【Perfume SS】 「太陽と」 (3/4)
「………なんか、のっち、くさいね。」
「えっ!!くさい!?さっきお風呂入ったんだけどっ!」
想定外の綾香の言葉に、思わず、ロボットのような機敏な動きで綾香を抱いていた腕を解く。
「あははっ、違うって。セリフがくさいって。」
「へ…?」
綾香がいつものように笑ったことに安堵を覚えたのと、自分では割と良いこと言った感のあった自分の言葉へのツッコミに、
思わずすっとんきょうな声が出てしまった。
それがまたおもしろいのか、綾香はくすくすと笑った。
「お日様の匂いゆーたら、レノアかって感じだし」
そういえばそんな名前の洗剤のコマーシャルがそんな宣伝文句を言ってたような…苦笑いで記憶を辿る彩乃に、綾香が向き直った。
「……仮に、私が太陽だとするよ?」
やっと見られたその顔は、さっきまで弱音を吐いていた綾香ではなく、いつものPerfumeのあ~ちゃんそのものだった。
「そしたら、のっちは"月"じゃ。」
「……月…?」
まさか自分がそんなたいそうなものに例えられると思っていなかった彩乃は、目をまんまるにして綾香の言葉に耳を傾けた。
「月って、太陽の光で輝くじゃろ。
暗い夜でもさんさん明るく照らしてくれるじゃろう。
きっとのっちは、あ~ちゃんが暗いところにいても、
あ~ちゃんの代わりに皆をぴかぴか明るく照らして、また太陽を連れてきてくれるんじゃ。」
真っ直ぐに彩乃を見つめて微笑む。
少し涙ぐんだ綾香のその瞳を直視できなくて、彩乃は困ったように視線を向こうへ飛ばした。
…確かに、あたしはあ~ちゃんがいないと光れないかも。
言葉に出すには気恥ずかしくて、そのまま心の中にしまっておいた。
彩乃の顔を見て満足そうに微笑む綾香を見て、また彩乃も嬉しくなった。
「持ちつ持たれつなんよきっと。Perfumeって三角形があるから、私達はずっと一緒におれるんよ。」
「そうだね。………。」
あ~ちゃんのほうがよっぽどくさいことを言ってるよ、とツッコもうとも思ったが、
なかなかどうして綾香が言うと彩乃並みにくさくならないのが不思議だった。
やはり"太陽"と"月"の違いかと、勝手に納得する。
しばらくの沈黙。
なんだかむずがゆい感じがする、新鮮な沈黙だった。
まるで、知り合ったばかりでなんとか話そうと、話題を必死に探していた頃の初々しい空気のようだった。
「手…」
「ん?」
「のっちの手あったかかった。もう少し握っててもいい?」
急に甘えるような声で、綾香が求めてきた。
「うん、どうぞ。…あ~ちゃんの手のほうあったかいと思うけどなぁ。」
布団の中でぎゅっと、彩乃の右手を、綾香の両手が包む。
「えへへ、やっぱりのっちの指ウィンナーじゃね。」
彩乃より小さい指を絡ませて、彩乃の最近のお気に入りらしいカルジェルを使って綺麗にデコレーションした爪をいじりながら、子供のようにはしゃぐ。
「だーからそれはあたしのコンピュリェッ……コンプレックスなんだからほっといて!」
「あははぁ噛んだ~」
「ちょっとぉー、この前クリスマスプレゼントで"噛んでもスルーしてあげる券"もらったのにー!」
「使わんと意味ないけぇねー」
やっぱり、こんな他愛のない会話で笑えるのがいつもの自分たちで、一番の自分達だと、二人は改めて思った。
お互いを見るその笑顔が何よりもそれを物語っていた。