源氏物語「手習」⑤ 中将、帰途に浮舟に和歌を送る。 | 気ままな日常を綴っています。

気ままな日常を綴っています。

いつか静かに消える時まで。。
一人静かに思いのままに生きたい。。

そして尼君は浮舟にこう言うのよ「貴女が私に心を開いて下さらないのがとても悲しいのです。今、ここにこうしていらっしゃるのは前世からの因縁だとお思いになって、明るくなさいませ。私も、この5、6年恋しく思って来た亡き娘の事も、こうして貴女とお会いした後はすっかり忘れてしまっています。貴女にしても、貴女の事を愛して暮らしていらした方々がお有りだとしても、今はもう貴女はこの世にいらっしゃらないものと、次第にお考えでしょう。。この世の事は何にしても、喜びも悲しみもその当時と同じ様に気持ちがいつまでも続くものではありませんからね。。」

 

それを聞いて浮舟は涙ぐんで「私は、何も貴女に隠し立てするつもりはございません。不思議な運命で蘇生しました時に、全ての過去が夢のようにぼんやり致しまして、この世でない別の世界に生まれた人はこんな気持ちがするのだろうか。。とも思われました。今では昔の私を識っていそうな人がこの世に居るだろうとも思い出せません」とおっしゃるのね。

その御様子が無心で可愛らしいので、尼君は微笑みながらじっとそのお顔を見ていらっしゃるのよ。

 

中将は、比叡山の横川にお着きになったわ。

僧都も久々なので珍しがられ世間話をあれこれなさったわ。

弟の禅師の君とは打ち解けたお話をなさるついでに「僧都の妹の尼君の庵で、簾の隙間から髪の長い魅力的な女が見えてしまった。あんな尼の庵に美しい女を住まわせておいてはまずいだろうね。明け暮れ見るものと言えば、尼法師ばかりだし、ああしているうちに色香も無く尼のようになってしまうだろうね」とおっしゃるのよ。

禅師の君は「その女はこの春、尼君達が初瀬に参詣した時、不思議な事情で見つけて来た人だと聞いております」と言うけれど、禅師はその女を見たことが無いので詳細は話さないのよ。

 

中将は「それは可哀想な話だな。男との事で辛い思いをして、あんな所に身を隠していたのだろうか」と言われるのよ。

翌日、お帰りになる時も「小野を素通りしては帰れない気がして」と言って、尼君の所に立ち寄るのね。

中将は話のついでに「人目を忍ぶ御様子で、こちらにいらっしゃるのはどなたでしょうか❓」とお訊ねになるのよ。

尼君は困った事になった、と思いながらも、隠しているのもおかしいと思って「亡くなった娘を忘れられず悲しんでばかりいますのも執着の罪障が深くなる様に思いまして、その慰めにお世話している人でございます。大そう悩みの多い様子で、自分が生きている事を人に知られるのを辛そうにしておられます。貴方はまた、どうしてこの人の事をお聞き出しになったのでしょう❓」と答えるのよ。

 

中将は「その人を、亡き妻の身代わりの様に思っておられるなら、私に無関係の事の様にお隠しになるのは心外です。慰めて上げたいものですね」と逢いたそうにおっしゃるのね。

中将は帰り際に「あだし野の嵐の様な浮気男になびかないでおくれ。遥かな道を通い続け貴女と契りを結びたいものよ」と書いて少将の尼から浮舟に渡すのよ。

尼君はその歌を御覧になって「このお返事は、書いてお上げなさい。中将は奥ゆかしい所のある方だから、お返事をしても心配なさる様な事は無いでしょう」と勧めるのよ。

でも浮舟は、一向にお返事を書こうとしないのよ。

 

尼君は「失礼に当たる」と言って、自分が代わって「女郎花のようなあの可憐な人を、俗世を捨てた尼達の庵に引き取って見たものの、打ち解けて親しまないので苦労の種が増えるばかり」と書いたのよ。

中将は、最初の手紙だから、まあ、こんなものだろうと考えて、代筆の返事に怒りもしないで帰ったのよ。

 

