ブームというといつかは捨てられ忘れ去られ、幾ばくか時を経れば懐かしさとなりまた現れる。一人のミュージシャンなり一人の著述家なり毎年のようにマイ・ブームが訪れ一気呵成蒐集に奔走しまくるのだ。そういったなかマイ・フェイバリット・ミュージシャンはいっぱい居るわけだが、新譜が発表されるのを心待ちにしているとなるとホント僅か。その僅かな一人がブラッド・メルドーだ。
もう若手と言っては失礼か。とは言いつつもまだまだ未来有望視されつづける若きピアニストと称しておこう。そこまで言い切ったからには実際の歳が気になるでしょう、1970年生まれだから、おう今年でもう40か。スタジオ盤としては4年ぶりとなる新作『ハイウェイ・ライダー(Highway Rider )』 は、古きフランス映画におけるフィルムの匂いが立ち込めているようなサウンドだ。30代の彼は普通に作品を創ることはせず、常に捨て身の覚悟を伴っていたような気がする。この新作の場合、此処だ。
<John Boy>は彼お得意のトリオ演奏をことごとく逸脱し、フィルム・ノアール的オーケストレイションをなびかせる。最後ジョシュア・レッドマンのソプラノがするりと脳裏を過ぎって欺き笑ってらぁな。<At The Tollbooth>から<Highway Rider>へと続くくだりにおいて、神の子すなわち神童と呼ばれたデューイの子、ジョシュア・レッドマンとは旧知の仲といえどここでは丁々発止の様相を呈した。しかし、危うく落涙しそうになるほどの軽やかな矛盾が生じる。綺羅を張っただろうと決めつけていたナンバー、自分が彼に対する常識がいかに独りよがりのものだったのかを知らされる。
アルバムは2枚組とあって半神半鬼となって容赦なく襲い掛かってくる。広大無辺の時空を彷徨う<Sky Turning Grey For Elliott Smith>はどこか牧歌的であるジョシュアのテナーに心温まろう。本作品一番の出来とみた。あのキース・ジャレット率いるヨーロピアン・カルテットを髣髴とさせる身のこなしは、僕のココロの急所を衝いてきた。ただ漠然と過ごした今日、彼らの果敢な挑戦と僕の勇気ある敗北が最高にスウィートな一日に変えてくれたのだ。
-NO.582-
★中之島公園の戦橋とマスト★
中之島公園の東端に帝国海軍通報艦「最上」の艦橋とマストがひっそりと保存されている。上空(地図上)から見ると中之島公園自体大きな戦艦に見える。その船首と目されるところにマストが立てられており、まさにあの映画【タイタニック】を体現できる秘密の場所らしい。NO.580で紹介した天神橋からループ状階段を降りたところに位置する。