戦争と平和 第3巻・第3部(33−3)ピエール、若いフランス兵と一緒に女の子を救い出す。 | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

ピエールは木戸を入ると、熱気に打たれて思わず立ち止まりました。

「どれだ、どの家だ❓」

「お、お、おっ❗️」と、傍屋を指しながら、女中は泣き声を立てました。

「あれです、あの燃えている、あれがそうだったんです。焼け死んじゃった。私の大事なカーチュチカ、私の可愛いお嬢ちゃま、ああっ❗️」火事を見て、自分の気持ちも示さなければならぬと思って、アニースカはおいおい泣きだしました。

 

ピエールは傍屋の方へ突き進みましたが、熱気があまりに激しいので、思わずぐるりと後ろへ回ると、大きな本館の前に出ました。

そこはまだ屋根の片側が燃えているだけで、その辺りにフランス兵達の群れがひしめき合っていました。

1人のフランス兵が、百姓が抱え込んでいる狐の毛皮外套をひったくろうとしてなまくらなごぼう剣で殴りつけているのを見て、略奪が行われている事を、ピエールはおぼろげに察しましたが、しかしそんな事を考えている暇はありませんでした。

 

ぱりぱり、どどっ、と崩れ落ちる壁や天井のものすごい音、風を呼び唸りを上げて燃え盛る火勢、風を巻く雲のような煙。。火事場の持つ活気がピエールにその扇動的な作用を与えました。

この作用が特に強くピエールを煽り立てたのは、この火事を見てふいに、自分に重くのしかかっていた考え(=ナポレオン暗殺)から解放された事を感じた為でした。

彼は自分で快活で、気分で、果断な青年に戻ったような気がしました。

彼は本館の側から傍屋を回って、まだ崩れ残っている所へ走り込もうと仕掛けると、何か重いものがすぐ側にずしんと落下した音を聞きました。

 

ピエールが振り向くと、本館の窓に数人のフランス兵の姿が見えました。

彼らが銀器か何か金属製品の一杯詰まった食器戸棚の引き出しを投げ下ろしたのでした。

下に居たフランス兵達がその引き出しに飛びつきました。

「こらっ、何をうろうろしてるんだ❗️」と、フランス系の1人がピエールに言いました。

「子供が1人この家の中に居るんです。あなた方、見かけませんでしたか❓」と、ピエールが言いました。

1人が、ピエールが引き出しの中の銀器やら青銅やらを取り上げようなんて気を起こしはしないか、と恐れたらしく物凄い形相で詰め寄りました。

 

「子供❓」と、上からフランス兵が叫びました。「何やら庭の方で、ぴいぴい泣いてんの聞いたぞ。ひょっとしたら、あれがそうかも知れねえ。そうよ、情けってものが大切だ。みんな同じ人間だ。。」

「それは何処です❓何処です」と、ピエールは叫びました。

「こっちだ❗️こっちだ❗️」と、窓のフランス兵は本館の裏手の庭を指差しながら叫びました。。

「待て、俺が今降りてく。」

そして本当に、1分もしないうちに、頬に何かのしみを付けたシャツ1枚の黒い目の若いフランス兵が、1階の窓から飛び降りて、ピエールの肩をぽんと叩き、一緒に中庭へ駆け込んで行きました。

「おい、みんな、急げ❗️」と、彼は仲間達に叫びました。

「もうじき火が回るぞ❗️」

 

本館の裏手の砂を敷いた小道に走り出ると、フランス兵はピエールの手を引っ張って、円形の広場を指差しました。

ベンチの側にばら色の服を着た3つばかりの女の子が倒れていました。

「ほら、あそこに居るよ。おお、女の子か、そりゃ良かったな。」と、フランス兵は言いました。

「じゃ、さよなら、でぶちゃん。そうとも、情ってものが大切だ。皆同じ人間だからな。」そう言い捨てると、頬にしみを付けたフランス兵は仲間の所へ駆け戻って行きました。

 

ピエールは、嬉しさに息を弾ませながら、女の子の側へ駆け寄って、抱き上げようとしました、ところが、母親に似た腺病質の、少しも可愛げの無い女の子は、見知らぬ男を見ると、わっと泣いて逃げようとしました。

ピエールは、それでも女の子を捕まえて抱き上げました。

女の子は憎らしい声で必死に泣きわめき、小さな手でピエールの手を振り切ろうと暴れながら、よだれだらけの口でピエールの手に噛みつきました。

何か、けだものの子に触った時に覚えるような、恐怖と嫌悪の不快感がピエールを捉えました。

しかし彼は、女の子を投げ出すまい、と我が身を励ましながら本館の方へ駆け出しました。

 

しかし、さっきの道を戻る事は出来ませんでした、女中のアニースカはもう居ませんでした。そこでピエールは、憐れみと嫌悪の入り混じった気持ちで、泣き疲れてしゃりを上げている汗と涙に濡れた女の子を、出来るだけ優しく抱きしめながら、別な出口を求めて庭の中を走り出しました。。

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(解説)

ピエールは女中のアニースカについて木戸を入ると、どうやら官吏の一家が住んでいた傍屋は盛んに燃えたぎりとても近づける状態ではありません。

この火事を見てふいに、ピエールは、自分に重くのしかかっていた考え(=ナポレオン暗殺)から解放されたような気になります。

そして、彼は自分で快活で、気分で、果断な青年に戻ったような気がしました。(➡︎ピエール自身も納得できる『自分の使命』に目覚めた、と考えます。)

ピエールは大きな本館の前に出ると、その建物はまだ屋根の片側だけが焼けているだけで、辺りには、火事の騒ぎに付け込んで略奪をしているフランス兵達がいました。

しかし、ピエールは、そんな事に構っていられません、刻一刻と身の危険が迫ってきています。

 

ピエールは、フランス兵達に女の子を見ていないか問います。

すると、上から、「何やら庭の方で、ぴいぴい泣いてんの聞いたぞ。ひょっとしたら、あれがそうかも知れねえ。そうよ、情けってものが大切だ。みんな同じ人間だ。。」と若いフランス兵の声がしました。

そのフランス兵は、1分もしないうちに1階の窓から飛び降りて、ピエールの肩をぽんと叩き、一緒に中庭へ駆け込んで行きました。

本館の裏手の砂を敷いた小道に走り出ると、フランス兵はピエールの手を引っ張って、円形の広場を指差しました。

そこのベンチの側に、その女の子は倒れていました。

 

ピエールは、嬉しさに息を弾ませながら、女の子の側へ駆け寄って、抱き上げようとしますが、女の子はピエールに全くなつきません。

しかし彼は、女の子を投げ出すまい、と我が身を励ましながらなるべくその女の子を優しく抱きしめ、火が回ってしまう直前に出口を求めて必死に女の子を抱いて走り抜けました。。

 

(追記)

ピエールは、ナポレオンの暗殺などというおよそ『不似合いな』使命感を持ってモスクワの街を彷徨い出た訳ですが、大きな天の力に支配されたのか、たまたま彼を頼って来た一人の中年の女性の幼い娘を救い出す事によって、『本来の自分の天命』を知った。。という流れに物語が構成されています。

トルストイは、常に『自分の生き方はこれで良いのか❓』と自問自答をする偶然の富豪の貴族ピエールに、随所に神の加護を与えよう。。としているのが理解出来る部分だと思います。

ピエールの真面目に悩む姿に、ぜひ読者に、自分の生き方を重ねてほしい。。という願いが読み取れます。