戦争と平和 第4巻・第1部(12−2)ピエール、カラターエフの身の上話を聞く。 | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

「どうだな、その通りだろうが❓」と、笑いながら言うと、兵士はじゃがいもを1つ手に取って、「こうして食べなされ」と、ナイフを取り出して掌の上でそれを2つに切って、ぼろから塩を摘んで振りかけ、それをピエールに差し出しました。

ピエールは、こんなに美味しいものをこれまでに食べた事が無いような気がしました。

 

「いや。。僕はどうなろうと構わないけど。。」と、ピエールは言いました。

「でも。。何の為にあのかわいそうな者達を射殺したのだ❗️最後のは20歳位の青年だった。。」

「ちっ、ちっ。。罪な事だ。。」と、小さな男は早口で言いました。

「なんでまた、旦那あ、モスクワに残っていたんだね❓」と、彼は続けました。

「奴らがこんなに早く来るとは、思わなかったんだよ。うかうかしていたら残ってしまったのさ。」と、ピエールは言いました。

「でも、どうして捕まったのかね❓ええ❓家でかね❓」

「いや、火事場に行ったんだよ、そして逮捕されて、放火容疑で裁判にかけられたのさ。。」

「裁判あるところ、不正あり、だね。」と、小さな男は口を挟みました。

 

「君は此処にもう長いのかね❓」と、最後のじゃがいもをもぐもぐやりながら、ピエールは聞きました。

「俺かね❓この間の日曜日にモスクワの病院で捕まったんでさ。」

「君は兵隊かね❓」

「アプシェロン連隊の兵でさあ、熱病で死ぬところさ。何にも知らされなかった(=捕まる事について)。思いもよらなかったな。。全く寝耳に水ってやつさ。」

「どう、こんな所にいちゃ寂しいだろう❓」と、ピエールは聞きました。

「そりゃ寂しくねえ訳ねえさ、旦那。俺はプラトン、苗字はカラターエフってんだがね。」と、彼は言いました。

「旦那❗️モスクワは、ロシア中の町の母だ。こんな有様を見たら、そりゃあ気がふさぎまさあ。毛虫はキャベツを食うが、てめえ(=虫)の方が先に死ぬ。こう年寄りが言っているよ。」と、彼は早口に付け加えました。

 

「えっ、今なんて言ったのかね❓」と、ピエールは聞きました。

「わしらの知恵じゃねえ。神の裁きだって、言ったのさ。ところで旦那の所は土地もお屋敷もお有りだね❓おかみさんもいなさるかね❓じいさまもばあさまも達者かね❓」と、彼は尋ねました。

ピエールには暗くて見えませんでしたが、これを尋ねた時、兵士の唇が愛しさの微笑を抑えてすぼめられたのが感じられました、彼は、ピエールに両親が居ない事を、わけても母が居ない事を、かわいそうに思ったらしい様子でした。

「ところでお子さんは❓」と、彼は質問を続けました。

ピエールの『居ない』と言う返事は、また彼を悲しませたらしく、彼は急いで言い足しました。

「なあに、若い者だ、まだ神が授けて下さる、できるとも。ただおかみさんと仲良く暮らす事だ。。」

「でも、もう同じ事だよ。」と、ピエールは思わず言いました。

 

「乞食と牢屋暮らしは、一度味を覚えたらやめられるもんじゃねえ」と、彼は長話を始めるつもりらしく1つ咳払いをしました。

「地主様は大見代だし、土地はたくさんあるし、百姓達はいい暮らしをしていたし、俺の家も暮らし向きは楽な方だった。それがある時。。」そして、カラターエフは他人の森に木を伐りに行って、番人に捕まり、鞭で殴られ、裁判にかけられて、兵隊にやられた長物語を語りました。

「どうだね、旦那❓」と、彼は微笑で崩れた声で言いました。

「運がねえと、皆は思ったが、これで良かったんだよ❗️俺がやらなかったら、弟が行かにゃならねえ。弟夫婦には小さながきどもが3人も居たが、俺なら兵隊後家が1人残るだけだ。女の子が1人居たが、兵隊に行く前に神に召されてしまった。休暇で家に帰って見ると、どうだね、前より暮らし向きが良くなってたんだよ。」

 

