実は、源氏の前斎宮を「清く美しくお世話する」という事には、重要な狙いが有ったのよ。
つまり源氏は、現冷泉帝の外戚としての地位がどうしても必要だった訳よ。
当時、冷泉帝の妃には権中納言(前・頭の中将)の娘・弘徽殿の女御、さらに兵部卿の宮の姫君が入内を急いで居た状態なのよ。
源氏は、内心、この二人が将来政治を思うがままに動かす事があってはならない、と懸念して居たのね。
前斎宮には、女房達も皇族系のたしなみがある者が多くお仕えして居るし、冷泉帝への入内を実現させたとしても他の女御達に引けを取るまい。。と思ったわ。
源氏は、前斎宮に使える者に決して自分勝手な事(男君を手引きする事)をして女君に間違いを起こさないように。。と厳重注意するわ。
ところで朱雀院は、前々から伊勢に下向した日の儀式の時の斎宮の美しさをずっと忘れずに居たのよ。
生前の御息所にも幾度となく斎宮をこちらに寄こすよう所望して居たわ。
でも御息所は、大勢の後見も居ない前斎宮が朱雀院のお妃たちに敵うのか、しかも院は体が弱く病気がちで有った事から院のご逝去にでも遭遇してしまったら何と悲しむ事だろう。。とご辞退申し上げて居たのよ。
御息所自身、元東宮妃だったのに夫である元東宮を早くに亡くしてその上源氏にたぶらかされるという辛い経験を有して居たから、自分の二の舞だけはさせたくなかったのよ。
源氏は、御息所亡き後も朱雀院から熱心なお誘いがあるのを、院の御心に背いて横取りしては恐れ多いと思い、ついに藤壺の尼宮に相談するわ。
源氏は(本心を隠しつつ)「帝はまだ頑是ない年頃(13才)なので、少し分別がある斎宮(22才)がお側にお仕えした方が良いと思うのですが。。」と持ちかけるわ。
これに対し藤壺は(源氏の本心は十分に理解した上で)「院の申し出には気がつかなかったふりをして、御息所のご遺言を口実にして(すぐに)入内させてしまったら良いでしょう。」と答えるわ。
こうして「帝側からの」入内の御意向を取り付ける事に源氏は成功するわ。
後日、源氏は前斎宮を、まず二条の院に迎え紫の上にお世話を申付けるわ。
紫の上も(源氏の意向を十分に理解した上で)喜んで前斎宮のお世話の準備をするのよ。
尤も藤壺の尼宮からすれば、最近自分自身も病気がちなのでゆっくり帝のお側について上げることも出来ず、少し大人びた前斎宮が帝のお世話役になる事が必要では有ったのよ。
今日はここまでです。
次回は「蓬生」①です。
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(追記)
ここで、前斎宮の気持ちには全く触れられて居ませんが、斎宮は、伊勢下向の日の儀式上での朱雀帝の涙の意味を、幼いながらもちゃんと理解して居たと思うのですよね。
だから、朱雀帝と前斎宮との間には「淡い恋心」は芽生えて居たと思うのです。
二人は斎宮が京に戻ったら一緒になろう。。と暗黙に約束して居たと思います。
でも、斎宮はとても内気な女性で、到底朱雀の申し出を母親にも源氏にも受け入れて欲しいなどとは言えなかったのでしょう(当時の世相としても女性が自分の気持ちを明から様に表すこと自体タブーだった)。
常識的にも不釣り合いな13才の帝に入内するという22才の斎宮の気持ちを思うとちょっとやりきれないものを感じます。
一方、朱雀院は気の弱い性格で、結局権力の欲にまみれた源氏と藤壺の犠牲にまたもやなってしまうのです。
この朱雀院の真心がこうして何回も裏切られる事には読者の同情を誘うでしょう。。
比較的淡々として源氏を疑ったり恨む事がなかった朱雀は、「女性に関して」は源氏にやられ放しです。
確かに、世間では(現在でも)朱雀のように正しく生きようとしても心ない人間の犠牲になることは多いのです。
それでも朱雀は、朱雀なりの誇りを持って「自分の気持ちを処理」している風にも思えるんですよね。
このような朱雀院の生き方も当時・現在の読者の心を打ち、かつ、励みになるところがあるのかもしれません。
(という含みも感じるんですけどね。)
