源氏物語「手習」⑦ 浮舟、僧都に出家を懇願する。 | 気ままな日常を綴っています。

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いつか静かに消える時まで。。
一人静かに思いのままに生きたい。。

浮舟は、昔からの事を眠れないままに色々考え続けるのよ。

「実の父親という方の顔も知らず、遥かに遠い東国に幾度も往来して年月を過ごし、たまたまお尋ねすることが出来、親しくお逢いして嬉しいとも頼もしいとも思った姉君(中の君)との間は、思いがけない匂宮との事で疎遠になってしまった。。。私をそれなりに面倒を見てやろうとお考え下さった薫の君の御縁にすがって、ようやく不幸な身の憂悶も晴れようかと思う間際になって、呆れ果てた情けない事をしでかし、何もかも台無しにしてしまった自分の心が、いかにも不届きな悪いものだった。ただもう、匂宮との恋の因縁からこんな悲しいさすらいの身に落ちてしまったのだ。。」

と思うと、宇治川の小舟の上で、あの橘の小島の常盤色に掛けて変わらぬ愛を誓って下さった事を、どうしてあんなに身にしみて嬉しく感激したりしたのか。。とすっかり熱の冷めた気がするのね。。

 

初めから、それほど情熱的では無くとも、淡々と気長に、いつまでも愛して下さろうとした薫の君について、その折々の事を色々思い出すと、この上なく有り難く、懐かしく思われるのだったのよ。

こんな所にこうして生きていたのだと、薫の君に聞きつけられた時の恥ずかしさは、他の誰に知られるよりも強いに違いない。

それでも、恥ずかしながらこの世で、昔のままの薫の君のお姿を、よそながらにでもいつになったら見られるだろうかと、ふと思うのよ。。

でもやっぱり、こんな事を考えるのは、やはり悪い心なのだ、もうこんな事は思うまい。。などと心の中で考えを打ち消したりするのね。。

 

ようやくの事で、鶏の鳴き声を聞いて、浮舟はホッとするのよ。

そのうち、法師達が大勢来て「僧都は今日、山をお下りになる御予定です」と前触れするのよ。

「どうして急に❓」とこちらから尋ねているらしいのよ。

「女一宮が、御物の怪に悩まされていらっしゃいますのを、比叡山のお座主が御祈祷にいらっしゃいましたが、やはり横川の僧都がお出でになりません事には効験が見えないという事で、明石の中宮が御要請のお手紙をお届けになりましたので、僧都は下山して参内なさるのです」と僧は応えるのよ。

 

浮舟は、それを聞いて、この機会に僧都にお会いして尼にして下さいとお願いしよう、うるさく口出しする妹の尼君が丁度留守なのもいい折だ、と思うのね。

そして起きて来て「このところずっと病気で本当に気分が悪くてなりませんので、僧都様が下りていらっしゃったら戒をお受けしたいと思っております。僧都様にどうかそのように申し上げて下さい」と相談を持ちかけると、大尼君は呆けたような様子で頷くのよ。

 

いつものお部屋にお帰りになって髪をほんの少しだけ梳き流して、自分の心から望んだ事とは言え、母君にもう一度このままの姿をお見せしないでしまう事がとても悲しいのね。

髪は、病気をしていたとは言え、まだフサフサと豊かで六尺ほどある髪の裾の方などは、本当に美しいのよ。

日の暮れ方に僧都がお越しになったわ。

僧都は、まず、母・大尼君のお部屋にいらっしゃってご挨拶をなさり、そして妹尼の初瀬での参詣の事や浮舟の所在などを伺うのよ。

大尼君は「(浮舟は)まだここに泊まっておいでです。気分がお悪いとばかりおっしゃって、何でも戒を貴方に授けていただきたいとおっしゃっています」と話すのよ。

 

僧都はこちらにお出でになり、几帳の傍に膝ま付かれたので、浮舟は恥ずかしいけれどにじり寄ってお答えになるのよ。

「この世に生きていたくないと、覚悟まで致しましたのに、今まで生き永らえておりますのを情けないと思います。僧都様が、何かにつけて御親切にお尽くし下さいましたお心遣いを心から有難く存じます。しかし、どうしても世間の暮らしに馴染む事が出来ません。どうか尼にして下さいまし」と浮舟は申し上げるのよ。

