戦争と平和 第3巻・第2部(14−1)ロストフ、農民達を一喝する。 | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

「やあ、どうでした、美人でしたか❓体調、僕の薔薇色ちゃんは素敵です。ドゥニャーシャっていうんです。。」

だが、ロストフの顔を見ると、インリンは口をつぐみました。

彼の崇拝する中隊長が、まるで次元の違う考えの中に居る事を見て取ったからでした。

 

ロストフはムッとした顔でじろりとインリンを睨むと、返事もせずに急ぎ足で村の方へ向かいました。

「思い知らせてやる、ぶちのめしてやるぞ、強盗ともめ❗️」と、彼は口の中でぶつぶつ呟きました。

アルバートゥイチ があたふたとロストフを追いかけて来ました。

「どういう結論におなりで❓」と、ロストフに追い付くと、彼は言いました。

ロストフは立ち止まりました、そしていきなり凄い剣幕でアルバートゥイチ に詰め寄りました。

「結論❓何が結論だ❓貴様は何を見ていたのだ❓あ❓百姓どもが騒いでいるのに、貴様は鎮める事も出来んのか❓貴様こそ裏切り者だ。俺の目をごまかせると思うのか❓」

そして、憤怒のストックを無益に浪費するのを恐れるように、彼はアルバートゥイチ をその位にして勢い込んで歩き出しました。

 

アルバートゥイチ は、屈辱の思いを抑えてロストフの後を追いながら、自分の考えを述べ続けました。

彼の意見では、百姓達はのぼせ上っているから、軍隊を持たずに今立ち向かうのは賢明では無い、それよりかまず軍隊を呼びにやった方が良いのでは無いか、と言う事でした。

「俺が奴らに軍隊をぶつけてやる。。俺が立ち向かうのだ」と、彼は無謀な獣じみた憤激と、その憤激をぶちまけなければ口から火が吹きそうな血のたぎりに、肩で息をしながら、前後の見境も無く口走りました。

何をどうするか考えもせずに、火の玉のようになって、彼は決然とした足取りで群衆の方へ突き進んで行きました。

そして、彼が群衆の方へ迫って行くにつれて、アルバートゥイチ は次第にこの無謀な行為が却って良い結果を生むかも知れぬと言う気がして来ました。

百姓達も、眉根を寄せた、決意をみなぎらせた顔を見ながら、同じ事を感じていました。

 

軽騎兵達が村へ乗り込んで来て、ロストフが公爵令嬢の所へ行った時から、百姓達の群れの中に狼狽と分裂が生じました。

ロストフが、インリンとラヴルーシカとアルバートゥイチ を従えて、群衆の前に近づくと、カルプが腰の革帯の間に指を突っ込んで、薄笑いを浮かべながら前に進み出ました。

群衆は、ひしひしと固まり合いました。

 

「おい❗️貴様らの村長はどいつだ❓」と、群衆の前に足早に近づきながらロストフは叫びました。

「村長だと❓何の用だね❓。。」と、カルプは言いました。

しかし、言い終わらぬうちに、その頭から帽子が吹っ飛び、強烈な一撃で頭が横へ揺らぎました。

「帽子を取らんか、逆賊ども❗️」と、ロストフの声が一喝しました。

「村長はどいつだ❓」と、彼は狂暴な声で叫び立てました。

「村長だとよ、村長出ろよとよ。。ドローン・ザハールイチ、おめえだよ」と、そちこちであたふたした神妙な声が聞こえました、そして帽子が脱がれ始めました。

 

おら達が騒ぎを起こすなんて滅相もねえ、規律を守ろうとしているのだ。」と、カルプがぼそりと言いました

すると、それを合図のように、後ろでいくつかの声が急に言い出しました。

「年寄り連中が決めた事だ、何しろあんた方の命令がまちまちなもんで。。」

「減らず口を叩くな❗️暴動だ❗️強盗ども❗️逆賊め❗️」と、カルプの胸ぐらを掴みながら、ロストフは意味もなく、上ずった自分のものとも思われぬ声で叫び立てました。

「こいつを縛れ、ふん縛れ❗️」ラヴルーシカとアルバートゥイチ の他は、彼を縛る者は誰も居ませんでしたが、構わず彼は叫びました。

ラヴルーシカは、それでもカルプの側に駆け寄り、その両手を後ろへねじり上げました。

「丘の下に居る部隊を呼びましょうか❓」と、彼は叫びました。

 

