5月15日は我らがアイドルであり、俺の担当であるウサミンこと安部菜々の誕生日だ。
というわけで、今日は徹底的にウサミンをお祝いするぞ~!
思い切り右手を振り上げると、前から来た人がビクッと体を仰け反らし遠回りするように横を通りすぎて行った。
「………。おっと、早く向かわなければ」
俺はそう呟くと足早に事務所へ向かった。
「おはよぉございますよっとー」
両手が荷物で塞がっていたが手の甲だけを使って扉を開ける。これぞライフハック。そんなことを考えながら、荷物を事務所のテーブルへ置く。中身はナナさんの誕生日を盛大に祝うべく購入してきたパーティグッズやケーキ、ケンタッキーだ。そして、胸ポケットから各領収書をそっとちひろさんのデスクに置いておく。
「さてと」
と振り向いたところで事務所のソファに誰かが座っていることに気がついた。ん?あの後ろ髪。あの愛らしさ。もしやもしや!
「おっほー!やっぱりナナさんじゃないですか!おはようございます!それとお誕生日おめで…」
ポケットに忍ばせておいたチャリオット式クラッカーを放とうしたところで俺はナナさんの異変に気がついた。ナナさんはソファに座り、俯き。そして、静かに泣いていた。
「ナナさん、どうしたんですか!?どこかケガでも?それとも悪い夢?誹謗中傷!?ナナさんを傷つけるやつは俺がこの世から消しさりますから。俺に出来ることはなんでもやります!」
ナナさんの前に座り込んだことでようやくナナさんは俺を見てくれる。しかし、ナナさんの涙は止まることなく顔を背けて泣き続ける。
「うおおおおおおおお!誰だぁ!ナナさんを泣かせた奴はあ!例え神様仏様イエス様、お天道様閻魔様、総理大臣に大統領。都知事県知事市長町長村長ハ長調!誰が許そうとこの俺だけは絶対に許さんぞお!」
怒りに打ち震え、悪を打たんと事務所を飛び出そうとした時、スーツの端をきゅっと握られた。
「違うんです。プロデューサーさん、違うんです」
その手の主は我が心のアイドルナナさん!泣いていたせいかほんのり赤らんだ表情がすごく色っぽい。
色っぽい表情+俺の服の裾を引っ張る=プロポーズ
「わかりました!ナナさん、結婚しましょう!」
「ええええ!?なんでそうなるんですか!!」
「息子の名前はエイト、娘の名前はクウ。孫の名前はミリオなんてどうでしょう!」
「ま、孫!?」
「記念日管理も任せてください。俺、絶対に忘れないんで。毎月、毎年、毎世!盛大にお祝いしますから!!」
「プロデューサーさん、あの、ちょっと!」
「そうと決まれば善は急げ!今から必要な手続き諸々その他。さあ忙しくなるぞー」
「だから、話を聞いてくださーい!」
閑話休題。
ナナさんの必死なセクシーダンスもとい説得を受け俺は正気に戻る。まずは一息入れて話し合おうとお茶を用意して向かい合うようにソファへ座った。
「ふぅ…それでプロポーズはやはり男の俺がするべきだって話でしたよね」
「話がまた戻った!?」
「冗談です。それでナナさん。一体何があったんですか?」
そういうと、ようやくナナさんいつもの笑顔を見せてくれた。どうやら先程のやり取りはナナさんを笑わせるために俺が道化を演じていたと考えているらしい。いや、俺は冗談ではなく本気でナナさんのことをゲフンゲフン。これではいつまで経っても話が進まない。俺は逸る気持ちを抑えつつナナさんの話に耳を傾けることにした。
いつもの笑顔を見せてくれたナナさんだったが、オレが静かにしていると次第に表情を曇らせてゆく。どう話を切り出したらいいのか悩んでいるという感じだ。そして、意を決したようにナナさんは口を開いた。
「あの…私がウサミン星出身地というお話は覚えていますか?」
「もちろん!ウサミン星出身の永遠の17歳アイドル安部菜々!担当の情報を俺を忘れるわけがないじゃないですか!」
「ありがとうございます。で、ですね…えっと、プロデューサーさんはその話をどこまで信じていますかー…なんて」
「120%信じてます!」
俺はビシッとナナさんに親指を立ててサムズアップ。しかし、ナナさんはその反応にやや困り気味。これはきっと俺がふざけていると思われているのだろう。安心して欲しい。俺はプロデューサー。商談などで空気を読むことには人一倍長けている。いくら俺がウサミン星の女の子と地球の俺がアイドル活動を通して2つの星の架け橋となり宇宙をまたにかけるアイドル・安部菜々をそばで支えることに命をかけていても、ここはその感情を抑えてナナさんの望む答えを出すなんて造作もない。
