戦争と平和 第3巻・第2部(23)ベニグセン、ピエールを連れて陣地視察をする。 | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

ベニグセンはゴールキ村から大街道を橋の方へ下って行きました。

丘の上から士官が中央軍の陣地だとピエールに教えてくれた、岸に匂いの強い乾草の列が並べられていたあの橋でした。

一行は橋を渡ってボロジノ村に入ると、左へ折れ、おびただしい兵士達の群れや、大砲の側を通って、民兵達が盛んに陣地構築に従事している高い丘へ登りました。

これはまだ名称を持っていませんでしたが、後にラエフスキイ堡塁(砲台)と呼ばれる事になった丘でした。

 

ピエールは、この堡塁に格別の注意を払いませんでした。

その時は知りませんでしたが、後日この丘が彼にとってボロジノの戦場の何処よりも忘れる事の出来ない場所となったのでした。

そこから一行は、谷間を越えてせミョーノフ村に向かいました。

村では、兵士達が百姓家や乾燥場を壊して盛んに材木を運んでいました。

一行はさらに丘を登ったり、下ったりして、雹に打たれたように無残に踏み荒らされたライ麦の畑を越え、耕地の畔伝いに砲兵隊が新しく作った道を通って、これもまだ構築中の突角堡に出ました。

 

ベニグセンはここに馬を止めて、前方のシェヴァルジノ堡塁を眺め始めました。

昨日までは、味方の陣地だったその堡塁に、数名の騎士達の姿が見えました。

士官達は、あれはナポレオンだとか、ミュラーだとか話し合いました。

そして一同は、その一団の騎士達に食い入るような目を向けました、ピエールも目に力を入れて注視し、豆粒のように見える騎士達のどれがナポレオンか見定めようとしました。

やがて騎士の一団は、堡塁から下って行き、姿を消しました。

 

ベニグセンは、側に来た将軍に向かって、我が軍の配置状況を詳しく説明し始めました。

ピエールは、明日に迫った会戦の要点を理解しようと、知力の全てを傾けてベニグセンの言葉を聞いていましたが、悲しい事に、それを理解するには自分の知力が足りぬ事を感じざるを得ない得ないのでした。

ベニグセンは話を止めました、そして、熱心に聞いているピエールの姿に気づくと、ふいに彼の方を向いて言葉をかけました。

「どうやら、貴方には興味がなさそうですね❓」

「いいえ、とんでも無い。ひどく興味があるのですよ。」と、ピエールは繰り返しましたが、確かにそれは正直な返事では有りませんでした。

 

一行は突角堡からさらに道を左へ取り、白樺の若木が密生している林の中をうねっている道を進んで行きました。

2露里ほど林の中を進むと、一行は空き地に出ました、そこには左翼を防衛する任務のトゥチコワの部隊が野営していました。

この最左端の陣地で、ピエールには、ベニグセンが熱を込めて多くを語り、作戦的に重要な命令を与えたように思われたのでした。

トゥチコワ軍の陣地の前方に高地がありました。

この高地に部隊が配置されていませんでしたが、ベニグセンはこの誤りを指摘し、指揮所に絶好の高地を捨てておいて、その裾野に軍を配する事の不思議を、声を高くして非難しました。

何人かの将軍達も、同意見を表明しました。

1人などは軍人らしく特に激昂して、こんな所に兵を置くのは屠殺場に置くようなものだ、とまくし立てました。

ベニグセンは独断で、軍を高地へ移す事を命じました。

 

左翼陣地におけるこの命令は、ピエールに軍事問題を理解する自分の能力を益々疑わせました。

山裾の配陣を非難するベニグセンと将軍達の意見を聞いていて、ピエールはすっかりそれが理解出来たし、確かにその通りだと思いました。

ところが、それがわかったからこそ、今度は山裾に配陣したその指揮官が、どうしてこの様な分かり切った乱暴な誤りを犯したのか、それがピエールには理解出来なくなるのでした。

 

これらの部隊が、ベニグセンが考えたように、陣地を防衛する為に配置されたのでは無くて、伏兵として、つまり隠れていて、前進して来る敵のふいを襲う為に、見えない場所に配置されていたのであった事が、ピエールにはわからなかったのでした。

ベニグセンも、それを理解していなかったのでした、そして自分だけの考えで、それを一言も総司令官に報告せずに、その部隊を前方へ移動させてしまったのでした。。

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(解説)

ピエールは、ベニグセン伯爵に連れられて陣地視察に行きますが、ベニグセンの、我が軍の配置状況の説明がさっぱりわかりません。

そして、彼らは、昨日までロシアの陣地だったシェヴァルジノ堡塁に数名のフランス人の騎士達を見かけます。

ピエールは目に力を入れて注視し、豆粒のように見える騎士達のどれが(自分が尊敬する)ナポレオンか見定めようとしましたが、わかりませんでした、やがてこの騎士達は、堡塁から下って行き、姿を消しました。

 

そして、左翼を防衛する任務のトゥチコワの部隊に到着した時、ベニグセンは指揮所に絶好の高地に人が配していない、と怒ります。

ベニグセンの意見に、何人かの将校達(※要するに『イエスマン達』ですねー)も同調を示します。

それで、ベニグセンは、独断で、軍を高地へ移す事を命じてしまいます。

ピエールも、ベニグセンの言い分は(素人とは言え)、あまりにも当たり前の事だと理解しますが、自分でも理解できるような事を『しなかったこの配置の指揮官の意図』には気付きませんでした。

ベニグセンも、実はピエールと同様、前進して来る敵のふいを襲う為に、見えない場所に配置されていたという事実に気づかずに、勝手に配置換えをしてしまったのでした。。