【評価】 ★★★★★
日本人として史上初にして唯一のアカデミー賞女優
ナンシー梅木を生み出した名作『サヨナラ』。
でも、本作品をその話題だけで終わらせるには
あまりにももったい無い。
作品自体も、
日本人にとっては至宝ともいうべき貴重なものだ。
◆「洋画のイケてる・・」後日談
「洋画のイケてる日本人」 ベスト10。
実はあれは
『ベストキッド』と『サヨナラ』を
まだ観てない人に紹介したいがために
やったようなものだった。
『ラストサムライ』『硫黄島からの手紙』のように
日本を舞台にした日本人向けの作品を除いて、
洋画で日本人が出てくるときは、
ほとんどの場合、ろくな扱いをされない。
ムカついたり、ガッカリしたり、苦笑したりしながらも
そういう扱いに慣れてしまっている。
そんな寂しいバックグラウンドがあるから、
この2つの作品の希少さが際立つ。
『ベストキッド』は世界的なヒット作品だが、
「有名すぎて(?)でしょうか。
レビューが少ないですね。
ほとんどの方は観られたことあるでしょ?
あると言ってください!」と
イカロスさんが不安がられているとおり、
実際、若い年代では知らない人が多いような気がする。
『サヨナラ』に至っては、
「みた人」が7人という閑古鳥状態。
これは、明らかに知られてない。
◆ 日本人唯一のオスカー受賞という快挙より
渡辺謙、菊地凛子、浅野忠信と最近立て続けに
日本人がアカデミー賞にノミネートされた。
その都度に話題になったのが
日本人で唯一のオスカー女優 ナンシー梅木。
でも、受賞作品の『サヨナラ』は観てないという人が
ほとんどなのだろう。
実は本作品は、梅木さんの助演女優賞だけではなく、
Rバトンズの助演男優賞他、4部門も受賞してる。
同年作品賞の『戦場にかける橋』は日本でも有名なのに、
なぜか本作品の方は影が薄い。
他の国でならともかく、
日本でこんなに無名なのは残念すぎる。
アカデミー受賞作品だから
推薦するわけではない。
はっきり言って、
ナンシー梅木のオスカーも、
アカデミーの4部門受賞も、
そんな冠は全然無くても、
我々日本人には必見の映画だ。
◆ 驚愕の昭和リアル映像
『三丁目の夕日』のようなセットやCGじゃない。
正真正銘リアルな昭和の風景だ。
しかも古い映画にもかかわらずカラーだ。
うわわわわわ!
うおおおおおおおおおーーーーっ!
ほげーーーーーーーーーー!
1957年。
まだ生まれてもない遥か昔の風景。
だけどなんか不思議な気持ちだ。
なんなんだ?
いつか夢で見たような、この既視感は?
でじゃぶ!
日本人の原体験なのか?
なんなんだ?
この胸を締め付けられるような
夕焼け小焼けの赤とんぼ感は?
なんなんだ?
このタイムマシンで
過去を覗き見するようなドキドキ感は?
◆ 日米友好の始まりを宣言した映画
歌舞伎、宝塚、能、人形浄瑠璃、茶道
日本酒、蚊帳、心中、風呂の背中流し。
まるで日本文化のテキストのように
次から次へと伝統的な風俗文化が紹介される。
そういう映像自体は特に珍しくないのだが、
裏側に、当時の制作陣の日本に対する
並々ならぬ真摯な好意と善意が感じられる。
そこに強い感銘を受ける。
物語は戦後まもない頃。
終戦後も日米間には心理的な壁が存在していた。
日米人間の恋愛は双方にとって禁断の恋だった。
アメリカ側は日本人と結婚することを恥と考え、
日本人側はアメリカに対する憎しみが残っていた。
米国男と日本女ということで
イエロー何とか的な拒絶感を持つ向きもあろうが、
そういう国辱的な感触はむしろない。
米国男は限りなく真剣だ。
真剣すぎてアレしてしまうくらいだ。
米国女と日本男のロマンスもある。
(日本男がアレなのだが、まあ、それはご愛嬌で)
日本に対する姿勢が真摯なのだ。
ひたむきに真摯なのだ。
こんなハリウッド映画。
貴重といわずして何といおう。
◆ 思わず声を上げてしまうエンディング
決定的に面白いのは、
エンディングのオチ。
これには参った。
「おおおおお!
そういうことだったのか!」
思わず声を上げてしまう。
ドンデン返しではないのだが、
「ドンデン返しベスト映画10!」
1位の『情婦』に負けないくらい
インパクトがある。
「衝撃の展開」ならぬ、
「快心の一撃」とでもいおうか。
スコーン!って感じだ。
というわけで、
日本に対する敬意・好意・善意が感じられる
希少なハリウッド作品であるうえに、
作り物ではないリアルの昭和風景が観れるうえに、
日本人唯一のオスカーとアカデミー4部門受賞のうえに、
ラストのセリフにしびれるクラシックの名作。
是非是非、ご覧ください。