブ企画書が存在しているんですよ」

「なんであるんですか?」

「そんなことより、まもなく開演です。彼らが到着と同時に幕が上がり後はナナさんのオンステージです」

「…もしうまくいかなかったら」

「大丈夫ですよ」

「どうしてプロデューサーはなんの確証もないのにそんなことが言えるんですか?」

「確証はあります。俺は今までずっと貴方の傍で貴方が輝き続ける瞬間を見てきました。それが俺の中の絶対の確証です」

「プロデューサーさん」

「それに万が一の時にはナナさんと運命を共にできるんだから本望です」

「…もう台無しですよ。プロデューサーさん」

その時、スタッフの人から飛行船団が範囲内に入った連絡が届いた。

「俺ができるのはここまでです。いってらっしゃい」

「はい、いってきます」

曲が流れはじめ、ナナさんは舞台へと駆け出していく。そして、ライブが始まった。ナナさんの素敵な声とステージ中を駆け回る元気なダンスでステージはあっという間にウサミンワールドに染まってゆく。そして、最後のフィナーレ。歌が終わり拍手喝采がなりびく中、奇跡は起こった。

「あ、飛行船団が!」

それは誰の声だっただろう。でも、確かに飛行船団は1つ。また1つと姿を消し始めた。

「飛行船団が撤退していく」

「地球は…ウサミン星の人々は救われたんだ!」

人々の歓声が鳴り響き、行き合う人は誰彼構わず抱き合い喜び合う。そんな中、ナナさんはゆっくりとステージを降りてきた。衣装は汗でびしょ濡れになり、ナナさん自身も肩で息をしていた。だが、その表情は今までにないくらい輝きに満ちていた。

「やりました!」

「はい、見てました」

「私、やり遂げたんですね」

「…いえ、それはどうですかね?」

「え?」

ステージの向こうから聞こえる歓声が次第に別の声へと変わっていく。それは次第に大きくなり今までの感性よりも大きなアンコールとなり世界を救った歌姫を人々は待ち望んでいた。

「ナナさん、まだ行けますよね?」

「はい、ファンの皆さんの声に答えてこそアイドルですから!」

そう言うと、彼女は再びステージへと駆け出していった。




「という夢を見たんです」

「って、夢!?今までの壮大なストーリー全部夢かにゃ!?」

激しくツッコミを入れながらケーキを頬張るのは事務所にいた前川みくだった。その隣には同じくケーキを食べるナナさん。

そうここは346プロ事務所。今日はナナさんの誕生日ということで事務所で小さなパーティを行っていた。

「今までずっと、ツッコミ入れずにプロデューサーの話を聞いていたのに夢ってなんにゃ!夢って!」

怒り心頭の前川さん。しかし、夢でなければなんだと思って聞いていたのだろうか?

「まあまあ、みくちゃん。あ、クリームがほっぺに」

と自分のハンカチでみくのクリームを拭ってあげるナナさん。羨ましい。俺もケーキに顔面突っ込もうかな?

「それにしても、対宇宙戦争防止の企画書ってそんな企画書あったら見てみたいにゃ」

「ああ、それは実在しますよ。専務承認済みです」

「マジでかにゃ!?」

企画書をみくに渡すと事務所にいた他のアイドルたちも集まって皆で企画書を見始める。テーブルに残ったのはケーキを食べるナナさんと俺だけだった。

「プロデューサーさん、今日はありがとうございました」

「いえ、ナナさんの誕生日ですものしっかりお祝いしないと」

「それで、あの」

ナナさんは何やらモジモジとしている。トイレかな?

「プロデューサーさん、さっきの夢の話なんですが。もし、私がこれからアイドルをやっていく中でやっぱり上手くいかないこともあると思うんですけど。それでも、わたしのそばにいてくれますか?」

顔を赤くしながらナナさんが質問する。何を聞いているのかと思えば、ここは346プロ。芸能界は才能な着物は蹴落とされる実力主義の世界だ。だから

「はい、例えどんな事があっても俺は絶対にナナさんを信じていますし、世界中。いや、宇宙中にナナさんの輝きを認めさせてやりますよ。だから」、これからもよろしくお願いします」

