ひとつ前に「ホテル・カリフォルニア」による70年代ロックのジャズ・クラシック化について書いたばかりだが、そのついでにと今回は近代ロックのクラシック化に情熱を注いでいる才女レイチェル・Zの新作について少々。
私の記憶浅きところではブラッド・メルドーがカバーしたレディオ・ヘッドの「イグジット・ミュージック」がいの一番にその手のものでは出てくる。これが最も新しいロックのカバーではないかと私は思っていた。というか、私自身がロックに情熱を傾けた時代は80年代初頭、人気絶頂だったザ・ポリスの自然消滅を持ってともに終焉を迎えたのだからそれ以降のロック周辺については自然と勝手に耳にしたこと以外は曲もバンド名もほとんど知らない。
何年か一度にドカ~ンとブチかましてくれるのがジャズ・ピアニストのレイチェルZだ。この度の彼女の新作『I Will Possess Your Heart』でのロック・カバーは、一人を除いてどれも知らないナンバーだ。たぶんそれらはオリジナルを聴いてもピンとこないだろうし好きになることも100%無いと思う。事実、前述したレディオ・ヘッドもそうだったからだ。しかし、ジャズ・ミュージシャン達がそれらのマテリアルを練磨、加工、研磨し、D・エリントンなどの古典的スタンダード・ナンバーにそっと添い寝させるようにアルバムの片隅に置くことがある。ところがこのアルバムはザ・スミス、アリス・イン・チェインズ、コールドプレイ、デペッシュ・モード、デス・キャブ・フォー・キューティー、ドゥンエン、ストーン・テンプル・パイロッツ、ザ・キラーズとほぼ21世紀の代表する新鋭ばかり。仕事で先様へ行った折に、ずらっと7、8人並ばれて次々と名刺交換したあとのジグソーパズル状態と同じで、そう易々と覚えられるものではない。全10曲中、1曲だけスタンダードが在るのみ。
そんな困惑顔の私に愛想振りまいてくれる一曲がニール・ヤング作<ハート・オブ・ゴールド(孤独の旅路)>、蒼ざめ硬直した私の全身をみるみるうちに解きほどいてくれる。あのN・ヤングの雄弁たる節はどう片付けるのか、あの乾ききったケニー・バットレーのスネアの響きはどうだ。今にも崩れ堕ちそうな柔な心を救い給うブルース・ハープは何処へ。そのような心配を他所にここではリスナーへ向かって勇往邁進してくる。彼女に訊いてみたいと思う、N・ヤングの一曲はただたんに好きだったのか、それとも私のような小父さんたちを騙し召し捕ろうとしたのか。でも召し捕られ恍惚の表情を浮かべる小父さんたちも、彼女が教えてくれた21世紀ロックを賞賛して止まないハズ。
ザ・スミス作<ゼア・イズ・ア・ライト・ザット・ネヴァー・ゴーズ・アウト>の純なメロディの洪水、アリス・イン・チェインズの<アングリー・チェア>における爆発力に富んだイントロ、<ホエン・ユー・ワー・ヤング>なんてのはいかにもスタンダード・ナンバー風な曲名でしっかりと60年代ジャズに衣替えさせている。どれも原曲を知らないっていうのが幸いしていると思うが、ザ・スミスの超有名らしきアルバム【ザ・クイーン・イズ・デッド】なんぞは聴いてみたくもなる。
追伸:この作品は雑誌【ジャズ批評 3月号】にマイ・ベスト・ジャズ・アルバム2009と称した特集に私自身が投稿した推薦文(137頁)が載っていますので、お暇なお方はお手にとってみてください。またお金があるからと油断し、レジへ颯爽とお持ちになった挙句そのような雑誌をお買い求めならないようお気をつけください。ナニセ壱千弐百六拾円モイタシマス。それを承知でお買いになるのであれば、この上愉しいジャズ雑誌はなかろうかと存じます。
-NO.572-
★ハードロック・カフェ 上野★
ハードロック・カフェが上野駅構内にあるのは何だか異様な感じさえする。が、妙に納得させられるのは朝のモーニング・セットに因るところが大きい。ホットドッグ・セットなどどれもお値打ちでボリュームもたっぷり、昼飯さえもいらないくらいの腹持ちが約束される。