僧都は「まだ随分前途のあるお年なのに、どうしてそう一途に出家をお望みになるのでしょう。。出家が全う出来なければ。かえって罪障になる事です。決心して出家を思い立たれた当座は強いお気持ちでも、幾日か経つうちに女の御身というものは、誠に罪障の深い面倒なものでして。。」とおっしゃるのよ。

 

でも浮舟は「子供の時から物思いばかりが絶えない身の上でして、母も尼にしようかと考えたり、そう口にもなさったりしておりました。少しでも分別がつくようになりましてからは、普通の人のような生活は諦めて、せめて後生だけでも安泰にと願う気持ちが深うございました。寿命が次第に近づいて来たせいでしょうか。。やはりどうしても出家を。。」と泣く泣く頼むのよ。

僧都は「こんなに美しい器量をしていらっしゃるのに、どうして自分の身を厭わしく思うのか納得がゆかない。そう言えばあの物の怪もそんな風に言っていたな。。本当なら今まで生き延びられているような人では無かったのだ。魔性の物の怪が見込んで取り憑いたのだから、このままでは実に恐ろしく危険な事になる」とお考えになって、出家をお認めになるのね。

 

「とにもかくにも、出家を思い立たれ、それを遂げたいとおっしゃるのは、御仏も非常にお褒めになられる事です。法師として、それに反対申し上げるべき事でもありません。ただ、何ぶん急な用件で山を下りて参りましたので、今夜はあちらの宮様の所に参上して、御修法の7日間が終わって退出する折に、戒をお授け申しましょう」とおっしゃるのよ。

浮舟は、あの尼君が初瀬からお帰りになったら、必ず反対されるに違いないので「病気が重くなってからでは受戒も役立たないでしょう。。今日が一番結構な機会だと存じます」と言ってひどく泣くのよ。

 

僧都は、実に不憫に感じられ「山を下りる事がは、年を取るにつれまして耐えられない程体が辛くなって参りましたので、ここで一休みしてから宮中に参上しようかと存じております。そんなにお急ぎになられるのでしたら、今日、授戒を務めさせていただきましょう」とおっしゃるのよ。

浮舟はそれを聞いて、飛び上がる程嬉しく思うのね。

 

今日はここまでです。

次回も「手習」⑧です。

いつも有難うございます♪

 

今日も良い一日をお過ごしくださいね❣️

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(追記)

浮舟は、父の顔も知らず育ち、たまたま親しくお逢いするようになった中の君とも自分の過ちで疎遠になり、また、面倒を見てくれていた薫の君とのご縁でようやく不幸な身の憂悶が晴れようか。。と言う時になって、呆れ果てた事を仕出かした自分を不届きな者と思うのでした。

どうして宇治の小舟の上での匂宮のお言葉を嬉しく感激してしまったのか。。今思うと、なんと浅はかな事だったのだろう。。と思うのでした。

 

そして情熱的では無くとも、気長にいつまでも愛して下さろうとした薫の君の事を有り難く思い出すのでした。

しかし、自分がこんな所でこうして生きている事を薫の君に知られたら、恥ずかしい。。でも、昔のままの薫の君の姿を拝見してみたいものよ。。などと思うも、また、こんな事を感えるのは虫が良すぎる事だろう。。と、打ち消したりもするのでした。

 

ようやく夜が明けます。

法師達が大勢来て「僧都は今日、山を下りられる予定です」と前触れします。

女一宮が物の怪に悩まされて、中宮から僧都へ参内のお願いが有ったのでした。

浮舟はこの時「そうだ、皆が留守の間に僧都にお願いして尼にして貰おう」と決心するのでした。

 

日暮れ時、僧都が庵にお越しになりました。

浮舟は僧都に「この世に生きていたくないと覚悟までしたのに、今まで生き永らえてしまった。。もう世間の暮らしに馴染む事は出来ないので尼にして欲しい」とお願いします。

僧都は、まだ若くて美しい浮舟が急いで出家しても、出家を全う出来なければ却って罪障になる、と思いど止まるよう説得します。

しかし、浮舟の出家の意思は固く、僧都もようやく出家の意思が固い事を認めます。

 

そして浮舟が(尼君が初瀬からお帰りになる前の)今日、受戒を受けたいと言うと、僧都はそれも納得し、今日授戒を務める事にするのでした。