戦争と平和 第3巻・第2部(21−2)スモーレンスクの聖母、ボロジノに到着する❗️ | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

古参下士官が、士官の話の間に側へ来ましたが、そのまま黙って上官の話が終わるのを待っていました。

ところが上官がこう言った所で、彼はその言葉が不服らしく、上官を遮りました。

「土嚢にする網籠を取りに行かねばなりません。」と、彼は厳しい声で言いました。

士官は狼狽えたように見えました、彼は、明日どれほど大勢の欠員が出るかは、考える事は構わないけれども、口にすべきで無かった事を悟ったようでした。

「そうか、ではまた第3中隊をやれ。」と、士官は言いました。

「しかし、貴方はどちらから❓軍医ですか❓」

「いいえ、私は見に来ただけです。」と、ピエールは答えました。

そしてピエールは、また民兵達の側を通って丘を降りて行きました。

 

「そら来たぞ❗️運んで来るぞ❗️。。そら、聖母だ。。もうじき来るぞ❗️」と、人々の声がふいに聞こえました、そして士官も、兵士も、民兵達も道を前方へ走って行きました。

「聖母だぞ❗️守り神だ❗️。。モスクワのイヴェール寺院の聖母だ❗️。。」

「スモーレンスクの聖母だぞ。」と、もう1人が訂正しました。

民兵達は。。村に居た連中も、砲台で作業をしていた連中も、スコップを投げ捨てて、行列の方へ走って行きました。

埃っぽい道を進んで来る歩兵大隊の後ろに、法衣をまとった司祭達が続き、頭巾を被った老主教が下僧達や聖歌隊を従えて暑いて来ました、その後ろから数名の兵士と士官が、天蓋の下に黒い顔の見える大きな聖像を捧げていました。

これがスモーレンスクの中央寺院から運び出されて、それ以降軍に守られていた聖像でした。

その聖像の後ろにも、左右にも、前方にも、至る所から駆け集まって来た軍人達の群れが、むき出しの頭を大地に擦り付けて礼拝していました。

 

丘の上に登ると、聖像は停止しました、補祭達が新たに香炉に火を入れて、祈祷式が始まりました。

熱い太陽の光線が真上から垂直に照り続けていました。

かすかなそよ風がむき出しの頭の髪をなぶり、聖像のリボンに戯れていました、聖歌は大空の下へ静かに流れ渡っていました。

脱帽した士官、兵士、民兵達の黒山のような群れが製造を取り巻いていました。

司祭や補祭の後ろの、そこだけ空けられた場所に、高官達が立っていました。

 

百姓達の群れの中に立っていたピエールは、これらの高官達の一団の中に、何人かの知っている顔を認めました。

しかし彼は、そちらへは目をやりませんでした。

彼の全ての注意は、いずれも同じように食い入るような目を聖像に注いでいる、兵士達や民兵達のこの群衆の顔に現れている真剣な表情に、呑み尽くされていました。

疲れた下僧達が(もう20回目の祈祷に入っていた)物憂げに口がひとりでに反復するように「聖なる母よ、汝のしもべを禍より救い給え」と唱え、老主教と補祭がその後を受けて「我らの願いを聞き届けたまえ。」と唱え出すと、ーー全ての顔に又しても、まさに来んとする瞬間の厳粛さを意識する一様なな表情に、さっと染まりました。

それはピエールが、今朝からモジャイスクの坂道やここまで来る途中で時折出会った多くの顔に見たあの表情でした。

 

聖像を取り巻いていた群衆がふいに割れて、ピエールは押されました。

誰か極めて重要な人物が聖像の方へ近づいて来たらしい様でした。

それは陣地を視察して来たクトゥーゾフでした、彼はタターリノヴォの本営への帰途、祈祷式に現れたのでした。

その際立った独特の姿を見て、ピエールは直ぐにクトゥーゾフ とわかりました。

大きな肥満した身体に、長いフロックコート型の軍服を着たクトゥーゾフは、上下左右に身体を揺する独特な歩き方で群衆の輪に入って来ると、老主教の後ろに立ち止まりました。

彼は慣れた手付きで十字を切ると、重い息をついて白髪の頭を垂れました。

クトゥーゾフ の後ろにベニグセンと幕僚達が従っていました。

総司令官の出現は、全ての高官達の目を引きましたが、しかし民兵達と兵士達は、そちらの方に見向きもしないで、一心に祈り続けていました。

 

祈祷が終わると、クトゥーゾフ は聖像の前に近づき、苦しそうに跪いて、大地に額をつけて礼拝しました。

そして立ち上がろうとしましたが、身体の重さと体力の衰えの為しばらく立ち上がる事が出来ませんでした。

彼はやっと立ち上がると、聖像に唇を付け、また手を大地に触れるほどに深く頭を下げました。

将軍達は彼に倣いました。

士官達がそれに続き、次いで兵士達や民兵達が感激の顔を上気させて、互いに押し合いながらのろのろと聖像の前に進みました。。

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(解説)

信仰心の薄い私にはうまく書けない部分ですが、この部分は、ロシア軍が一体となってスモーレンスクの聖母様に『我が国を守り給え。。』と祈るシーンですね。

 

この部分を読んでいる時に、私は、アウステルリッツのオーストリア・ロシア連合軍の統一性の無さを思い出しました。

指令系統の統一化もなされておらず、ワイローテルの作戦にロシア側は反対だったにも関わらず、一応、作戦に従ってみたところ、思いも掛けない事態に遭遇し、軍は乱れ、ほうほうのていで潰走してしまったというロシア軍の経験ですね。。

一方、フランス軍の方は、ナポレオン自ら、各部隊に激励に行き、士気を高めていたのですね。

もう、この段階でフランスの勝ちは決まっていた様なものなのですよね、後で考えてみると。

 

ここは、アウステルリッツの会戦の場合と異なり、ボロジノで、決戦の前日にロシア軍は精神的統一がなされていた、という事実を述べている様にも思います。

これは大事な事だと思います。

 

祈祷式でピエールは、知っている顔がちらほらある高官達の一団ではなく、食い入るような目を聖像に注いでいる兵士達や民兵達のこの群衆の顔に現れている真剣な表情に、呑み尽くされてしまいます。

祈祷が開始されると、全ての顔に又しても、まさに来んとする瞬間の厳粛さを意識する一様なな表情に、さっと染まります。

それはピエールが、今朝からモジャイスクの坂道やここまで来る途中で時折出会った多くの顔に見たあの表情でした。

『ああ。。彼らは間も無く来る自分の運命=死を認識してるんだな。。』と思ったのではないか、と解釈します。

『前線で戦わねばならない兵士達や民兵達は、自分の命が危ないとわかっていながら、それを文句を言うと言う事すら思いつかずに、ただただ目の前にあるしなければならない事をしているんだな。。。こんな事が有るのだ。。』と言う思いじゃないかな。。と思います。

この時初めて、ピエールの脳裏には、モジャイスクの坂道で出会った負傷兵の一人が「農民だろうが何だろうが検査も無しに徴兵される、国民全員でのしかかろうという訳だ」という言葉の真の意味を理解出来た、と言う事だと思います。