2020年12月5日、はやぶさ2の偉業をチェックしつつ、筆者とZくん(国公立大・工学系修士2年かつ某大手企業内定者)で、WEBミーティングをしました。 ※1 ※2

●1 トヨタが大学推薦全廃? ほかの大手は?
P: Zくんの後輩(理工系・企業推薦ありの学科)kくんが、『トヨタ自動車(以下、トヨタ)が、大学推薦を全廃して自由応募のみになる』というニュースを見て、『ほかの大手企業の推薦も廃止される? 』と心配しているそうですね。
Z: トヨタの募集が自由応募 のみになるのは22卒(現・修士1年)から。後輩(kくん)はいま学部4年なので、修士23卒予定です。4年生だと今は、卒論優先の時期かなとも思いましたが、コロナの影響が長引くことも心配してたので、Pさんの話次第では、kくんも安心して年を越せるかな?と。
P: コロナの影響については、たとえ長引いたとしても、業界によって全然違いますので、●2でも少し触れました。
トヨタの「推薦」については、結論を先に言うと、『追随する大手企業は多くない』と思います。
その根拠ですが、以前の記事で機電系のDくんと話した内容が前提になります。
Dくんからは、機電系学科に届く求人票に並んだ謎の言葉
『推薦または自由
 推薦応募のみ
 自由応募のみ
 推薦 2 応相談
 推薦(学部1  院生3)』
の報告がありました。
なぜ、企業によって募集内容がばらばらなのか? その理由を、筆者は企業と学生の需給関係からランク分けして『そもそも「自由応募のみ」にも2つのケースがある』と、説明しました。
ケースA は、その業界のトップクラスの企業で、複数内定をもつ優秀な学生でも、確実に自社に入社してくれるような会社。たとえば、NHK。※2.5
プロ野球でいえば、FA選手を他球団とせりあっても獲得できるG球団みたいな会社です。
Z: プロ12球団でも、せいぜい数球団しかないわけですね(文末に、【参考情報】を掲載)。
P:ケースB は、逆に、知名度の低い会社や機電系には不人気な業界、準大手など、機電系の学生だとなかなか第一志望にしない会社ですね。Dくんの学科は推薦枠だけでも学生数の少なくとも5倍はあるようですから、そもそも推薦応募をしてもらえない。このカテゴリの企業は、「推薦または自由」か「自由応募のみ」のどちらで募集するか? 人事担当者も悩むと思います。
たとえば、化学系メーカーは、化学系の学生には狭き門ですが、機電系の学生はプラント・エンジニアや生産エンジニアとして需要がたかく、今冬のUnivaのイベントページにも東レ、日本ガイシ、東ソーなどの機電系限定イベント情報が載ってました。
Z: トヨタは、典型的なケースA企業ですよね。逆に、いままで自由応募でなかったのが、不思議な気がします。
P: トヨタのメインの研究開発拠点は愛知県ですから、Zくんのように首都圏にこだわる学生だと、これまではトヨタ VS 日産自動車(神奈川県)で、日産を選ぶ可能性もありました。が…。※3。
Z: そういえば、ゴーン被告逃亡(2020年1月)以降、ぼくの周りでは志望企業に日産をあげる学生は見当たりませんでした。
P: 日産の脱落? で、トヨタは「推薦」に頼らなくても、自動車業界志望の成績上位学生を確保できるでしょう。さらに、新聞報道※4 によれば、
『自動車関連以外の技術や知識を持つ学生を広く募集する。自動運転など次世代技術の開発力を強化し、新規事業分野の開拓を進める狙いがあるとみられる。トヨタ関係者は「学生から選んでもらえる企業になるための変更だ。』と、これまでの自動車業界志望者以外もターゲットにする狙いがあります。

 

●2 航空・鉄道業界からのシフトを期待?
P: 筆者が自動車メーカーの採用担当でしたら、22卒では、もともと航空業界志望だった学生を狙います。たとえばANAは、「(21卒で)自社養成パイロット訓練生と企画職の障がい者採用など約700人にとどまっており、2022年度はさらに採用数を圧縮する」見込みです。
同じ交通業界でも、鉄道会社の採用減は、22卒でもあまりないようですが。
Z: ネットで「空飛ぶクルマ」 が話題になってましたから、航空→自動車 はありかもしれません。
P: ホンダは、すでにホンダジェットを商用化していますね。
実は、日産とスバルも飛行機と縁が深く、またその赤い糸は、糸川英夫を介して、はやぶさ・はやぶさ2 宇宙へもつながっています。


