洞窟を抜けて、バスで町へと戻る、僕ら見仏パーティ。
天気予報で「午後には上がる」と予言されていた雨は、一向に止む気配はなく、むしろ激しくなる一方。
お互いに無言で窓の外の雨降りを眺める、僕ら。
「雨もいいが、一日続くと、退屈で、退屈で…、ふぁーあ、ならねぇ」
ってな具合に空いちまったココロのスキマに、後部座席を占拠した、女子中学生グループの会話が飛び込んでくる…。
『ってかさあ、別に可愛いからってモテるわけじゃないんだよ』
『えー、そうかなー』
『だって、xxxなんて、別に可愛くないじゃん?普通じゃん?でも、男子からは人気じゃん。』
『ああ、いえてるー』
『やっぱ、大事なのは中身なんだよ。あの子、性格チョー可愛いじゃん?』
『あー、そうかもねー。』
『でも、むずかしいよね?見た目可愛くなるのは頑張ればできるけど…』
『うん。むずかしいよねー……』
『…ねー。』
………………………………がんばれ!女学生!
………………さあ、すっかり俗っぽい気分になったところで…
いざ、次の見仏スポットへ!
◆最後の目的地「大船観音」
~足なんて飾りです。偉い人にはそれが分からんのです~
さて、次の目的地は大船観音。
この観音像は大船駅前にある山の中腹から「にゅ~」と顔を出している観音様。
東海道線や、横須賀線の車窓からも見えるこの光景は、一度観たら二度と忘れられないインパクトであります。
大船駅から観音様までの急な坂道を、雨に打たれながら足早に進む、僕ら。
半ばヤケクソ気味で、こんな会話を交わします。
『なんだかフィギュアみたいだなぁ。絶対に目からビーム出すね。』
「ああ。有事の際には『熊谷ロボ(註:大学時代の友人が創造したロボ。熊谷の気温を計測するのが主たる任務…らしい)』と合体しますね…絶対!」
『これが連邦の白いヤツか!?…なんて。』
「エスさん。そんな風にガンダム扱いしたら、観音さまも怒りますよー。」
『そっか。』
「ザクとは違うのだよ。ザクとはっ!…って…」
『なんだよ。観音さん、ガンダム大好きなんじゃんw』
「うはははーwww」
……などと、不謹慎極まりない会話をしながら、歩く僕ら。
ところで、僕がなぜこんなにハシャイでいるのか…というと……。
…怖さを紛らすためです……
何を隠そう「大きくて、人のかたちをしていて、ヌーっとしてるもの」が苦手な僕。
そんなわけなので、この観音さんは昔から怖くて仕方がない…。
最近はさすがに慣れてきたものの、以前は電車で大船駅付近を通過するたびに固く眼を閉じて、観音さんの姿を見ないようにしていた…という時期もあったのです。
そんな観音さんを、今日は拝観しようとしている…。
我ながら、その勇気ある行動に乾杯したい気分であります。
拝観料を払って、いよいよ観音さんのそばへ…。
まずは立て看板で、観音さんの建立された経緯などを読む。
なるほど、世相浄化の目的のために建立されて、今は曹洞宗の包括下にある…のか…。
大変失礼ながら、観光スポットとして誰かが建てたのかしら…くらいにしか思っていなかったので、ちょっと反省。
ついでに、怖いからって、ガンダム扱いしちゃったことも反省。
さあ、気持ちを入れ替えて、さっそく先へ進みます……。
………………………で………出たぁ~~~~~~~。
階段の上から、こちらを見下ろしている観音さん…。
やっぱり、背中が「ぞわっ」とします。
しばらく、その場でじっとして、慣れてきたころにようやく階段を上ります。
一段上るたびに、観音さんの姿がぐんぐん大きくなっていきます。
そのうち立ち上がるのではないか…とヒヤヒヤします……。
もちろん立ち上がることはなく、無事に到着。
背中から、観音さんの胎内へと入ります。
胎内は思いのほか手狭な感じ。
コンクリート打ちっぱなしの室内には、観音さんへのメッセージを記入できるノートの置かれた机、小さな木製の観音さんの像(これが意外といい感じ)を祀った祭壇、そして布製の長椅子。
お寺というよりも、教会に近いような、静謐な雰囲気。
大雨のせいか、僕らの他には誰もおらず、不謹慎ながらつい長椅子にゴロリ。
なんとも安らかな気分。
そのまま、しばらくゴロゴロした後で、観音さんに別れを告げて、雨の中を大船駅へ…。
さっきまでは「でかい、怖い、白い」というイメージだった観音さん。
今では、その優しげな表情に、ぐっと親しみを感じるのだから、また不思議なものです。
というわけで、この後は横浜駅の居酒屋へ移動して、反省会。
またの名を、吞み会。
歩き疲れた身体に、ビールがジュワーっと沁み込んでゆく感じ。
「いやー、雨で大変だったし、いろいろありましたけど「(水月)観音に始まって、(大船)観音で終わる」っていう構成は、バッチリだったんじゃないっすかね。まあ、大きさとか……いろいろ違いましたけど…。」
『うん。…でも後半はすっかり、「タモリ倶楽部」だったね…。』
…………………………たしかに……………………。
まあ、いいじゃない。
楽しかったんだから……。
結局、その後3時間近く反省会は続き…。
いつかまたリベンジをしようぞ…と、決意を新たにする二人なのでありました。