戦争と平和 第4巻・第1部(14−2)公爵令嬢マリヤ、ロストフ伯爵夫妻、ソーニャと挨拶を交わす。 | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

公爵令嬢マリヤは、兄の容態は❓という最も肝心な問題になぜ彼が答えないのか、理解出来ずに怯えきった問いかけるような目で彼の顔を見つめました。

マドモアゼル・ブリエンヌが公爵令嬢に代わってそれを尋ねました。

「公爵様は❓」

「公爵様は、一緒に同じ家に滞在しておられます。」

『という事は、生きている事だわ』と、公爵令嬢は思って、小声で聞きました。

「それで、どんな容態なの❓」

「人々の話では、相変わらずのご容態だそうです。」

『相変わらずのご容態』とはどういう意味なのか❓。。公爵令嬢は尋ねようとせずに、ちらと、気付かれぬように、前に座って町を眺めながめて喜んでいる7歳のニコールシカに目を走らせただけで、そのまま深く項垂れ、重い箱馬車がどこかに停止するまで頭を上げませんでした。

 

(ロストフ一家が住んでいる)門が開けられました、左は大きな河で、右の方に表玄関が有りました。

玄関の階段の上に下男達や召使い達、それに豊かな黒髪をおさげに編んだ、血色の良い娘が立っていました。

その娘が、無理に強張った笑顔を作っているように、マリヤには思われました。(それはソーニャでした。)

そして公爵令嬢が玄関の間に入ると、待ち構えていたように、東洋風の顔の老婦人が同情を一杯に表しながら迎えました。

これは老伯爵夫人でした、彼女はマリヤを抱きしめて、接吻し始めました。

「まあ、お嬢様❗️私は貴女を愛しておりますし、とうから存じ上げておりましたのよ。」と、彼女は言いました。

 

公爵令嬢マリヤは、気が転倒していましたが、それでもこの女性が伯爵夫人である事を悟り、何か言わなければ。。と、話しかけられたと同じ調子で、口移しに何か丁寧なフランス語の挨拶を述べ、そして兄の容態を尋ねました。

「お医者様の話ですと、危険は無いそうですけど。。」と、伯爵夫人は言いましたが、そう言いながら彼女はハッとため息をついて天を見上げました。。そして、その動作は言葉とは反対の事を語っていました。

「兄は何処に居りますの❓会う事が出来るでしょうか❓」と、公爵令嬢は聞きました。

「直ぐにお会い出来ますよ、お嬢様、直ぐですよ。おや、これはお坊ちゃまですの❓」と、デサールと一緒に入って来たニコールシカを見ながら伯爵夫人は言いました。

「みんな此処にお泊まり下さいね、大きな家ですから。おお、なんて可愛らしいお坊ちゃまでしょう❗️」

 

伯爵夫人は、公爵令嬢を客間に案内しました。

ソーニャはマドモアゼル・ブリエンヌと話し込んでいました。

伯爵夫人はニコールシカに優しい言葉を掛けました。

老伯爵が部屋に入って来て、公爵令嬢に挨拶を述べました。

公爵令嬢が最後に会った時から、老伯爵は酷い変わりようでした、あの時の彼は、元気の良い、陽気な、自信たっぷりの老人でしたが、今は惨めな、おろおろした人間のように思われたのでした。

彼は、公爵令嬢と話しながら、わしがしている事はこれで良いのかな❓と、皆に尋ねるように、絶えず周りを見回していました。

モスクワと自分の財産が灰燼に帰してからというものは、彼は慣れた生活の軌道から放り出されて、自分の存在意義の自覚を失ってしまい、この世にもう自分の居場所は無いのだ、と感じているようでした。

 

早く兄に会いたい、という一途な願いと、ただ兄に会う事だけしか頭に無い、1秒も惜しいこの時に、仰々しい挨拶を述べられたり、甥に空お世辞を言われたりしている事に対する腹立たしさにもかかわらず、公爵令嬢は周りで行われている全ての事を目に収め、自分が今、身を置いたこの新しい秩序にいっとき服従しなければならぬ事を感じていました。

彼女は、これが皆必要な事である事を知っていました、そして難しい事ではありましたが、この人達に腹を立てませんでした。

 

「こちらはわしの姪ですよ。」と、ソーニャを紹介しながら、伯爵は言いました。

「まだ、ご存知じゃありませんでしたな、お嬢様❓」

公爵令嬢はそちらに向き直り、心の中に沸き立ったこの娘に対する敵意を消そうと努めながら、彼女に接吻しました。

しかし、周りの人達の気分が、彼女の心の中にあるものと余りにも遠かったので、彼女は切なくなって来るのでした。。

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(解説)

公爵令嬢マリヤは、ロストフ老伯爵とナターシャとは、モスクワで会った事があるのですね。

アンドレイの『口約束の』婚約者として、ナターシャがボルコンスキー家の屋敷に挨拶に行った時、伯爵とナターシャはけんもほろろと言う感じでボルコンスキー家を後にしたと言う部分ですね。

マリヤはその後、ボグチャーロヴォでニコライ・ロストフに助けられてお互い愛し合うようになります。

マリヤは、それ以来初めてロストフ家の人々に会うのですね。

 

ロストフ家の人々は温かくマリヤを迎え、仰々しい挨拶を交わします。

しかし、およそ人に会えば接待せずにいられないロストフ一家ですから、一刻も早く兄のアンドレイ公爵の容態を確かめたいマリヤは、その歓迎ぶりにちょっと面食らうのですね。

やっぱり、マリヤも、所詮ボルコンスキー家の人間ですから、『何が最優先されるべきか』と言う常識的な基準を持っており、ロストフ家の超マイペースにはやっとられん❗️と言う感じですね。

しかも大事な大事に兄の生死を知りたいからわざわざ危険で遠い道のりを乗り越えてやって来たのだから、ちょっとはこちらの気持ちにも配慮して欲しい。。と思うのですね。

 

オマケに、ロストフ老伯爵夫人は、ニコライとマリヤを結婚させたがっている癖に、よりによってソーニャに迎えに寄越すと言う無神経ぶりです。

マリヤは、ニコライとは結婚できなくても、一生大事な友人でいよう、でももしそうなったら、ニコライはソーニャと一緒になってしまうかもしれない。。そう言う不安はやっぱりあるのですよね。

なんとなく、マリヤは、ロストフ一家のやり方について行けないものを感じているようです。

しかし、そこは聡明なマリヤです。『とにかく、この家でお世話になるのなら、身を置いたこの新しい秩序にいっとき服従しなければならない』と悟るのですね。