●3 中島飛行機と糸川英夫、堀越二郎
Z: 3年前の記事では、Pさんと国分寺駅近くで対談
その時、マンホールカードにつられて?  糸川英夫がペンシルロケット打ち上げ実験をした場所(「日本の宇宙開発発祥の地」顕彰碑)まで、ぼくも歩いて行ったことがありました。
P: 糸川英夫ゆかりの記念碑は、西荻窪にもあります。そちらは「ロケット発祥之地」です。
碑がある場所は、富士精密工業が 、糸川はじめ東大・生産技術研究所(現, 文部科学省宇宙科学研究所)のメンバーと共同でロケットの開発をした場所です。
その富士精密工業の前身が、中島飛行機。旧中島飛行機発祥之地の碑も、すぐ近くに立っています。そして、2つの碑がある場所は、日産プリンス東京 荻窪店の一角です。
Z: 日産ですか? 
P: 中島飛行機は、第二次大戦時点で「、世界でもトップクラスの航空機メーカーでした。糸川英夫開発の「隼(はやぶさ 一式戦闘機)」の製造や、堀越二郎設計の「零戦(ぜろせん)」のライセンス生産も行っていました。※5
この中島飛行機が、敗戦後に解体されて、SUBARU(富士重工業)や、富士精密工業を経てプリンス自動車、のちにマキタに吸収された富士ロビンなど10社以上に分かれました。
プリンス自動車は、その後、日産と合併。うち、「日産自動車宇宙航空事業部」は、のちにIHIエアロスペース(IHIの子会社)になりました。
Z: 飛行機をルーツに、戦後日本の自動車、宇宙工学が発展したわけですね。

●4 はやぶさ2 を支えた日の丸技術
P: 12月4日の日経産業新聞1面で、ちょうど、はやぶさ2に使われた技術と、開発メーカーについて紹介されていました。
Z: IHIエアロスペースは、再突入カプセルと保護材ですね。
P: ほかにも、
 NEC →イオンエンジン
 三菱重工業 →スラスター(アンテナ制御機器)
 古河電池 →リチウムイオン電池
 住友重機械工業 →サンプラーホーン(試料採取装置)
 日本工機 →衝突装置(リュウグウにクレーターを形成)
 明星電気(IHIの子会社) →分光計、カメラなど
など。
宇宙開発で培った技術は、ほかの製品づくりにも生きるはずです。
すでに、トヨタとメガバンクが共同で、宇宙・衛星関連ベンチャーに出資
の動きもあります。
Z: 22卒、23卒の理工系のみなさんは、どんな逆境でも自分の研究分野を生かせる仕事を「見つける」ことはできますよ。
23卒は、この時期、まずは卒論が、次(修論構想)にもつながり、やがて就活の中核(研究内容のプレゼン)にもなりますから、がんばってください。
P: IHIエアロスペースの採用ページより、
『就職活動にあたり、不安をお持ちの方もいらっしゃると思いますが、就職活動で得た経験は決して無駄にはなりません。
最後まであきらめず挑戦し続けてください。

私達は未来へ挑戦し続けるためのパートナーとして

自分の限界や既存の枠にとらわれず働く方
常に誇りとチャレンジ精神をもって働く方
社会全体の発展について考えて働く方

を募集しています。』

これは、日本のどの「ものづくり企業」(ソフトウェアも含みます)にも当てはまりますよ。※6


【付録】※4の新聞記事の抜粋で、これまでのトヨタの採用データと、「推薦」についての情報を載せておきます。ネットでは、不正確な情報が横行していますが、以下が、主に機電系の「推薦」の実態です。
・トヨタは、2020年は1200人を採用。うち3割≒約360人が学部・院卒の技術職。その採用の大半は、大学推薦で、自由応募は一部。
・大手メーカーは、技術的な基礎知識を備えた理系学生を確実に採用するため、学校推薦を重視する傾向
・電機メーカーの声「理系学生は推薦で埋めていく。大学での研究を踏まえ、配属部門を決めて囲い込む」

※1 今回は、Zくんから「お歳暮」として○○ギフト千円分をいただき、Zくん推奨のローソン・成城石井コラボ商品を購入。


 ※2 筆者の自室で60Mbps。これで不便を感じたことはありません。ちなみに、学校関連で話題のGIGAスクール構想の、GIGAはギガバイトとは無関係で、「Global and Innovation Gateway for All」の略だそうで。現状、都内某地域の公立学校の回線速度単位は、ギガ(Gbps)でもメガ(Mbps)でもなく、キロの世界(Kbps)らしいですね…。

※2.5 自由応募のみ の会社に、以前の記事ではソニーを挙げていましたが、2016年から推薦が復活してました。Dくんの学科には、ソニー本体ではなく、有力子会社、ソニー○○の推薦は来てたそうです。
※3 あと、HONDA(本田技研工業)の中央研究所の住所は埼玉県ですが、和光市は板橋区の隣で有楽町線の沿線です。
※4 読売新聞 11月20日 朝刊1面
※5 堀越二郎が、戦時中、糸川英夫へあてた手紙の控が現存するそうです。 http://blog.livedoor.jp/achtung0430/archives/30041891.html

※6 IHI本体が、次期戦闘機のジェットエンジン開発プロジェクトの求人掲載。中途募集(プロジェクト推進経験必須)ですが。勤務地は、東京都・昭島。なお2001年6月時点の募集です。

BGM
z選曲 Bump of Chicken 「シリウス」
P選曲 Hilcrhyme(ヒルクライム) 「グランシャリオ」
k選曲 すみっコぐらし 「すみっコぐらしのうた」 kくんより、友人(文系学部21卒・住友グループ某企業内定)あてだそうです