俺の言葉にナナさんは笑顔を見せる。それは夢の中で見た時よりもずっと最高の笑顔だった。




少女は踊っていた。くるりくるりと。そこへ男の人が話しかけてくる。
「あさひ、もう少し⚫⚫⚫してくれないか?」
その声を無視して踊り出す。すると、今度は二人の女の子が話しかけてくる。
「あさひちゃん、それはちょっと…」
「こら、あさひー!」
囲まれた私は逃げるように走り出す。するといつの間にか周りに集まった人達が私の名前を呼び始める。その声はどこへ行ってもどこへ走っても追いかけてきて。
「あさひ」「あさひ」「あさひ」「あさひ」「あさひ」「あさひ!」
「うるさーーーい!」
そこで私は目を覚ました。どうやら夢を見ていたらしい。じっとりと汗が滲んでいるのを感じる。喉も渇いた。ベッドから体を起こすと私は机に置いていたペットボトルを手に取る。ゴクリゴクリと飲む水は生温い。でも、私は最後まで一気に飲み干した。そして、再びベッドへと倒れ込んだ。頭の上に手を伸ばしてスマホを探す。見つけたスマホのボタンを押すと暗い部屋が仄かに明るくなる。
「3時か」
確かチェックアウトは10時だったはず。その前にお風呂だけ入りたいな。そんなことを考えながら暗くなったスマホを放ると、私は再び目を瞑った。

結局、私が目を覚ましたのはチェックアウトギリギリの時間になった。お風呂は諦め部屋を出る準備をする。服を引っ張り出し寝汗でしめった服を着替える。脱いだ服は袋にまとめ昨日飲みほした空のペットボトルに水道水を詰めた物と一緒にカバンに入れる。それからスマホの充電器。荷物はこれで全て。我ながら長旅の割には少ない荷物だと思う。顔を水だけで軽く洗い、長く伸びた髪を後ろで纏めると私は部屋を出た。
「チェックアウトお願いします」
会計は事前に済ませてある。フロントに部屋の鍵を渡すと私はホテルの駐車場へと向かった。そこに止めてある白い車体のバイクに荷物を載せ、ヘルメットを被ると私は道路へと走り出した。
バイクの免許は昔、映画の撮影の時に取らせてもらったものだ。あの時のバイクとは違い、今のバイクは私のお小遣いで買った安いバイクだ。それでも、一人旅をするのにはちょうど良かった。
行先は特に決めず道なりに走っていく。ふと走りながら昨日見た夢を思い出していた。黛冬優子、和泉愛依、それと………。夢に見るまで忘れていたことなんて無い。それでも、こんな夢を見るのは私がアイドルを辞めて1年ぶりの事だった。

ストレイライトはかつて中学生だった私がアイドルとして活動したグループだ。当時の私はアイドルというより、毎日出会う新しい何かがただただ楽しかった。だけど、それは昔の話。憧れた輝きは記憶の彼方にも残っていない。
コンビニで買い物を済ませ、バイクの元へと戻る。中身はおにぎりとチキンフライ。おにぎりの包みを剥がすとガブリとかぶりついた。人は何もしなくてもお腹がすく。とはいえ、食べすぎても眠くなる。ぼちぼちがちょうどいい。それが旅の中で学んだことの一つだ。おにぎりを食べつつ、空いたもう片方の手でスマホを操作する。開くのは地図アプリ。この道の先に何があるか知っておく必要がある。
「もぐ……。今晩はここまでかな」
目的地を決めるとアプリを切りかえて今夜の宿を探し予約をする。ちょうど最後のおにぎりを口へと放り込み、ペットボトルの水で一気に流し込む。ゴミの袋をコンビニのゴミ箱へと捨てると出発した。
途中、ガソリンだけ補充して無事目的地にまで辿り着いた。とはいえ、日はとうに沈みかけている。ホテルの駐車場にバイクを停める。ヘルメットを脱ぐと荷物を抱えてホテルのロビーへと向かった。顔を覆うものは何も無い。素顔をさらけ出している。だけど、私が芹沢あさひだと気づく人はほとんどいない。理由はわかっている。だから、その日も特に気にすることなくチェックインを済ませて空腹を満たすためホテルの外を出歩いていた。
「あ、あの!」
後ろから呼び止められた気がした。…勘違いかもしれない。そう思い、振り向かず歩いていこうとすると。後ろから声をかけたであろう人物が私の前へと立ち塞がった。どうやら勘違いではなかったようだ。
「えっと、どちらさま?」
目の前に立っていたのは女の子だった。肩までのボブカットで高校生なのか制服を着ている。そして、その背中にはギターケース。当然、知り合いではない。となれば、きっと要件はひとつであろう。
「あの…ストレイライトの芹沢あさひさんですよね?」
バレた。