「ナナさん、好きです」
「え?」
おっと、感情を抑えすぎて本音が漏れてしまった。
「そうですね。ウサミン星という設定というのがやはり世間一般的なイメージでしょうか」
「そう、ですよね…」
ナナさんがしゅんと項垂れる。おや、選択肢を間違えたか?いや、そんなはずは無い。何かの間違いだ。大丈夫、ここから巻き返せばいい!と、俺がどう声をかけたらいいか迷っているとナナさんが切り出した。
「実は、本当なんです。私がウサミン星出身という話」
「はぁ」
これにはさすがの俺も気の抜けた返事を返すしかない。信じて欲しくなさそうだったり信じて欲しいと言ったり。しかし、それはナナさんも同じなのであろう。信じて欲しいけど信じてもらえない。それは悪魔の証明にも近い内容なのだ。であれば、俺のする事は何一つ変わらない。俺は意を決するとナナさんの両手をきゅっと握った。
「ナナさん」
「え?あ、はい!」
「俺はナナさんの言うことだったら全っっっっっ部信じますから!安心して俺に悩みを打ち明けてください!」
突然手を握られ一瞬動揺したものの俺の熱い視線にナナさんはようやく堅くなっていた表情を和らげてくれた。
「わかりました。それじゃあ、お話します。私達の星ウサミン星を滅ぼしたQ-61飛行船団が地球へ接近しています。このままでは地球が滅びてしまいます」
「………」
想像以上にやばい話だわ、これ。
私たちが暮らしていたウサミン星は地球と同じくらい緑豊かでかつ文明も進んでいて住民も生き生きとしたとても素晴らしい星でした。
そう、過去形です。その日は唐突に訪れました。突如宇宙から謎の飛行船が襲来し、攻撃を開始したのです。
私たちがQ-61と名付けた飛行船郡は次々と都市部を破壊。多くの住人が犠牲となりました。私たちウサミン星の人達も懸命に応戦したものの叶わずたった数日で全滅しました。
もはや星を放棄するしかない状態。しかし、国民全員を救うすべなどなく1部の王族のみを星から脱出させました。
いつかウサミン星の再興となる事を祈って。
そして、そのうちの一つが地球に到着。その中にいた王族の姫それが私です。
私達は地球の文明になれるため職を得て細々と暮らしていました。しかし、それを許さないとするものが現れたのです。
それがかつてウサミン星を滅ぼしたQ-61だったのです。
Q-61はウサミン星の人々を根絶やしにするため地球の我々を追いかけてきたのです。
このままでは地球の人々に迷惑をかけてしまいます。なので、我々は今日、この星を去ることになりました。
だけど、別れを告げようとこの部屋を訪れた瞬間、涙が…あふれ出てきて…」
そこで言葉を区切るとナナさんは再び俯いてしまった。さすがの俺も想像以上にスケールの大きな話で上手くセリフを紡げないでいた。
例えば「ウサミン星からお迎えが来て、星に帰らねばなりません」という展開なら「着いていきますよ。例え火の中水の中草の中森の中土の中雲の中あの子のスートの中だろうとどこまでも!」と一言で済む話なのだ。…ナナさんのスカートの中か。チラリとナナさんの足元を見る。膝丈のスカートだが座っているせいで綺麗な太ももが顕になっている。ふむ、ありだな。
「プロデューサーさん」
名前を呼ばれ、ナナさんの足の生態観察をしていたことがバレたのかと思ったがそうではなかった。
「最後に貴方に会えてよかったです。今までありがとうございました」
「まってください。ナナさん。もしや、全てを諦めてその飛行船団とやらの元へ行く気じゃないでしょうね」
「はい、もうそれしか
「その結論はまだ早い!!よくぞナナさん、この俺に相談してくれました。此度のもんだい、俺がまるっとズバッと解決してみせましょう!」
突然の見栄に一瞬、ポカンとするもののナナさんはすぐに反論を切り返してきた。
「無理ですよ。これはもはや戦争にもなり得る問題ですよ。それをただの地球人である貴方に一体何ができるって言うんですか?」
「もちろん、俺一人じゃ何もできません。だけど、俺にはナナさんがいる。そして、ナナさんにも俺がいます。今まで如何なる苦難も2人で乗り越えてきました。だからこそ、今回も2人で乗り切りましょう」
「でも、どうやって…」
「宇宙戦争だろうがラグナロクだろうが俺たちのやることは変わりません。ナナさん!飛行船団に向けてライブを行います!」
そこからの準備はスムーズだった。あっという間に宇宙向けのステージが建設され、数日のうちにライブの準備が整った。その頃にはQ-61飛行船団が近くまで来ていることは世界中でも確認できるほど彼らは迫っていて、地球の皆が固唾を呑んで見守る中。数分後にライブの開演が迫っていた。
