映画「関心領域」について少し |      生きる稽古 死ぬ稽古

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ー毎日が おけいこ日和ー
        

明るい日差しのもと、

家族で川遊びをする一団があリます。

楽しそうに遊んだ後、

帰る家は

手入れの行き届いた広い庭と清潔そうな部屋、

そして何人ものメイドたち。


いかにもヨーロッパ映画のソレです。




ただひとつだけ違うのは、

隣りに建っているのが

アウシュビッツ収容所である

ということだけ。


ここは

アウシュビッツ収容所に隣接する

所長の住まいなのでした。


この映画がとても異色な作り方をしているのは、

残忍残酷な描写が一切出てこないということ。


穏やかに繰り広げられる日常に、時折

パーン

と何かが弾けるような音が聞こえたり

ギャーッ

と叫ぶような声が聞こえたり

黒い、あるいは白い煙が

のぼっていくのが見えたり

するだけなんです。


そしてところどころのシーンで

ツギあてのある粗末な作業着の男たちが

布製の袋に入ったものを届けにきたり

ブーツを洗ったり

花壇に灰をまいたり

していきます。


そのひとつひとつが

どういったものであるのか?


映画の中ではいっさい語られることはなく

すべて映画をみるワタシタチに

委ねられています。


なぜブーツの汚れや

川遊びの後の体を

よく洗わないといけないのか?

なぜ庭の植物たちは

いきいきと育っているのか?

なぜメイドたちは

キャミソール(たぶん)をもらえるのか?


はワタシタチが

想像するしかないのです。


この映画の中には

〈感情〉

というものがほとんど出てきません。


所長であるヘスという人物は

毎日、夥しい人々を

ガス室に送り込んでおきながら

隣りにある自宅に帰れば

〈穏やかな日々の暮らし〉

を続けています。


映画の中で

〈感情〉

が表現されるのはほんの少し。


実際に、ヘスは戦後

手記を残しているんですけど

動物好きであり

飼っていた馬をかわいがっていた

ということが

その手記には書かれています。


おそらくその手記からの引用でしょう。

映画の中で

馬に語りかけるシーンが盛り込まれています。


「わかるよ。

お前もつらいよな」

これが感情に繋がる唯一の言葉です。


もうひとつの〈感情〉の放出は

彼の奥さん。


自分の母親を呼び寄せたのですけど

母親は隣りからの音に耐えられなくなって

家を出て行ってしまいます。

この時が1度目。


夫の転勤によって

この家から引っ越さなければならないと

告げられた時。

この時が2度目。


どちらも荒れ狂っています。


ホロコースト

については

ほぼ無関心であるにもかかわらず、

自分の思い通りにならない時には

怒りまくるというオソロシサ。


書きたいことは

たくさんあるんだけど

ネタバレになっちゃうので

また書きます。