今ではすっかり日本を代表するアニメ監督となった、細田守監督。
今から10数年前に『時をかける少女(→僕の感想はコチラ)』を観て以来、作品が公開されると聞けば必ず観に行っていたわけですが、このごろは「むむむ!?この作品はいかがなものか?」と思うことも多くなり、特に前作の『未来のミライ』は残念ながら「キライ!」だとはっきり思ってしまったというのが正直なところ(→僕の感想はコチラ)。
とは言ったものの、そこは惚れた者の弱み。
新作が公開されると聞けば、ワクワクしながら公開されるのを心待ちにしながら、ヨダレをダラダラと流す・・・みたいな状態。
本作もワクワクしながら公開を待ちつつ、公開初日に劇場へと足を運んだのでありました。
【あらすじ】
「時をかける少女」「サマーウォーズ」の細田守監督が50億人もの人々が集う仮想世界で歌姫として人気者となった田舎の女子高生を主人公に贈るSFファンタジー・アドベンチャー・アニメ。声の出演はヒロインにミュージシャンで声優初挑戦の中村佳穂。共演に成田凌、染谷将太、玉城ティナ、役所広司、佐藤健。
自然豊かな高知の田舎に暮らす女子高生のすず。歌うことが好きな彼女だったが、幼い頃に事故で母親を亡くして以来、人前では歌うことができなくなっていた。そんなある日、全世界で50億人以上が集うインターネット上の仮想世界“U(ユー)”に足を踏み入れたすず。そこでは誰もが“As(アズ)”と呼ばれる分身キャラクターで現実とは別の人生を生きていた。すずはそんなUの世界ではベルというAsで思う存分歌うことができた。すると瞬く間に歌姫として世界中で人気者になるすず。ある日、そんなベルの前に“竜”と呼ばれる謎の存在が現れ、彼女のコンサートを台無しにしてしまう。やがて乱暴な竜の正体探しが始まり、Uと現実世界の両方から竜を排除しようとする動きが加速していくのだったが…。
(allcinemaより)
最近の細田監督作品はほぼそうなんだけど、本作も「良いところも、悪いところもたくさんあった」といった作品。
まずは良かったところをいくつか述べさせてもらいます。
もしかすると、ところどころでネタバレもあるかもしれませんので、これからこの作品を観ようとしている方はご注意いただけると幸いでございます。
【ここが良かった①】
とにかく音楽が素晴らしかった!!
ミュージシャンで声優初挑戦だという中村佳穂さん。
オープニングで歌われる『U』って曲で思いっきり心を鷲掴みにされまして、それ以降は彼女が歌う楽曲と声があまりにも素晴らしすぎて、それを映画館の音響で体感しているだけで快感!
もはやこれだけで鑑賞料金を支払う価値があるってなものです。
【ここが良かった②】
『サマー・ウォーズ』の時も感じたけれど、細田監督の描くネット世界は美しくもあり、禍々しくもありで本当に素晴らしいですね。
あの仮想世界で、よくわからないアバターたちがウニョウニョと動いている様子を見ているだけで、本当に楽しい気持ちになれました。
【ここが良かった③】
で、本作の仮想世界である『U』
現実でのネット界隈と同じで、楽しいことがある反面、嫌~なこともたくさんある・・・ってのを描いているところが良かったですね。
少々、カリカチュアライズしすぎかな・・・と思う部分もありましたが、ネットでの誹謗中傷だとか、正義という名の元に繰り広げられる暴力とか、そんなあたりをちゃんと分かりやすく表現しているのはいいなぁと感じたのでした。
【ここが良かった④】
カヌー部のカミシン君と吹奏楽部のルカちゃんの関係性とか、ヒロちゃんとすずの友情とか、そんな青春映画チックなところ。
まるで『時をかける少女』のリニューアル版のようで 「あぁ、俺が好きな細田作品が帰ってきた・・・」なんて思ったりして、本当に嬉しかったです。
と、いろいろと良かった点がありまして、中盤くらいまでは心の底から楽しく観ていたわけですが、作品の後半になるにつれて、だんだんと僕の心が曇っていくのを感じたのでした。
【ここが悪かった①】
竜の正体。
それを暴いていく過程は楽しかったのですが、それが判った瞬間、ちょっぴり不安が・・・。
【ここが悪かった②】
閉ざされてしまった竜の心を開くためには、オマエが『U』の世界で素顔を晒さなきゃダメだ!とかいう展開にビックリ!
いやいや、前半でネット社会の闇の部分に警鐘を鳴らしていたくせに、それはさすがに無いでしょうよ・・・・
【ここが悪かった③】
竜の居場所を突き止めて、そこに乗り込むくだりがあまりにも雑すぎてビックリ!
明らかに犯罪行為が行われている現場に、女子高生一人で向かわせる周りの大人たちや友人たちの無責任っぷりと「竜は東京の多摩川駅付近にいる!」ってだけで飛び出していく無謀さにビックリ!
早朝の多摩川駅に放り出されたすずが「どうしよう。どこにいるか判らない!」みたいな状況になったのを見て、思わず「・・・でしょうね」と小さく声に出してしまった僕。
【ここが悪かった④】
で、いろんな奇跡が重なって竜の中の人に巡り合えたすず。
そして、竜の父との対決になるわけですが、その展開があまりにも都合良すぎてビックリ!
あれだけでアイツが改心するんだったら、これまで誰も傷ついたり、苦悩したりしなかったんじゃないかな。
【ここが悪かった⑤】
そんなこんながありまして、ちょっぴり成長したすず。
ぎこちなかった父親との関係も修復され、素敵な友人や、理解のある大人たちに囲まれて、楽しく歌って過ごすのでした!
・・・・って、そんなわけあるかーい!
僕がひねくれているのかもしれないけれども、この日以降、竜の父親は息子たちが『U』へ接続できないようにPCやら何やらを破壊した上で、更に暴力的に・・・・。
会員数50億人を誇る『U』の世界で素顔をさらしてしまったすずは、通っている学校や、住んでいる家を特定されたりなんだりで外出することもままならず、引きこもり生活へ・・・。
更にはネット上では彼女のことを良く思わない人々からあることないこと書かれまくったりで、Belleとしての活動もままならなくなり・・・みたいな未来しか見えなかったり・・・・。
竜の正体を、親との関係性ゆえにバーチャルな空間でしか生きる価値を見出せない人物にすることで、主人公のすず=Belleと合わせ鏡的な存在にしたかったとか、社会問題についても触れたかったとか、いろいろと理由はあるのかもしれないけれども、その重すぎる問題に対して最終的な解決まで導いていなかったあたりは、あまりにも無責任な気がしたし、僕には受け入れることができなかったなぁ・・・。
とはいえ、これはあくまでも僕個人の感想ですし、他の人の感想を見る限りでは、結構評判もいいみたいですし、とにかく映像と音楽は素晴らしいので、興味のある方はぜひ劇場で観てみるといいのではないかな・・・と思ったり。
そんなこんな。
個人的には受け入れられない作品でしたが、少なくともこの作品を観た人とあれこれ語り合いたくなるような、そんな作品でした。
(2021年7月16日 チネチッタ川崎にて鑑賞)