僕にとって辛いことは好きでもない盤を取り上げて〝座右の銘盤〟などと褒め称えること。簡潔に言えば、今回ご紹介するピーター・バーンスタインの『ストレンジャー・イン・パラダイス』は、僕にとって座右の銘盤というには程遠い代物なのだ。じゃあ何故取り上げるのかというとゴーギャンだからなのだ。このジャケットこそゴーギャンが孤高の楽園画家と呼ばれるに相応しい画であり、この風味豊かな色彩だけは現在行われているゴーギャン展のどの作品にも負けないと思うからである。ではジャケットだけで座右の銘盤と成り得るのかと言えば、成って当たり前、性懲りもなくジャケ買いの精神を貫くこと大いに喜ばしいのだ。
知らないお方のために書いておこう、リーダーはギタリストのピーター・バーンスタイン。驚くのはサイドメンの雄姿たち。今現在シンバルを叩かせば随一のビル・スチュワートに孤高のピアニストのブラッド・メルドーと彼のトリオ・リズム・キーパーのラリー・グレナディア(ベース)。注目すべきはビルのシンバル・ワークとメルドーの彼らしからぬプレイだ。
3曲目A・C・ジョビン作「ルイーザ」。ラテン・ナンバーのくせに黒光りしている。誰のせいかといえばピアノのメルドーだ。こんなに黒いメルドーはかつて聴いたことがない。同系のエバンスが時折見せたものとは比べ物にならないほどメルドーの場合は黒くなることに徹している。そんならしからぬメルドーのブルージーに横溢するピアノは、まだ表面をそっと撫でただけにすぎなかった。6曲目「ジャスト・ア・ソート」で遂にビルが咆える。退屈極まりない8分半にもおよぶこの曲、残り1分半ばからビシバシとしゃしゃり出てくるでは。残すところあと30秒、シンバルのみに近い演奏をただ無心に打ち続けたのである。静かに熱いビルのシンバルに平伏す。最後にメルドー最良のソロはラスト「オータム・ノクターン」2分から起こるダウン・アースな響き。らしからぬメルドーもまた善かろう。
-NO.532-
【ゴーギャン展・東京国立近代美術館】
本邦初公開“我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこに行くのか”は縦3.7M×横14Mにもなる。ゴーギャンは多くをこの画に描こうとしたのか、はたまた瞬時に捉えた画がこれほどまでの情報量を必要としたのかは定かでない。はっきりと言えることは、今までこの画が日本未公開であったこと自体が不思議でならない。東京国立近代美術館では9月23日までゴーギャン展を開催。
注)2009年9月23日にて終了