戦争と平和 第3巻・第2部(35−1)総司令官クトゥーゾフ 、ロシア軍の士気の力を追う。 | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

クトゥーゾフは、朝ピエールが見たあの同じ場所に、敷物を敷いたベンチの上に重い身体を沈めるようにどっかり座り込んで白髪の頭を垂れていました。

彼は1つの命令も下さずに、ただ進言される事に頭を縦に振ったり、横に振ったりしていただけでした。

「よし、よし、それをやりたまえ。」と、彼は様々な進言に対して答えるのでした、「そうだな、よし、君、ひとつ馬を飛ばして、見て来てくれんか。」と、側に居る誰彼に言葉を掛ける、そうかと思うと、「いや、それには及ばぬ、待った方が良くは無いか❓」と、言ったりしていました。

 

彼は齎される報告を聞き、何らかの指示を求められればそれを与えました。

しかし彼は、報告に対してその語られる言葉の意味にはほとんど関心を示さないで、報告者の顔の表情や言葉の調子に現れている何か別なものに注意しているようでした。

彼が長年の戦争経験で知り、老人の知恵で理解していたことは、死と闘っている何十万人という人々を指導するという事が、一人の人間に出来る訳が無いという事と、会戦の運命を決定するものは、総司令官の命令でも無いし、軍の位置している場所でも無いし、砲や死者の数でも無く、それは軍の士気と称される目に見えぬ力だと、と言う事でした、だから、彼は自分の立場でできる限り、この力の方向を追い、それを指導していたのでした。

 

午前11時に、フランス軍に占領された突角堡を、また奪回したが、バグラチオン公爵が負傷したと言う報告が、クトゥーゾフの元に齎されました。

クトゥーゾフは、おおっ、と思わず口に出して頭を振りました。

「すぐにピョートル・イワーノヴィチ公爵(=バグラチオン公爵)の所へ行って、どんな様子か詳しく見て来てくれんか❓」と、彼は副官の一人に言い、続いて背後に立っていたヴィルテンベルヒ公をかえりみました。

「殿下、第1軍の指揮をとってもらえまいかな❓」

公が発つと間も無く、まだセミョーノフスコエ村に行き着くはずが無いのに、公の副官が引き返して来て、援軍を送って欲しいという、公の要求をクトゥーゾフ に伝えました。

 

クトゥーゾフ は渋い顔をしました、そしてドーフトゥロフに第1軍の指揮をとるよう命令を送ると、このような時機に側に居て貰わなくては自分の動きが取れぬから、公に戻って貰うように、と副官に言いました。

ミュラーを捕虜にしたと言う報告が齎されて、幕僚達が祝いの言葉を述べると、クトゥーゾフ はにっこりと笑いました。

「待ちたまえ、諸君。」と、彼は言いました。「勝戦だ、ミュラーを捕虜にしたとて別に珍しい事では無い。喜ぶのはもう少し待った方が良さそうだ。」

それでも彼は、この知らせを全軍に伝えるように副官に命じました。

 

左翼からシチェルビーニンが、突角堡とセミョーノフスコエ村がフランス軍に奪取されたと言う報告を持って駆けつけた時、クトゥーゾフ は、戦場の物音とシチェルビーニンの顔色から、良くない知らせである事を察して、立ち上がりました、そして、シチェルビーニンの腕を取って、脇の方へ連れて行きました。

「君、一走り行って来い」と、彼はエルモーロフ に言葉を掛けました。

「何か打つ手は無いか、見て来てくれ。」

 

クトゥーゾフ は、ロシア軍陣地の中央に当たるゴールキ村に居ました。

ナポレオンによって向けられた我が左翼の突撃は、何度か撃退されました。

中央部では、フランス軍はボロジノ村から先へは進みませんでした。

ウワーロフの騎兵隊が、左翼からフランス軍を敗走させました。

2時過ぎに、フランス軍の突撃が止みました。

戦場から駆けつける全ての顔と、自分の周りに立っている人々の顔に、クトゥーゾフ は、はち切れんばかりの緊張の表情を読み取りました。

クトゥーゾフは、予期以上の今日の成功に満足を感じました。

しかし体力が老人を見捨てました、彼の頭は垂れ落ちるように、何度か低く下がり、うつらうつらし出しました。

昼食が運ばれました。

 

侍従武官ヴォリツォーゲンが、昼食を摂っているクトゥーゾフの所へ馬を走らせて来ました。

昨夕、アンドレイ公爵の宿舎の側を通りながら、戦争は広い地域に移さねばならぬ、と言った男で、バグラチオン公爵が仇敵視している男でした。

理性的なバルクライ・ド・トリーは、潰走する負傷兵の群れや、軍の後部の混乱を見て、全般の戦況をはかり、我が方の敗戦と断じたのでした。

そして、それを、総司令官に報告する為に、お気に入りのヴォリツォーゲンを派遣したのでした。。

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(解説)

今度は場面変わって、ロシア軍の大本営のクトゥーゾフの様子ですね。

クトゥーゾフは、熟練の司令官であり、戦争経験と勘も優れており、今、この会戦において、我が軍に『何が一番大切か❓』それは兵士達の士気である、と考えています。

だから、現場の部隊が積極的にこうだ、と思った事については、その部隊の判断に任せ、自分は背後からその意見を尊重する、と言うやり方を取り、各部隊の士気の維持に努めようとしています。

 

この会戦において、クトゥーゾフは、今までの対フランス戦とは異なる手応えを感じています。

ミュラー将軍を捕虜にした、と言う知らせを受けた時、彼は「油断するな」とは言いますが、その知らせを各部隊に伝えます、その情報は各部隊の士気を明らかに高めるものでした。

 

それでもお昼頃になると、クトゥーゾフは老齢と疲れのため、うつらうつらするのでした。

そんな時、昼食が運ばれ、クトゥーゾフが昼食を摂っていると、あのバルクライ・ド・トリーの手下のドイツ人の侍従武官ヴォリツォーゲンが、ゆゆしき知らせを持ってクトゥーゾフの前に馬で駆けつけたのでした。。