【Perfume SS】 「太陽と」 (2/4) | Perfect Performer Perfume

【Perfume SS】 「太陽と」 (2/4)


「狭くない?」

「ううん、大丈夫。…あ~ちゃんこそ、朝ベッドから落ちてないようにね。」

「のっちが暴れたりせん限り大丈夫じゃろ。」

「あたしはそんなに寝相悪くないよー。」



二人して天井を見上げる。

日常とは違う、布団の中のすぐ隣にある温もりが、なんだかくすぐったかった。



「懐かしいね。一緒の布団で寝るの何年ぶりじゃろ。」

「高校生くらいのとき以来じゃない?祝メジャーデビューとか銘打って、かしゆか家に泊まった記憶ある。」

「おかげ様で最近忙しくて、お泊まりなんかする機会なかったもんねー。」

「あはは。確かに。」









それとなくそこで会話が途切れ、カッチコッチと時計の針の音だけが響き渡る。


布団に入ってから何分経ったのかも曖昧だった。



電気を消してから大分時間が経ったのか暗闇にも目が馴れてきて、すぐ隣にある顔の表情も読み取れるようになってきた。





綾香がふいに、眠たげな声でゆっくりと口を開いた。



「のっちさぁ、いつかのなんかのインタビューで、私のこと…"太陽"って言っとったじゃろ。」



「……あーー、メンバー一人一人について言うと、みたいなやつ?結構前じゃね。」



昨年の超多忙な時期に受けた、Web公開のためのインタビューだったと思う。

当時はスケジュールがめまぐるしく、時期などは詳しくは覚えていないが、内容だけは鮮明に思い出せた。

今思うと若干恥ずかしい気もするが、本音なのでそれについて言い足すことはない。



「うん、あれほんと?」

「本当じゃなかったらインタビューなんかで言わないよ。」





そう即答した彩乃の真摯さが、綾香には嬉しくもあったが少し気恥ずかしかった。



「……私ね、そんなことないと思うんよ。私なんか全然太陽じゃないと思う。」



「なんで?」





急に真面目な顔で、半ば納得のいかない声で言う彩乃に、綾香は少し気圧された。



まるで、綾香が"太陽"だということが間違っていないと、確固たる意思を持っているようだった。



「あ…うん、のっちがね、そう言ってくれるのは嬉しいんよ。

だけど、私それからちょいちょい考えとったん。

私はそんなお日様みたいに輝いてなんかないって。

それ言ったら、のっちやかしゆかのほうがずっと輝いてる。

…私本当はすんごく弱いんよ。

今こうやってPerfumeとしていろんなことやらせてもらっとるけど、いつ堕ちていくかって。

テレビとか、フェスとか、雑誌を見た人が、名前だけでも、顔だけでも覚えてくれてればめっちゃ嬉しい。


けど、いつかPerfumeが誰の心にも残らなくなって、誰からも忘れられちゃったら…って、よくそんな夢を見るんよ。



ライブやってもお客さんが一人もいなくて、テレビ収録に来てもスタッフさんとか誰もいなかったりして。

3人だけぽつんとおるんよ。


私は、Perfumeなのに、Perfumeがいつ無くなるかって、いつでも不安なんよ。」



ひとつひとつゆっくりと話す綾香の声は、次第に涙声になっていた。

ここまで来るのに、数知れない「苦労」があったから。

本人たちは「苦労」とは思っていない、どれもかけがえのない楽しい思い出だが。



彩乃は思わず綾香の顔を見ようと思ったが、いつの間にか彩乃とは反対の方向を向いていて、顔は見えなかった。

見られたくないからかもしれない。



無造作に広がる長い髪から、洗い立てのいつものシャンプーの香りがした。

こんなに弱音を吐いているのが、確かに綾香であることを再認識させてくれる。

いつもの綾香のはずなのに、こんな弱々しい彼女を見るのは、彩乃にはとても久しいことだった。




「…あ~ちゃん。大丈夫。」



布団から手を出して、ぎゅっと綾香の手を握る。

綾香は怯えるように胸元に両手を寄せていたから、自然と抱き寄せるような姿勢になってしまった。

より近づいた綾香の髪の香りが鼻につき、またぎゅっと握って微笑んだ。



綾香が今どんな顔をしているのかはわからないけど。



手の温もりが、笑みが届くように。



「誰だってそんな不安はあるよ。あたしも、かしゆかなんてきっともっとそう。

Perfumeはまだまだ終わらんと思う。だけど、きっと必ず終わりは来る。だからそれまで3人で楽しくやってこう?



……それとね。これだけははっきりしてる。あ~ちゃんがいなかったら、Perfume自体無いんよ。」



綾香の涙声につられて鼻の奥がつんと痛んだのをこらえ、綾香に届くように、またゆっくり口を開く。



「あ~ちゃんがかしゆかに握手求めんかったら、

あ~ちゃんがのっちにエレベーターで話しかけてくれんかったら、今のPerfumeは無いんよ。

いつでもあ~ちゃんは3人の中で輝いとった。

それがあ~ちゃんにとったら強がりだったり、無理してたこともあったのかもしれん。

けど、私達にとっては十分に、太陽より眩しかったんよ。」



密着した体から伝わる綾香の体温が何よりの証拠だった。



「あ~ちゃんはこーんなにあったかくて、いい香りするけぇ、お日様に違いないじゃろ」



綾香を励ますように、またぎゅうっと綾香を抱き締めた。





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