「そして親父様が言うんだよ。あの時プラトン(=カラターエフ)が取られなかったら、ミハイロ(=弟)が行ってたはずだ。そしてわしら皆を呼んで、嘘じゃねえ、聖像の前に並べて、ミハイロ、此処に来て、兄さの足元におじぎしろ、ばあ様、お前もおじぎしろ。孫達、おまえらもだ。わかったか❓親父様はこう言うのさ、こういう訳だよ、旦那、天命はまぬがれる訳には行かねえ。」そういうと、プラトン・カラターエフは藁の上に座り直しました。

 

しばらくそうして黙り込んでいて、プラトンはやおら立ち上がりました。

「どうしたね、眠くなったようだな❓」と言うと、彼は急いで十字を切りながら、祈りの文句を唱え出しました、祈りを終えると彼は横になり、外套を被りました。

「どんな祈りを唱えたのかね❓」と、ピエールは聞きました。

「神に祈ったのさ。あめえさんはお祈りをしないのかね❓」

「いや、僕も祈るよ。でも、フローラとラヴラと言ったが、あれはどう言う事だね❓」

「おや、わからんのかね❓馬のお祭りだよ。家畜だって憐れんでやらにゃ」と、カラターエフは言いました。

「ほら、ちびめ、丸まって、ぬくぬくと可愛いやつだよ。」と、足元の子犬を撫でて呟き、彼はまたくるりと寝返りを打ってすぐに寝入ってしまいました。

 

ピエールは長い事眠れぬままに、自分の場所に横たわって闇を凝視し、側で寝ているカラターエフのなだらかないびきを聞いていました。

そして心の中に、先程崩壊した正解が、今は新しい美しさに包まれてこれまでとは違う揺るぎない基礎の上に建てられて行くのを感じていました。。

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(解説)

ピエールとカラターエフは一緒にじゃがいもを食べながら、お互いの身の上を打ち明け合います。

カラターエフは、ピエールに母親も子供も居ない事を知り、おそらく、ピエールは家族愛には恵まれていないのだな。。と悟ったと私は思います。

それで、(ピエールを慰めるためと言うこともないでしょうが、『こんな人生もあるのだ』と示すように)カラターエフは自分の数奇な身の上を話し始めます。

 

カラターエフは、農民の出身の兵士だったのですね。

農民としてそこそこ幸せに暮らしていた彼は、まず、幼い我が子(女の子)を亡くしたと言っています。

そして、他人の森に木を伐りに行って、番人に捕まり、鞭で殴られ、裁判にかけられて、兵隊にやられた長物語を語ります。

当時、兵隊の数が必要だったと言う社会背景があるのですね。

ちょっとでも油断していると、こうして農民は兵に駆り出されたのだと思います。

しかし、カラターエフはそんな自分の運命を嘆きません、むしろ「これで良かったのですよ」と穏やかにピエールに話します。

なぜなら、これが弟のミハイロだったら、彼には3人の幼子が居たし、弟が死んだら悲しむ人がたくさん居たからだ、と普通に語り続けます。自分で良かったのだ、と。

彼には自分の運命を呪い、悔やむと言う発想がありません。

全て『神様のお導きの通り』の運命に素直に身を委ねるのですね、どんなに不幸な事件が起きても。

 

また、彼の父は、プラトン・カラターエフが一族を代表して兵隊に行ってくれたからこそ、弟がここに居て畑を耕してくれて一族が繁栄しているのだ、プラトンに礼を言いなさい、と皆に命じます、このお父さんが、カラターエフの『不運な境遇』をちゃんと癒して上げているのですね。。素晴らしいですね。

 

ピエールは彼の話を聞いて、カラターエフがこんなに優しい人間である背景を見たと思います。

自分が得られなかった愛情を、この一農民の小男はたくさん持っていたのですね。

ピエールは、恩人(=ヨシフ・アレクセーエヴィチ)以来、久しぶりに人の温もりに触れたのですね。

カラターエフは、一通り話して聞かせると、お祈りをして寝入ってしまいました。

ピエールは、この小男に触れる事によって、『人間が持っている魂の美しさ』を確認したのだと思います。

さっき、処刑場で崩れ去った自分の『思っていた所の美徳』が、もっと純粋な形で再構築されて行くような感じを抱き、その夜は安心して眠りについたのでした。。