戦争と平和 エピローグ(5−2)ニコライ 、父の負債を相続する。 | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

ニコライ はロシア軍と共にパリに居た時に父の死の知らせを受けました。

彼は直ちに退役を願い出て、その許可も待たずに休暇を取ってモスクワに急行しました。

伯爵の死から1月後にに負債関係の明細書が出来上がりましたが、誰も知らなかったような様々な細かい借金が出て来て、その総額負債は財産の2倍にもなっていました。

 

親戚や友人達は相続を拒否する事をニコライ に勧めました。

しかしニコライ は、相続拒否は彼に取って神聖な父の記憶を冒涜する事になると見ていたので、拒否の勧めをきこうとせずに、負債の支払い義務と共に財産を相続しました。

 

伯爵の存命中は、そのおおらかな善良さの持つ、つかまえどころの無い、しかし強い影響力に縛られて、長い間黙っていた債権者達が、にわかに一斉に取り立てにかかりました。

常にある事ですが、誰が先に返済を受けるかという競争が起こり、ミーテンカのような、祝儀に貰った空手形を持っていたような連中が、今やもっともうるさい債権者となりました。

 

そして、外見的には老伯爵に同情していたような連中が、今は、善意から弁済義務を引き受けたに過ぎぬ、彼らに対して何の責任も無い若い相続者に容赦なく襲いかかりました。

 

ニコライが心づもりしていた金繰りは1つも成功しませんでした。

領地は競売に出しましたが、予想の半値にしかつかず、負債の半分はやはり未払いのまま残りました。

ニコライ は、実際の取引手形と認めた負債の部分の支払いに充てる為に、妹婿のベズーホフから提供された3万ルーぶりを受けました。

しかし、残りの負債の事で、債権者達が監獄にぶち込んでやると息巻いているので、それを避ける為に、彼はまた勤務に就く事にしました。

軍に行けば、欠員ができれば真っ先に連隊長になれるのでしたが、母が今は最後の生きる望みとして息子にしがみついていたので、それも出来ませんでした。

それで彼は已む無く、モスクワで役所勤務をする事になり、好きな軍服を脱いで、母とソーニャを連れてシヴツェフ・ウラジョーク通りの小さな借家へ移りました。

 

ナターシャとピエールは、その頃ペテルブルグに住んでいましたが、ニコライの状態がそれほどとは知りませんでした。

ニコライ は、妹婿から金を借りていましたので、この上に心配をかけぬように自分の窮状を知らせないようにしていました。

ニコライ は1,200ルーブリの俸給で、自分とソーニャと母の生活を支えなければなりませんでした。

貧しい事を母に気取らせないように、母の生活に気を配らねばなりませんでした、伯爵夫人は子供の頃から身に付いていた贅沢な生活しか考えられない人で、今まで通りの贅沢な事を、それが息子にどんなに辛い事かわからずに要求するのでした。

 

ソーニャは家計のやりくりをし、伯母の機嫌を取り、嫌味をこらえ、ニコライを助けて、一家の置かれた不如意な状態を老伯爵夫人に気づかれぬように努めていました。

母の為に良く尽くしてくれるソーニャに対して、ニコライ は払いきれなぬ程の感謝をし、彼女の辛抱強さと誠実さに驚嘆していましたが、しかしなるべく彼女との間に距離を置くようにしていました。

 

彼は心の中で、彼女が余りにも完璧すぎて非難の余地が無い事を、密かに責めているようでした。

彼女には人間の美徳とされているものが全て備わっていましたが、彼に彼女を愛させるような要素は余り感じなくなっていました。

彼は、手紙の中に有った、彼に自由を与えるという彼女の言葉を捉えて、自分の良心への封じとし、今は彼女に対して、2人の間に有った全ての事はもうとうに忘れられてしまった事で、絶対に蘇る事は無いのだ、という態度を取っていました。

 

ニコライの経済状態は益々悪くなるばかりでした。

俸給の中から貯金をするどころか、母のわがままを満たしてやる為に、細かい借金が増える有様でした。

この状態からの抜け道は、彼には全く考えられませんでした。

親戚の者が勧めた、富裕な財産を相続した娘と結婚するという考えは、彼の気性が許しませんでした。

母の死というも雲1つの抜け道は、間違っても彼の頭には浮かびませんでした。

 

彼は何も望まず、何も期待せず、心の奥底で、自分の苦境に黙々と忍従する事に、暗い自虐の快楽を味わっていました。

彼は、同情や、屈辱的な援助の申し出を嫌って、努めてかつての知人達を避けるようにし、一切の娯楽を避け、家の中でも母を相手にトランプを並べるか、パイプをふかしながら黙りこくって室内を歩き回る以外は何もしようとしませんでした。

彼はその中でのみ、自分の苦境に耐える事が出来るような気がして、暗い気分の中に自分を押さえつけておこうと努めているかに見えました。

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(解説)

ニコライは、ロシア軍と共にパリに居る時に、父・ロストフ伯爵の死亡の知らせを受け、すぐに軍を退役して父の残した債務の後始末を引き受けるのですね。

負債を相続する義務は相続人には無いのですが、正義感の強いニコライですから、父の残した債務の弁済を引き受けるのですね。

いかにもニコライらしいと思います。

負債は財産の2倍で、しかもよくわからない債務まで有ったようです。

 

お金が絡んでくると、人の本質が丸出しになるのですよね。

ニコライは、本当にいろんな人からいろんな侮辱的な事も言われたと思います。

あんなにお金にルーズだったニコライも、『払うべき債務、払うべきで無い債務』を振り分けて対応している様子です。

 

そして、もう気弱になった母親と身寄りの無いソーニャの身柄を引き受けて、自分は大好きだった軍人も辞めて文官の職に就くのですね。

しかも、母親は、お嬢様育ちで、贅沢好きで、お金が無いなんて発想が持て無い人です。

それでも、ニコライは、母親に『ウチはもう貧乏なのだ』という事を勘付かせないよう配慮するのですね。

そんな中ソーニャがニコライに協力して何とかお金のやりくりをしてくれています。

 

ニコライとソーニャはかつての恋仲です。

しかし、ニコライは、ここでソーニャの完璧さが、何となく鼻につくのですね。

恐らくですね、ニコライの心の中にはもう公爵令嬢マリヤの面影が住んでいるんですね。

だからね、ソーニャのニコライに対する献身がね、『ニコライの愛を求めてるんだな。。』ってニコライに分からせてしまうんだと思います。

だからニコライはソーニャから距離を置きたいのですね。

ソーニャには可哀想ですが、没落した貴族とは言え、ニコライとは立場が違いすぎるのですよね。

ニコライも大人になって、結婚っていうのは遊びでは無い、家だって守らなければならないし、子供だって育てなければならない。。だとしたら、自分と同等の環境で育ち、同じような価値観を持てる人でないと一緒になってはダメだ、とわかったと思うのですよ。

 

そういうニコライの心の成長をね、ここでは描いていると思います。

かつて軍隊に入ったばかりの頃、デニーソフ の財布を盗んだテリャーニンに追い銭を渡したり、誰も履いていないような素敵な長靴を履いて贅沢三昧だったニコライは、今、責任感ある家長として目覚めているのですね。

そして、あんなに遊び人だったのに、自分の境遇を省みて、もう、知っている人と距離を置いて自分を守ろうとしているのですね。

世間は無責任ですからね、気持ちはわかりますよ。