映画「関心領域」 その2だけどネタバレ |      生きる稽古 死ぬ稽古

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ー毎日が おけいこ日和ー
        

どうしても

また観たくなって

2回目の鑑賞です。



↓はネタバレしてませんので

これから観られる方は

こちらだけ、ご覧になってください😊


この映画の主人公は
アウシュビッツ強制収容所の所長である夫と
その妻
という夫婦です。

で、映画には
その妻の母が出てきます。
娘である奥さんは
遊びに来ている母に
片付いて清潔な家の中や
温室やプールまである広い庭を
丁寧に説明しながら案内していきます。

「あなたは幸せなのね」
「すごいわね」
と、母は娘の生活ぶりに
喜びを隠せません。
娘は娘でなんとも誇らしげです。

庭での母娘の会話の中で
この母は裕福なユダヤ人のお宅で
働いていたことがわかります。

「エステル(そのユダヤ人の人)がこの中にいるのよ」
と、母は隣りの収容所に向かって言います。
そのエステルが家督を没収されて
収容所に入れられたのです。

その家の中の物が売りに出され
母はその家のカーテンが欲しかったのだけれど
手に入らなかった
ということを残念そうに話していました。

この映画の中では
女性たちの会話がとてもオソロシイ。

こうして国も時代も違う
ワタシタチがきくと
ゾッとするような会話なのです。

それが日常的に語られる
ということがオソロシイのです。

お金があり、
下働きの者を何人も使っていたユダヤ人が
収容所に連れて行かれる。

彼らの使っていた物は
ワタシタチドイツ人のものになる。

それが当たり前になっている時代
というのが
確かにあったのです。

それを淡々と話しているのは
特別に強欲な人でも
残虐極まりない人でもなく
どこにでもいるような〈ワタシタチ〉

そのことがとてもオソロシイのです。

この映画は2023年の
アカデミー 音響賞
を受賞しています。

この映画が恐怖心を煽り
残虐なことが行われているのだ
という想像力を観ている者に掻き立てるのは
音によるところが大きいのです。

この映画を観ている間中、
ゴォンゴォン
と重低音がずっとなり続けています。
小さく聞こえているのですが
その音がやむことはありません。

生身の人間を焼いて処分するための
焼却炉が休みなく稼働している音なのです。

「この中にエステルがいるのよ」
と言ったおかあさんは、
この音のために眠れなくなります。

娘が丹精込めた庭や、
磨き上げた邸宅のすぐ隣りで
何が行われているのか?
このおかあさんは〈知って〉しまったのです。

ある朝、おかあさんは荷物をまとめて
この家から逃げていってしまいます。

この行為が
〈関心領域〉と〈無関心領域〉の
狭間であるとも言えるでしょう。

無関心ではいられなくなった母の行為に
娘は激怒します。

無関心でいられる世界でこそ、
自分は〈女王〉として
君臨することができるからです。

私が何度もオソロシイと書くのは
〈アウシュビッツの女王〉
と言われた奥さんの非人間的な言動が
まかり間違えば
ワタシかもしれないし
アナタかもしれないし
ワタシタチかもしれない
というところなんです。

だってヒトってかんたんに
時代に流されちゃう生き物なんだもの。

(たぶんつづく)