私は趣味として音楽を愛でているわけですが、その範疇は演歌であったりクラシックであったり、ジャズもロックも何でもござれが嘘偽りのない本音である。本来趣味というものは百人百様の選択から成り立ち、その妙を競い合うか誇りあうかというところに一つの本質があるのではと。カナダ出身の美形ジャズ・シンガー、ダイアナ・クラールは強烈に私のこころを砕くピアノも演じてくれるのだから、空恐ろしい女である。ダイアナ・クラールを推す者たちはカナダが生んだ隣のお姉さん的な歌姫とするか、カナダが育んだビター・スイートなピアニストとするか、そんなことがデビュー間もないころファンの間では論争までにもなった。今ではファンのほとんどが超売れっ娘シンガーとして、グラミー賞受賞者、また数年前に目出度く公私に渡る良き伴侶エルビス・コステロを得た音楽的期待と話題性に注目したのだ。ここで私は敢えてピアニストとしての彼女を追ってみようと思う。アルバムは2004年の『THE GIRL IN THE OTHER ROOM』だ。
1曲目の<Stop This World>の雰囲気は何だ! 十二分にコステロの影響がモロ出ていてなかなか面白い、この後のナンバーへもワクワク期待が膨らむ。イントロからして大昔のギャング映画を匂わせるハードボイルド感が今更ながら可愛い。低いトーンで酔いどれが街中を徘徊するような遣り取りは、彼女にまとわりついた過去のイメージを取り除くには最適であろう。それらバックを支えるのはベースのクリスチャン・マクブライドにドラムのピーター・アースキンと贅を尽くした陣容である。呆気にとられたのは旦那のオリジナル<Temptation>だ。好きだ。こう言う曲はたまらんねぇ。コステロに程遠い私でも彼を触りまくりたくなるほど打ちのめされたナンバーだ。肝心のピアノはというと、目立った働きはしていないが、目立たないなりにアーシーな空気を作り出すのに大きく貢献している。それに絡みつくようなアンソニー・ウィルソンの乾いたギターも素晴らしいの一言だ。
これまたコステロの影響か、ジョニ・ミッチェルの<Black Crow>でしてやったりの表情が浮かぶ間奏部、痛快弾けるピアノ・ソロが聴ける。さて9曲目からこのアルバムにおける夫婦共同作業の美曲群がつづく。今後も歌いつづけられニュー・スタンダードともなり得る<Narrow Daylight>は本盤最大のハイライト。2分50秒からの至福のソロはそれまでの最上のヴォーカルをも凌ぎ、全身が渇きを覚えるほどヒリヒリしてくる。そしてもはやジャズの枠を越えたナンバーの<Abandoned Masquerade>、弾き、語る、まさに弾き語りの宝庫<I'm Coming Through>は優しく、<Departure Bay>はなめらかに甘~い調べ。それぞれ二人の成せる業である。おっと危ない、聴いているうちにピアノから耳が離れてしまったみたいだ。それくらい歌もぐ~んと巧くなっている。でも、でもだ、ダイアナの妙と誇り、やはりピアノにあると想う私が好きである。
-NO.459-
【懐古園・小諸城址】
この懐古園は春は桜、秋は紅葉が見事である。黒門橋を渡るとこの本丸跡へ、その先には眼下を縦横無尽に走る千曲川を望むことができる。晩秋には島崎藤村が愛した小諸へどうぞ。