中将は京に帰ってからも、ほのかに見た人の面影が忘れられず、あの人の悩みの種が何かはわからないものの、可哀想に思われ気にかかるのよ。

8月10日過ぎに、小鷹狩りに行ったついでに、中将はまた小野の庵を訪れたのよ。

中将は、尼君とお逢いして「何か悩んでいらっしゃる事がお有りの御様子だというお方の事が気掛かりでお伺いしたのです。私は、この世で何一つ思うようにならない気持ちばかりしますので、出家して山に籠りたいという願いが有りながら、親達に気兼ねしていたずらに月日を過ごしているのです。薄幸らしいあのお方こそ、私の気持ちをじっくり聞いていただきたいものです」と言って、浮舟にひどく心を惹かれているように尼君にお話になるのよ。

 

尼君は「心に屈託のありそうな人を、とお望みでしたら、お話し相手としては確かにふさわしいように思われますね。でも、人並みの結婚などは考えていないように、世を恨んでいらっしゃるようです。私のように余命いくばくもない年寄りでさえ、いよいよ出家するという時になりますと、本当に心細く思いましたのに、あの方のようにまだ将来のある盛りのお年頃では、尼になられても、先々ではどうなるだろうか。。と私は考えます」と親ぶった口ぶりで言うのよ。

そして奥へ入って「情がなさ過ぎです。せめて一言でも良いから、お返事をして差し上げなさい」と機嫌を取るように言うけれど、浮舟は全く素っ気ない態度で横になっているのよ。

 

客の中将は「ああ情けない。秋になったらとのお約束は、私は騙されたと言う事ですね」と恨みながら和歌を浮舟に送るのよ。

でも浮舟は、そんな風に色恋について知った風に返歌を詠むのも嫌でならず、また一度返歌したらこんな風に男が来る度に相手をしろと責められるのも厄介だと思い返歌をしないので、尼達はこれではあんまりにも張り合いが無いと思うのね。

 

今日はここまでです。

いつもお時間をいただいて有難うございます♪

次回も「手習」⑥です。

 

今日も良い一日をお過ごし下さいね❣️

ーーーーー

(追記①)

尼君は、なかなか心を開かない浮舟に、自分の娘が亡くなった事も浮舟が来てからは忘れる時がある、だから浮舟も蘇生した以上は新しい人生と思ってここで明るく過ごして欲しい。。と言います。

浮舟は涙ぐんで、自分は貴女に何も隠し立てするつもりは無いと答えるのでした。

 

中将は、弟の禅師を訪ねて比叡山の横川に着きます。

中将は、小野の庵で若くて美しい女を見たと弟の禅師に言います。

禅師は、その女は尼君が初瀬に参詣した時に不思議な縁で連れて来た人だと答えます。

中将は、その女はきっと男との事で辛い思いをしてあんな所に身を隠しているのだろう。。と言います。

 

中将は、横川から帰る途中、再び小野の庵を訪れます。

そして、その女の事を尼君に問うのでした。

尼君は、その女は縁あって自分の亡き娘の身代わりとしてお世話をしている女だと答えます。

中将は、その女を亡き妻の身代わりと考えているのなら、自分にも無関係では無いだろう。。と逢いたそうに言います。

 

中将は、帰り際に、浮舟に「貴女と契りを結びたい」と和歌を送ります。

でも、浮舟は一向にお返事を書かないので、尼君が代筆でお返事をするのでした。

中将は家に帰ってからも、浮舟の事が忘れられず、浮舟の悩みの種が何かはわからないものの気に掛かるのでした。

 

中将は、8月10日過ぎにまた小野の庵を訪れます。

浮舟が悩んでいるのなら、自分の浮き世を儚む気持ちを聞いて欲しいものだ。。と尼君に伝えます。

尼君は、どうも浮舟は人並みの結婚などは考えていないようだ、しかし、出家するには未だ若すぎる方です。。などと言います。

そして奥へ入って、浮舟に、中将にお返事を差し上げるように言うのでした。

しかし、浮舟の態度は素気有りません。

 

そんな浮舟の態度を嘆いて、恨みながら中将は和歌を送るものの、浮舟は全く相手にしないのでした。

 

(追記②)

この場面では、新しい人生を歩み始めた浮舟に「新たな男性」である中将が現れます。

浮舟の自殺未遂の動機が甘いものなら、自分の現世での将来を考えた場合、浮舟は中将と結婚した可能性は高かったでしょう。。

しかし、浮舟はこの「幸運」とも言える話に全く興味がありません。

ここは、浮舟はもうこの世で男性にすがって生きる、という選択肢は全く捨てているというか、一人で生きる覚悟=出家の意思が強いという事を匂わせている部分だと思います。