さてジャズ界の功労者としてノーベル賞に値するお方(会社)が日本にいらっしゃる。一人は大阪の澤野商会、もう一人が東京はガッツ・プロダクションだ。いずれもヨーロッパ・ジャズを中心に、埋もれ忘れ去られた名盤や、人知れずこの世でスポットライトを浴びることなく消えてしまいそうな名盤を発掘、紹介してくれ続けているのだ。ヨーロッパ・ジャズ・ブームの火付け役と言ってもいいだろう。
今回はその前者、澤野商会が今日の成功に到るきっかけをもたらした作品、通称《子供》と呼びならされたベント・エゲルブラダの『A Boy Full Of Thoughts』(1988年) である。さあ何といっても皆さんはこのジャケットに目を奪われてしまうだろう。鉛筆でデッサンした子供の横顔、何を想うのだろうか。社長でもある澤野氏が、会社の命運をかけて送り出すには少し懲りすぎではと思うくらいの珍盤であり、何せ暗さの残るスウェーデンのジャズ。しかしジャズ・ファンにとっては寝耳に水、驚きと感謝の意を込め大ベストセラーとしてしまうのだ。澤野は初めから勝算ありだったとみる。CDのパッケージはプラケースが蔓延る今日に、デジパックと申すLP感覚の紙ジャケ風にし、手に取ったときの感触からリスナーの心を鷲掴みにした。そしてジャケット・デザイン。澤野の作品にはアーティスティックなデザインが多く、いかにもヨーロッパらしくまるで絵の展覧会でも見ているようだ。たしかに澤野の諸作品を並べて個展をやっても遜色ないほどの内容。そしてもっとジャズ・ファンを強く惹きつけたのは、変っていて読めない知らぬミュージシャンの名前だ。長年ジャズとつき合ってくると、何となく名前や曲名である程度の予測がつくようになる。ジャケット、名前、曲名で僕は予想をつけた。
ベント・エゲルブラダ1932年生まれのベテラン・ピアニスト、一般的には知らないのが普通だ。澤野からはこれを機に3枚を発表したが、残念ながら2002年の『Sweet And Lovely』が遺作となった。澤野商会の躍進、ヨーロッパ・ジャズの普及、そして多くの隠れたるジャズ・ミュージシャン、数多のジャズ・ファンに高らかに宣言した曲が1曲目のタイトル・ナンバー「A Boy Full Of Thoughts」だ。イントロでガァ~ンガァ~ンガァ~ンと鍵盤を叩き、この世に警鐘を鳴らすが如くこの1曲が前述のすべてを変えてしまったのは間違いない事実。日本人の琴線にふれるメロディ、何百回も聴いてみてよ涙枯れるまで。結果は予想した通り、いや予想を遥かに超える素晴らしい内容だった。今となって「The Blue Road」というトラッド・ナンバーを、彼の魂とともに彼のレクイエムとしたい。あの警鐘は今日のジャズを救ったのだろうか・・・
-NO.475-
【牡丹の総持寺】
むびょうたん霊場(西国薬師霊場第三十一番礼所)で有名な総持寺は、まこと見事な牡丹が咲き誇っている。見ごろは4月下旬から5月初旬。花も大きく、色がしっかりとしている。何てたってここの牡丹は可愛いよ。