とある日の283事務所。
「あ、来週誕生日だ」
予定表を見ていた小糸がぽつりと呟く。その呟きが聞こえたのか皆手を止めて小糸を見る。そして、
「「「小糸、誕生日おめでとう」」」
「私じゃないよ!?」
慌てて首を横に振る小糸。その様子に少しだけ場が和む。じゃあ。と透。
「樋口、誕生日おめでとう」
「いや、違うけど。というか、私達のことじゃないでしょ」
「雛菜は近いけど、来週じゃないよー」
それぞれの誕生日は、
市川雛菜 3月17日
浅倉透 5月4日
樋口円香 10月27日
福丸小糸 11月11日
覚えておこう、テストに出るぞ!
おめでとー。ありがとー。と言い続ける透と雛菜。このままじゃ、話が進まないと思ったのか円香が小糸に質問する。
「それで誰の誕生日?」
「えっと、来週誕生日なのはプロデューサーさんです」
「「「プロデューサー?」」」
小糸の言葉が予想外だったのか3人が虚をつかれた表情をする。
「小糸ちゃん、プロデューサーの誕生日知ってるんだねー」
「うん。わたしの誕生日の時に教えてもらってたんだ。プレゼントのお返ししたかったし。まぁスケジュール帳見るまで忘れてたんだけど」
えへへと笑う小糸に対し、円香と透の目が険しくなる。
「ふーん、プロデューサーからプレゼント…」
「あの人、そんな事してたんですね…」
「ぴゃ!もう透ちゃんも円香ちゃんもプロデューサーさんから誕生日お祝いしてもらってたでしょ!」
「冗談よ」
今の険しさはどこへやら。すまし顔で小糸もをつつく円香と笑って見てる透。しかし1人だけしかめっ面を浮かべる雛菜。
「いいなー。先輩達はお祝いしてもらってて」
「いや、雛菜も去年お祝いしてもらってたでしょ」
「違うもん。先輩達は2回祝って貰ってるのに私だけ1回だもん!」
「「「あーー…」」」
そりゃまぁまだ雛菜の誕生日前だからなぁ。
「えっと…きっと雛菜ちゃんの誕生日はプロデューサーさんすごくお祝いしてくれるよ」
「そうだね、プロデューサーはやる男だよ」
「やったー」
小糸の言葉にフォローするつもりだったのだろうが、逆にハードルをあげる透。でも、雛菜は満足そうなのでいいか。
「それで小糸はあの人…プロデューサーにお返しするの?」
「うん。それなんだけど、せっかくだしみんなでお祝いしてあげられないかなーと思って」
小糸が不安げにどうかな?という表情で3人を見る。そんな小糸に気を使って3人は賛成の声を上げた
「いいね!プロデューサーの誕生日パーティ!」
「やはー面白そう」
「…まぁいいんじゃない」
「日付けは当日でいいから、場所は…」
「浅倉、誕生日当日はイベントの仕事があるから」
と言いかけた透を遮るように円香が言う。
「あ、本当だ」
「じゃあ、それ。終わってからとか?」
「それだと、ちゃんとした準備はできないかも…」
「っていうかー、円香先輩もプロデューサーの誕生日知ってたんだねー」
そういえば、小糸は誕生日が何日かまでは言及してなかったな。雛菜の的確な指摘に円香は言葉を詰まらせる。
「とにかく!」
「あ、逃げた」
「パーティをするなら、当日は無理。でも、前後は空いてるからそこでやったらいいんじゃない」
「それしかないねー。でも、どこでやる?円香先輩の家?」
「却下」
「事務所でいいんじゃない?」
「え?いいのかな?」
「なんとかなるでしょ」
「それじゃー雛菜は飾り付けやるー」
「私はケーキ用意するよ」
「浅倉」
「ん?」
「パイ投げ用のケーキは用意するから、ちゃんとしたケーキを買うこと」
「えー市販のケーキぶつければいいじゃん」
「市販のケーキは底に固定のトゲがあるから危ないよ!」
「それにープロデューサーの顔で潰れたケーキじゃー食べられなくない?」
「なるほど。じゃあ普通のケーキ買うわ」
「えっと、じゃあ私は…」
「小糸は私とケーキ以外の食べ物とか飲み物とか買い出しに行きましょ」
「わかりました!」
着々とパーティの詳細が詰められたあと、透がくるりと後ろを振り向く。
「ということだから、プロデューサー場所取りとリスケよろしく」
「って、やっぱりそこで俺に振るのか」
俺は机の影から4人に顔を見せる。別に隠れていたわけではなく普通に仕事してた。4人も俺がいることをわかった上でパーティの話をしていた。
「いいじゃないですか。社長に頭下げるの得意ですよね」
「おかげさまでな。わかった。会議室使えるようにしとくから。その代わり、あんまり派手に汚さないようにしてくれよ」
「「「「はーい」」」」
不安だ。とはいえ、彼女たちが楽しそうにしているならその空気を壊すのは俺としてもやぶさかじゃない。何より担当の子に祝ってもらえるなんてプロデューサー冥利に尽きるというものであろう。
「顔がふやけて鼻の下伸びてますよ。ミスター発情期」
「やープロデューサーのエッチー」
おっとっと。あ、そうだ。
「準備のお金だけど、先に少し渡しとくよ。足りない分は後でレシートくれたらまた払うよ」
「え?経費で落ちるの?」
透の目がきらりと輝く。
「それはさすがに俺が頭下げても無理だ。俺のポケットマネーから出すよ」
「そんな悪いですよ。私たちが勝手にやってるのに」
「それでも、大人としては出さないわけには行かんだろう」
「でもー多分だけど。プロデューサーより、雛菜たちの方が稼いでるよー」
雛菜の言葉が俺の心にグサリと刺さる。
「そういう事です。気にせず私たちに任せてください。ミスター薄給」
「はい…」
***
おまけ
誕生日当日。
「はい、これ」
イベントで打ち合わせ中の俺を呼び止めたのはイベント衣装に着替えた透。その手には小さな紙袋が握られていた。
「私からのプレゼント。パーティの時に忘れてたから」
パーティの日、円香、雛菜、小糸の3人からはプレゼントを貰っていたのだが透だけ「忘れちゃった」と言っていたのだ。
「そうか。忙しいだろうに。ありがとう」
お礼を言って袋を受け取る。透はニコニコと満足そうだ。
「ちなみに中身は塩だよ」
「塩?」
「うん、お風呂に入れると気持ちいいんだ」
「お風呂って、ああバスソルトか」
「それそれ。前にオススメしてもらったんだ」
「なるほど。じゃあ、今日、風呂に入る時にでも使ってみるよ」
「うん、私も今日使うから同じお風呂に入ろ。あ、そろそろ戻らないと」
そう言い残して、透は戻っていった。
同じ風呂かー。透、お前は本当に罪な女の子だよ。