人には成長期というものがある。一般的に女子は10歳。男子は12歳頃らしいそれは私が高校に上がる時にやってきた。1年で身長40近く伸び体型もより女性に近くなった。その頃からストレイライトも個人名義での活動が増えていたせいか。昔の映像でストレイファンになった人は私が芹沢あさひ本人だと気づきにくい。なので
「いいえ、違いますよー」
しらばっくれることにした。似ている他人。割とこれが通じる。案の定、女の子は人間違いをしてしまった事に慌てて「ごめんなさい」と頭を下げる。
「いや、気にしないで。私もたまに間違えられるからさ」
「本当にごめんなさい」
ペコペコと必死に頭を下げる女の子。ふと、そうだ。とある事を思いつく。
「ところでさ。貴方は地元の子だよね?私、この辺り初めてでね。どこかご飯食べられるところってないかな?」
「え?あ、そうなんですね。うーん。…地元の名物とかじゃなくてもいいですか?」
しばらく悩んだ女の子が悩ましげにこちらを伺う。
「大丈夫、何でもいいよ」
私がサムズアップと共に応えると彼女は行きつけの店があるのでと案内してくれた。

「貴方ぐらいの年齢で行きつけの店があるって珍しいね。え、めぱちゃんは高校生だよね?」
「はい、そうです。ハルコさん」
店に行くすがら軽く自己紹介をしてくれた。彼女はめぱちゃん。私はハルコさん。
「いやー実は私、この辺りでストリートミュージシャン的な事をやってまして。その前に軽く腹ごしらえをしているんです」
どこか照れくさそうに語るめぱちゃん。そうか。それでそのギターか。
「それじゃ、めぱちゃんは将来シンガーソングライターを目指してるのかな?」
「いえ、私は

アイドルになりたいんです。


「…」
「それで次の夏休みに東京でオーディションがあるらしくてそれを受けてみようと思ってるんです。その時に、緊張しないように度胸をつけときたいなと思ってこんなことやってるんですけど。ちなみに受験する事務所が…」
その先の話はあまり頭に入ってこなかった。めぱちゃんの話に適当な相槌をして右から左へと聞き流していた。
そして、紹介してもらった定食屋に着いた時。私はまた適当な事を行って店に入らずにホテルへと戻った。

「…おなかすいた」
誰に向けたわけでもない台詞は放たれたままそのまま消えていく。そして、私はベッドの上で体を丸くしていた体を更に丸くする。道端で出会った夢を語る少女。その子の話を聞いているうちに何となく彼女のそばにいるのが嫌になった。だから、私はまた……。
「…結局、私は体だけが大きくなっただけなんすよね」
甘やかされて、可愛がられて。空腹を呟けば誰かがお菓子をわけてくれて。でも、そんな扱いが嫌になって。全てを投げ捨てて。私は逃げて。
「冬優子ちゃん…愛依ちゃん…」
無意識のうちにチームメイトの二人の名前を呼んでいた。それと同時に堰を切ったように涙がボロボロと溢れ出す。私はひたすら一人で泣いて、泣いて、いつの間にか眠っていた。

酷い顔。
次の日、鏡に写った私はいつにも増して酷い有様だった。何も食べてないせいで朝早くに目が覚めた私は1日ぶりのお風呂に入っていた。少し熱めのシャワーを浴びながら、昨晩のことを振り返る。酷くメンタルを崩してしまった。やはりきっかけはあの子との出会いであろう。思いつきであの子に話しかけた結果、思わぬ地雷を踏み抜いたのだ。思いつきで動くものではない。肝に銘じておこう。
風呂から上がり髪を乾かしながら、スマホの地図アプリを見ていた。今日のホテルは風呂に入りたかった事もあり2泊で予約していた。なので、時間のあるうちに洗濯物を片付けてしまおうとコインランドリーを探す。運のいいことに、朝早くからやってるコインランドリーが近くにあった。ついでに朝ごはんも食べようとアメニティのマスクをつけ荷物を抱えホテルを出た。

「まだあと30分くらいかかるかな?」
朝から牛丼をたいらげ店を出た私はスマホを確認する。洗濯物の仕上がりまではまだかかる。やることも無いしと腹ごなしがてら周辺を散策することにした。
目の端に路面電車が止まる。こんな早い時間帯でも乗客は多い。それでも今日が土曜日だからであろう。降りる客は私服姿の人の方が溢れていた。そんな人達の中、頭1つ突き抜けた高さのギターケースがひょこひょこと動いているのが見えた。
決して互いに狙ったものでは無い。だが、そのギターケースは向かい合うようにこちらへとやってきて。人混みがはけると同時に私達は再会した。