寸分の狂いも見せないアルバムがある。どういう意味だとお思いの方もいらっしゃろう。一言でいえば、これを超える作品は今後永久的に世に現れないであろうくらい素晴らしいということ。そうだ、100点満点。101点でも120点あってもならぬ、とにかく揺るぐことのない100点満点丁度なのだ。
具体的に申しますとまずメンバーがよろしい。選ばれし5つのナンバーもいい、もちろん曲順もこの配置しかない。ジャケットも文字を配列しただけで、その色合い、文字数、フォントの大きさ、書体までもが完璧。収録されたナンバーをそれぞれこと細かく書きしたためてしまうと一冊の本となってしまうのではと私は想像する。よく野球やゴルフ漫画でたった一打席の対決や1ホールを1、2週もかけているのと同じと思っていただければお分かりでしょう。私もいつかこの連載が終わる記念すべき最終回には、一枚のアルバムを原稿用紙(四百字詰)100枚(4万文字)くらいは書くんだと意気込んでいますが・・・その第一候補がこのキース・ジャレット・トリオの『スタンダーズ Vol.1』だったのです。実はこの作品を取り上げるのは初めてでなく、今はなき某サイトの記念すべき第4話で登場しております。そのときは文字数の制限もあってまさかの139文字。その文字数にまとめるのはアレコレ書きたい気持ちとは裏腹に難しく、反対にいざ4万文字で書きなさいと云われてもそう易々と書けるもんじゃない。とりあえずはいつものペースでと筆を進めることとしましょう。
このアルバムは当時LPレコードで手にしました。レコードというのは針を落してから一呼吸ある。針と盤が擦れる音があって、第一音が現れる。CDとはその【間・雰囲気】が大きく違うのだ。でも意図的に成されたのか? CDにもその【間】があった。1曲目「ミーニング・オブ・ザ・ブルース」、キースの第一音はおよそ1.5秒経って現れる。キースのものの見事なイントロにつづき、ゲイリー・ピーコックのベースが幹をつたうように絡むまでの約24秒は息をのむほど美しい。そして朦朧とするなか気付けばいつの間にやらディジョネットのドラムが私の神経の隅々までゆきわたっていた。何ともドラマティックで、誰も成し得ないそこに到達した達成感にも似た喜びが演奏する者と聴く者双方に芽生えた記録だ。この時のレコーディングでは3枚のアルバムが録られ、本盤と『同 Vol.2』『チェンジズ』はキースのとめどなく溢れる既成曲へのアイデアを一気に録り留めたのだった。
全5曲、15分を超えるナンバーもあるが、決して長くはない。7分辺りではまだ8分もあるのだという安心感さえ感じる。とても幸せな15分なのだ。たった一秒たりとて無駄な部分はない。その「ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド」は幾多のヴァージョンをも否定するかのようにまったく新しい息吹が与えられた。この曲はドラムが主役となっており、キースはディジョネットを意識してかお得意のゴスペル調で挑んだのが功を奏している。それに応えるべくディジョネットのドラミングは力強く正確無比なリズムを叩き続け、キースは主旋律を如何に、どう終わりを迎えるかただそれだけを考えながら本番で弾いている。徐々に盛り上げていく展開はどの曲にも共通しており、聴く者を熱くさせる。ホント、口説き上手とでも言っておこう。
今回は400字詰原稿用紙3枚と264文字、すなわち1381文字、奇しくも「ミーニング・オブ・ザ・ブルース」でキースが右手で奏でる音符数と同じだとしたら貴方はどうする?
-NO.501-
【覚王山アパート】
昭和の時代、高度成長期に建てられた大型団地やアパートメント。その姿も消しつつあるが、とてもお洒落なスポットとして再利用されている。この覚王山アパートもそのひとつで、中に入ると4、5店舗ところ狭しと可愛らしいお店がある。若き現代アート作品が陽の目を浴びるところとしても有名。自分の家にいるような何ともいえぬ居心地の良さが癖になります。