「えええ…」
「どうしたんですか?ナナさん」
「いや、あの展開早すぎる…というか、なんでこんなに準備が早いんですか?」
「敏腕プロデューサーですから。というのは冗談として、実は346プロには対宇宙戦争のためのライブ企画書が存在しているんですよ」
「なんであるんですか?」
「そんなことより、まもなく開演です。彼らが到着と同時に幕が上がり後はナナさんのオンステージです」
「…もしうまくいかなかったら」
「大丈夫ですよ」
「どうしてプロデューサーはなんの確証もないのにそんなことが言えるんですか?」
「確証はあります。俺は今までずっと貴方の傍で貴方が輝き続ける瞬間を見てきました。それが俺の中の絶対の確証です」
「プロデューサーさん」
「それに万が一の時にはナナさんと運命を共にできるんだから本望です」
「…もう台無しですよ。プロデューサーさん」
その時、スタッフの人から飛行船団が範囲内に入った連絡が届いた。
「俺ができるのはここまでです。いってらっしゃい」
「はい、いってきます」
曲が流れはじめ、ナナさんは舞台へと駆け出していく。そして、ライブが始まった。ナナさんの素敵な声とステージ中を駆け回る元気なダンスでステージはあっという間にウサミンワールドに染まってゆく。そして、最後のフィナーレ。歌が終わり拍手喝采がなりびく中、奇跡は起こった。
「あ、飛行船団が!」
それは誰の声だっただろう。でも、確かに飛行船団は1つ。また1つと姿を消し始めた。
「飛行船団が撤退していく」
「地球は…ウサミン星の人々は救われたんだ!」
人々の歓声が鳴り響き、行き合う人は誰彼構わず抱き合い喜び合う。そんな中、ナナさんはゆっくりとステージを降りてきた。衣装は汗でびしょ濡れになり、ナナさん自身も肩で息をしていた。だが、その表情は今までにないくらい輝きに満ちていた。
「やりました!」
「はい、見てました」
「私、やり遂げたんですね」
「…いえ、それはどうですかね?」
「え?」
ステージの向こうから聞こえる歓声が次第に別の声へと変わっていく。それは次第に大きくなり今までの感性よりも大きなアンコールとなり世界を救った歌姫を人々は待ち望んでいた。
「ナナさん、まだ行けますよね?」
「はい、ファンの皆さんの声に答えてこそアイドルですから!」
そう言うと、彼女は再びステージへと駆け出していった。
「という夢を見たんです」
「って、夢!?今までの壮大なストーリー全部夢かにゃ!?」
激しくツッコミを入れながらケーキを頬張るのは事務所にいた前川みくだった。その隣には同じくケーキを食べるナナさん。
そうここは346プロ事務所。今日はナナさんの誕生日ということで事務所で小さなパーティを行っていた。
「今までずっと、ツッコミ入れずにプロデューサーの話を聞いていたのに夢ってなんにゃ!夢って!」
怒り心頭の前川さん。しかし、夢でなければなんだと思って聞いていたのだろうか?
「まあまあ、みくちゃん。あ、クリームがほっぺに」
と自分のハンカチでみくのクリームを拭ってあげるナナさん。羨ましい。俺もケーキに顔面突っ込もうかな?
「それにしても、対宇宙戦争防止の企画書ってそんな企画書あったら見てみたいにゃ」
「ああ、それは実在しますよ。専務承認済みです」
「マジでかにゃ!?」
企画書をみくに渡すと事務所にいた他のアイドルたちも集まって皆で企画書を見始める。テーブルに残ったのはケーキを食べるナナさんと俺だけだった。
「プロデューサーさん、今日はありがとうございました」
「いえ、ナナさんの誕生日ですものしっかりお祝いしないと」
「それで、あの」
ナナさんは何やらモジモジとしている。トイレかな?
「プロデューサーさん、さっきの夢の話なんですが。もし、私がこれからアイドルをやっていく中でやっぱり上手くいかないこともあると思うんですけど。それでも、わたしのそばにいてくれますか?」
顔を赤くしながらナナさんが質問する。何を聞いているのかと思えば、ここは346プロ。芸能界は才能な着物は蹴落とされる実力主義の世界だ。だから
「はい、例えどんな事があっても俺は絶対にナナさんを信じていますし、世界中。いや、宇宙中にナナさんの輝きを認めさせてやりますよ。だから」、これからもよろしくお願いします」
俺の言葉にナナさんは笑顔を見せる。それは夢の中で見た時よりもずっと最高の笑顔だった。