アルバートゥイチは百姓どもに向かって、2人の百姓の名を呼び、カルプを縛る事を命じました。

2人は素直に群衆の中から出て、腰の革紐を解き始めました。

「村長はどこだ❓」と、ロストフが叫びました。

ドローンが青ざめた顔をしかめて、群衆の中から進み出ました。

「貴様が村長か❓こいつをふん縛れ、ラヴルーシカ❗️」

この命令が妨害に遭うはずが無い、と頭から信じ切っているように、ロストフは叫びました。

そして実際に、もう2人の百姓がドローンを縛りにかかりました、ドローンも彼らの手を貸すように、自分で腰の革紐を解いて、彼らに渡しました。

 

「さあ、お前達、よく聞け」と、ロストフは百姓達を睨み回しながら言いました。

「直ちに家へ戻れ、ぶつくさ抜かすと承知せんぞ❗️」

「なんてこった、おら達は何も無礼を働いた訳じゃねえ。つまんねえ事をしたものよ。。だから言ったべや、理が通らねえってよ。」と、互いに非難し合う声が聞こえました。

「見ろ、わしがお前らに言った通りだ、飛んだ事をしてくれたな、お前ら❗️と、自分の立場に戻りながらアルバートゥイチは言いました。

「おら達がばかなもんで、ヤーコブ・アルバートゥイチ」と、幾つもの声が答えました、そして群衆は直ぐに解散して村へ散って行きました。。

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(解説)

ロストフは、一体農民達は何をしたのだ、と言う話を公爵令嬢マリヤから聞いて、余りの百姓達の狼藉ぶりに憤怒します。

ニコライ(ロストフ)の真っ直ぐで直情的な性格からしたら、ここは早めに一喝しておく必要があると無意識に思ったのだと思います。

 

ここで、ですが、トルストイは確かに農奴達の悲惨な状況に疑問は持っていたとは思います。

もっと、帝政ロシアという国を民主化する必要性も強く感じていたでしょう。。

しかし、従来の制度というか秩序を、暴力で破壊する、というフランス革命的なやり方は正しい民主化への移行ではない、とも思っていたのだと思います。

内部的に国家の体制を変化させるのは、法律や慣習に基づいて穏健的に徐々に移行するのが理想的だと思っていたのではないか。。その考えをおそらくニコライの言動を借りて表現しているように思います。

トルストイは、貴族階級の中で、ピエールやマリヤやアンドレイと言った、比較的知的な物事の道理を深く洞察出来る登場人物を散りばめている所を見ても、やはり『上流階級』が民主化の必要性に覚醒する事をまず望んでいたのではないか、と思います。

 

ニコライも、結局、農奴は押さえつけられた身分ではあるものの、今の社会秩序を暴力で壊して自分達の自由や権利を主張する、というその農民達のやり方を怒っているのだと思います。

特に、マリヤは、彼らに地主の麦を放出し、彼らの生活と身の安全を守ろうとしている、この時代においてはむしろ『見習うべき地主』ですから。。

今、戦争という時代において、村で分裂を起こしている場合ではない、今こそ、従来の規律を守って国を守るべきではないか、というニコライの愛国心も隠れていると思います。

そうでないとフランス軍に負けてしまう恐れがあるからですね。

 

とにかくニコライは激情に任せて農民達に一喝しているように見えますが、心底には上記のような心理が隠れており、結局は農民もなんとなくそれを理解できた、という事ではないかと思っております。

本文の下線部のカルプも「規律を守る」という言葉がそれを象徴しているように思うのですけれどね。。どうかな❓

 

(追記)

『戦争と平和』を読み終えて2ヶ月くらい経過して記憶もおぼろげになっているのですが、第4巻『エピローグ』第1部は、ピエールが政府の執政について貴族を中心とした市民が監視する必要性がある、と言って、ロシアの民主化を目指すという所で終了します。

そして、そんなピエールを『英雄視』して自分もピエールのように国を良くする人間になるのだ❣️と自分が民主化の英雄になるのだというアンドレイ公爵の息子ニコーレンカが描かれています。

 

そしてこの2人の向こう側には、従来の枠組みで自分の出来る改革を試みて農民達に尽くすニコライの、彼らの行く末を心配する眼差しが描かれています。

ニコライは、従来の体制を変えることの難しさを実感している人です。

なぜなら、彼は、動機は正しかったデニーソフ の失脚事件を見ていますし、闇雲に敵陣に突っ込んでいって犬死した弟のペーチャも知っています。

この両者の考え方は、どちらが正しいというのでは無く、恐らくトルストイの葛藤を、この両側の考え方に置いたものだろう。。と思います。

先の事を記載して悪いけれど。。ちょっと読み返していて思ったので記載しておきました。