七夕というのは彦星と織姫の逢瀬(デート)が一般的な逸話として語り継がれてきたが、本当はそうではないらしい。気になるところではあるが、まあそんな堅苦しいことは放っておいて七夕に相応しい一枚はないかとして思惟し見つけたのがバルネ・ウィラン(ts)の『フレンチ・バラッズ』、云わばシャンソンを基調としたバラード集とでも言っておこう。
七夕の時期はたいてい梅雨がまだ明けきっていない、即ち蒸し暑く寝苦しい日々の最中ということ。因って涼みを得るためのアイテムがバルネの吹く仏蘭西名譚詩集と相成った。一念天に通ずといったナンバーばかりで、まさに願い叶って涼気さが浮遊してくる。
バルネは何と言っても【ラ・ノート・ブルー】で復活の狼煙を上げた“IDA”の諸作に限る。しかもワン・ホーンであるからしてそのバルネの威力は必至。録音もフランスはパリ郊外のイエールで、それは夢のような時間であったに違いない。
オープニング<詩人の魂 (L'Ame des Poetes)>は、お馴染みシャンソン曲。私自身何度となくバルネを取り上げてきましたが、讃美の句を与えるに相応しいと漸く気づかされた一曲ではないでしょうか。要はバルネのエスプリがすべてここに記されていると感じたからです。何がどうこうでなく。続くミシェル・ルグラン作<これからの人生>における低く垂れ込めたトーンのサジ加減はモノの見事と言う他ないでしょう。
極めつけは<パリの空の下 (Sous le Ciel de Paris)>、アップ・テンポの3拍子、サビは高らかに、アドリブは濃厚なほとばしりを放つ。やがて感涙の面持ちで待ち構えていたマイ・フェイバリット・ナンバー<おもいでの夏 (Un Ete)>が当たり前のように奏でられるが、ここではソプラノで吹かれたことが私にはちょっぴり残念だった。代わりにと言っちゃあ何ですが、シナトラで有名な<マイ・ウェイ>では静かに語り、「人の心のありようなんて実にいい加減なものだ」と言わんばかりにテナーに持ち替える。心の中をそっと見透かされたようで、顔をあげられない。
<枯葉 (Les Feilles Mortes)>はシャンソンの中でも名曲中の名曲であり、私にとっては厄介な超“迷曲”なのです。有り触れた曲ゆえに面白味のない演奏は聴く方がダラケてしまい、ここでのバルネのように粉骨砕身演っていただけるのならば誠心誠意聴いてやろうと思うのであります。
ジャンゴ・ラインハルトの曲でジプシーの血が流れる陰と陽、その陽が勝った明るい曲想の<夢の城 (Manoir De Mes Reves)>は、常に陽が射しているような隠れたる名曲だ。<バラ色の人生 (La Vie en Rose)>に至っては終始何の曲やらてんで分からず、最後の最後でやっとテーマが現われるという心憎い構成。聴きなれたフレーズが飛び出した瞬間奇跡的名演となった。
7月7日、年に一度一枚でいいからこういった作品に出会うことを願って止みません。
-NO.587-
★大阪証券取引所★
大阪北浜の交差点にある大阪証券取引所は東京・名古屋と並び日本三大証券所であり、このシンボルである円形のエントランスは改築後もちゃんと遺されている。正面に鎮座する銅像は五代友厚で、大阪経済を立て直すため商工業の組織化や信用秩序の再構築を図った“大阪の恩人”と称される人物。