<28th Nov Fri>
今朝はROHのサポートフレンズ予約。お気に入りの舞台脇席が完全になくなってしまっては一体どこに座ればいいのか途方に暮れ、いまいち気合が入りませんでした。シクシク
なので、最後にこのまじかな席から5回も観ることができたイドメネオの思い出を大切にしながら遅ればせながら記事にしました。
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モーツァルトのイドメネオに5回行きました(11月3日、6日、10日、19日、24日)。 6日に着物で出待ちした時のことは→こちら をご覧下さい。
新聞批評がなんと5ツ星から1ツ星まで並んで評価の分かれた新演出で、物議を醸し出すことの多い演出家クシェイなので覚悟はしてたものの最初はぎょっとして私なりに意味を考えましたが、回を重ねる毎にそんなことはどうでもよくなって、音楽自体と一流のパフォーマンスを聴くたびにこのオペラの素晴らしさがわかり、奥に広がりのないセットだったのも幸いして脇の席から見切れることもなく、毎回嬉しくて震えちゃいました。
どんなお話かということは過去の記事(→こちら )をご覧下さいですが、要するに、古代ギリシャ時代のクレタ王イドメネオがネプチューン神に翻弄されて息子を生贄にしなければいけない状況に陥るものの、「代わりの私を殺して」、という恋人の愛で救われるという、バロックオペラにはよくギリシャの神様たちが気まぐれで人間たちをおちょくるというストーリーです。これがヘンデルなんかだとあっさり進むのですが、モーツァルトのこのオペラはじっくり深刻に長々と続き、楽も、大ヒット・アリアはないけれど奥深くて美しく、特にモーツァルトとしては珍しい色んなパターンの重唱が特徴の一つです。
その演出ですが、私にとっては結局どうでもいいと言っても話題になったので一応言わせてもらうと、
場所は不特定でゆるく現代に設定されていて、オペラの通りのハッピーエンドディングなどなく、抗争は続くのだというシチュエーションは今の現実の世界状況を反映してぐっとくるものがあり、機関銃やピストルも緊張感を増す小道具として気に入りましたが(特にイドメネオが息子を生贄にしようとピストルを構えるところ)、細かいところで醜いものが出てくるのが嫌でした。
斬新な読み替えは大いに結構、だけど美く表現して欲しかったです。神の代わりにサメを敬愛するのは面白いけど、皆がスーパーのビニール袋から魚を出すところが一番ブーイングの原因だっのはないかしら?
私の前の列の人たちが大ブーイングしてたので全体ではどれほどブーブーされてたのかわかりませんが、ROHのサイトでブーイングの是非について議論されてたので(不満は黙って飲み込むのが美徳とされるイギリス人らしいトピックですね)、きっとたくさんの人がブーしたんでしょうね。 まさに演出家の思うツボでクシェイは嬉しそうだったので、彼を責めるのなら大きな拍手したほうががっかりするのにね。
私の個人的な好き嫌いから言うと、主役の人たちの衣装は良かったけれど長髪フレアジーンズの男性群に私は嫌悪感すら持ったし、なぜか大きな茶色の堂々とはしてるけどつまらない普通の扉が一番興ざめでした。バレエの代わりの最後の人々が闘いで疲れきってるいくつかの絵巻物風シーンもしつこ過ぎ。
Director Martin Kušej
素晴らしい歌手陣の中でもひときわ抜きん出ていたのがタイトルロールのマシュー・ポレンザーニ。テノール好きの私のえこひいきではなく、誰が一番上手かと聞かれたら誰でもポレンザーニは凄いと答えるでしょう。楽々と出る潤いのある泣き節風の美声と完璧なコントロールで長丁場を見事に歌い演じ、もう私はメロメロ 文句なしの★★★★★
ポレンザーニはこれまでROHではコジ・ファン・トゥッテ、ドン・ジョバンニ、マノンに出てくれて、今回やっぱりモーツァルトが合うと再確認したし、ルックス面でも、年齢とずんぐりな風貌がマノンに恋するアホなニーチャンには無理があったけど、このイドメネオの威厳ある父王はぴったりで、細かい表現力も抜群でまさにトップの実力をみせつけてくれました。もうすぐミュンヘンでタミーノとネモリーノをやるようですが、そういう若者役はもう辞めて恰幅のよい大人の魅力が出せるオトッツァン路線に変更して欲しいものです。
大好きなポレンザーニ以上に今回期待してたカウンターテナーのフランコ・ファジョーリ、最初は他の歌手に比べると裏声の宿命で声量に乏しくてそう変化もつけられないので、カウンターテナーとしてはトップのファジョーリであっても仕方ないかと限界を感じてしまいましたが、さすが今が旬のファジョーリ、毎回成長して声量も増し、ポレンザーニ程ではないにせよ、メリハリもつくようになり、最初は硬かった演技もこなれてきて(カツラ被るとハンサムだし)最後はスターらしい貫禄も出て見事なROHデビューとなりました。特に高音が多いこの役を金切り声にならずにこれだけ歌える男性は少ないでしょう。
聴き飽きるのであれば、ROHにはよく出てくれるマリン・ビストロムの方が最近よく聴いてるんですが、ぼってり艶っぽいマリン嬢は毎回スリルがあって退屈しません。すらっとしたスェーデン美女で何を着ても似合うオペラ界のバービー人形、今回のパルプ・フィクションみたいな黒髪オカッパもチャーミング。
この恋敵エレットラ役はもう少しドスが利いてた方がいいので、バービカンのコンサート形式で聴いたエマ・ベルの迫力には及ばず、こないだのドン・ジョバンニのほうが良かったけど、2012年のコジ・ファン・トゥッテ(→こちら
)の功績も含めてちょっとおまけの★★★★☆。
指揮者のマルコ・ミンコフスキーはバービカンではお馴染みだけどROHは初めて。普段のオケでなくてやりにくいのか、なんだか重くて、★★★☆☆かな。
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