1980年代初頭におけるジャズ・シーンに異変が興りつつあったと同時に、僕の中でジャズと向き合うスタンスもその潮流に逆らうことはなかった。70年代一世を風靡したフュージョン界も、その時いまだ隆盛を極めており、このステップスの面々もフュージョン界きっての腕利きミュージシャンばかりだった。
リーダー格のヴァイブ奏者マイク・マイニエリ、名曲“ラブ・プレイ”の作者でもあり、ここでも自在なメロディ・メーカーぶりを発揮している。深町純とのセッションでド肝を抜かれたドラム・ソロは、今でも鮮烈に脳裏に焼きついて離れない。今をもっても彼を超えるドラマーを知らない、というか僕の中で最高のドラムマンでずっといて欲しいのだ。ベースにはビル・エヴァンスとの共演歴を持つエディ・ゴメス。強いていうなれば、ジャズ・フィールドでの実績の多さではバンドNO.1でしょう。さすがエヴァンス・トリオ出身とあってベースでメロディを紡ぎだす術は知っており、実に多感多彩なベース・ラインだこと。しかし、問題は残す二人である。
テナーのマイケル・ブレッカーとピアニストのドン・グロルニックの故人のお二人だ。何と嘆こうがいらっしゃらないのであるがゆえ、どうにかして欲しいという哀願のみ存在する。マイケル・ブレッカーはさほど好き嫌いはないものの、僕のライブラリーには縁がない。しかし近年、あのマイケルに純粋にジャズ・スタンダードを奏でさせると空気は一変し、恍惚の音のみあたりを彷徨いはじめる。本当の姿を知ったそんな矢先の他界だった。そしてドン・グロルニック。ちょっぴり太めの体型からは想像しがたいくらい、ピュアで繊細なピアノを聴かせてくれた。このアルバム『ステップ・バイ・ステップ』で「アンクル・ボブ」と「シックス・パーシモンズ」の2曲(アルバム全5曲)を提供。特に「アンクル・ボブ」はモダン・ジャズとフュージョンの狭間を行き交うなか、4分ちょうどからドン・グロルニックにして1分半の独壇場と化す。つづくマイニエリやゴメスの珠玉のソロさえ霞んでしまうほどの名演奏だ。そして古の京都、暑い夏の夜、祇園祭りのお囃子が聴こえてくる裏路地。それを静寂の闇へ、華やいぐ動きさえもゆるりと、異国の5人によって袋小路へと追いやられるマイニエリ作「KYOTO」が白眉。意識が薄れてゆくようなエンディングに腰砕けになる。僕が京都出身だからといって贔屓目にするわけじゃないが、この曲自身生涯ベスト10に入れるに疑わない。4曲目「ブレット・トレイン」はまさしく弾丸列車の形相。ドンドン突き進んでゆく列車に飛び乗ろうとすると、スルッと上手くかわされたりとグロルニックのコンポーザーとしての力量と巧さが抜きん出ている作品。列車の長さとメガトン級の重量感をマイケルが最初の一吹きで示す。列車が疾走するさまはマイニエリの巧みなマレット捌きで。
これらを来日時に録音させたというから日本のレコード会社さんも大したもんだよね。
-NO.525-
【地球屋】
“地球屋”とは何とも奇妙な店名なんであろうか。三鷹駅よりバスに揺られること20分。野川緑地にひっそり佇む蕎麦屋こそが“地球屋”。小上がりに座り、妙に落ち着く感じがたまらなくいい。近くには調布飛行場、水車小屋にあの蕎麦で有名な深大寺がある。それにしてもこの“地球屋”の看板の素朴さが、この店の凡てを物語っている。